行政書士試験民法改正【第514条(債務者の交替による更改)】
第514条(債務者の交替による更改)
債務者の交替による更改は、債権者と更改後に債務者となる者との契約によってすることができる。この場合において、更改は、債権者が更改前の債務者に対してその契約をした旨を通知した時に、その効力を生ずる。
2 債務者の交替による更改後の債務者は、更改前の債務者に対して求償権を取得しない。
『(補足説明)1 現行民法は,債務者の交替による更改及び債権者の交替による更改の規定を置いている。更改によって当事者の交替を行うことは,債務引受や債権譲渡が認められていなかった時代には重要な意義を有していたが,今日では,債権譲渡による債権者の交替が明文上可能とされており,免責的債務引受による債務者の交替も判例・学説において可能とされ,今般の見直しによって,明文の規定を設けることが検討対象となっている(部会資料38第1,1[1頁])。また,更改による当事者の交替は,旧債務の消滅によって抗弁を消滅させながらも,担保権を存続させ得るという点で(民法第518条),債権譲渡や免責的債務引受とはその効果が異なるとも言われるが,債権譲渡や免責的債務引受を利用する場合でも,当事者間の合意によって同様の法律関係を作り出すことが可能であり,今日では,更改によって当事者の交替を行う意義は乏しいと理解されている。パブリック・コメントに寄せられた意見を見ても,当事者の交替のための法律構成として,更改による当事者の交替が積 極的に利用されているという指摘は特に見られず(部会資料33-3[395頁]),当事者を交替させるための法律構成としては更改以外のものが利用されることが一般的である。さらに,更改による当事者の交替の制度があることによって,当事者が交替する旨の合意がされた場合の法律関係をかえって分かりにくくするおそれがあるほか,更改による当事者の交替の制度が債権譲渡や免責的債務引受に関する規定の適用を潜脱するために利用されるおそれがあるとも指摘されている。 以上の点を考慮し,本文の第1パラグラフでは,更改による当事者の交替について定めた民法第514条から第516条までを削除することを提案している。2 当事者を交替する旨の合意が更改に含まれないという整理をした場合には,理論的には,更改による当事者の交替に相当する内容の合意がされたときの効力が問題となり得る。このような合意が更改に当たらないとすると,無因の債務負担行為の有効性を疑問視する見解との関係で,この合意が無因の債務負担行為に当たるとして,無効とされるおそれがあるのではないかという問題意識である。そして,このような問題意識からは,合意の有効性をめぐる実務上の混乱の回避に万全を期する見地から,債権者の交替による更改に相当する内容の合意があった場合には債権譲渡の合意があったものとみなし,債務者の交替による更改に相当する内容の合意があった場合には免責的債務引受の合意があったものとみなす旨の規定を設けるべきであるという立法提案が示されている(参考資料1[検討委員会試案]・191頁)。 しかし,更改による当事者の交替に関する規定を削除することによって実務上の混乱が生ずることへの懸念については,今後も実情把握に留意する必要があるが,現時点では,更改による当事者の交替が積極的に利用されているという指摘は見られず,必ずしも現実的な懸念ではないように思われる。また,この提案が実際に適用される場面は,契約の解釈によっては債権譲渡又は免責的債務引受と解することができない場合であると考えられるが,そのような実際上の例は容易には想定し難い上,意図的に債権譲渡又は免責的債務引受であると解釈することのできない合意をした当事者の意思に反して,法が後見的に合意の有効性を担保する必要性も十分に示されているようには思われない。以上の考慮に基づき,本文では,更改による当事者の交替に相当する合意の有効性を担保する規定は,設けないことを提案している。3 なお,上記とは別の観点からの意見として,更改による当事者の交替という制度は歴史上古くから存在しており,諸外国の現代的な金融取引でもこのような法的構成が利用されることがあるので,更改による当事者の交替に関する規定を単純に削除するだけでは,それに相当する合意の有効性について疑義が生ずるおそれがあるとして,上記の立法提案のような規定を設けることを支持する意見がある。もっとも,仮にこの意見の問題意識を踏まえるのであれば,上記の立法提案のような規定を設けるのではなく,むしろ,更改による当事者の交替に関する規定は引き続き存置した上で,債権譲渡又は免責的債務引受と同内容の規律に服する旨の規定を設けることも考えられる。』
民法514条から516条までの法制審議会のやりとり,民法(債権関係)部会資料,一部抜粋