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令和5年行政書士試験過去問解説 道路をめぐる国家賠償

【令和5年行政書士試験出題】

【問題】道路をめぐる国家賠償に関する最高裁判所の判決について説明する次の記述のうち、妥当なものはどれか。

1 落石事故の発生した道路に防護柵を設置する場合に、その費用の額が相当の多額にのぼり、県としてその予算措置に困却するであろうことが推察できる場合には、そのことを理由として、道路管理者は、道路の管理の瑕疵によって生じた損害に対する賠償責任を免れ得るものと解するのが相当である。

2 事故発生当時、道路管理者が設置した工事標識板、バリケードおよび赤色灯標柱が道路上に倒れたまま放置されていたことは、道路の安全性に欠如があったといわざるをえず、それが夜間の事故発生直前に生じたものであり、道路管理者において時間的に遅滞なくこれを原状に復し道路を安全良好な状態に保つことが困難であったとしても、道路管理には瑕疵があったと認めるのが相当である。

3 防護柵は、道路を通行する人や車が誤って転落するのを防止するために設置されるものであり、材質、高さその他その構造に徴し、通常の通行時における転落防止の目的からみればその安全性に欠けるところがないものであったとしても、当該転落事故の被害者が危険性の判断能力に乏しい幼児であった場合、その行動が当該道路および防護柵の設置管理者において通常予測することができなくとも、営造物が本来具有すべき安全性に欠けるところがあったと評価され、道路管理者はその防護柵の設置管理者としての責任を負うと解するのが相当である。

4 道路の周辺住民から道路の設置・管理者に対して損害賠償の請求がされた場合において、当該道路からの騒音、排気ガス等が周辺住民に対して現実に社会生活上受忍すべき限度を超える被害をもたらしたことが認定判断されたとしても、当該道路が道路の周辺住民に一定の利益を与えているといえるときには、当該道路の公共性ないし公益上の必要性のゆえに、当該道路の供用の違法性を認定することはできないものと解するのが相当である。

5 走行中の自動車がキツネ等の小動物と接触すること自体により自動車の運転者等が死傷するような事故が発生する危険性は高いものではなく、通常は、自動車の運転者が適切な運転操作を行うことにより死傷事故を回避することを期待することができるものというべきであって、金網の柵をすき間なく設置して地面にコンクリートを敷くという小動物の侵入防止対策が全国で広く採られていたという事情はうかがわれず、そのような対策を講ずるためには多額の費用を要することは明らかであり、当該道路には動物注意の標識が設置され自動車の運転者に対して道路に侵入した動物についての適切な注意喚起がされていたということができるなどの事情の下においては、高速道路で自動車の運転者がキツネとの衝突を避けようとして起こした自損事故において、当該道路に設置または管理の瑕疵があったとはいえない。


【昭和45年8月20日,最高裁判所第1小法廷,損害賠償請求】

【判事事項】

一、国道への落石の事故につき道路の管理にかしがあると認められた事例

二、国家賠償法2条1項に基づく損害賠償責任と過失の要否


【裁判要旨】

一、国道に面する山地の上方部分が崩壊し、土砂とともに落下した直径約1メートルの岩石が、たまたま該道路を通行していた貨物自動車の運転助手席の上部にあたり、その衝撃により、助手席に乗つていた者が即死した場合において、従来右道路の付近ではしばしば落石や崩土が起き、通行上危険があつたにもかかわらず、道路管理者において、「落石注意」の標識を立てるなどして通行車に対し注意を促したにすぎず、道路に防護柵または防護覆を設置し、危険な山側に金網を張り、あるいは、常時山地斜面部分を調査して、落下しそうな岩石を除去し、崩土のおそれに対しては事前に通行止めをするなどの措置をとらなかつたときは、通行の安全性の確保において欠け、その管理にかしがあつたものというべきである。

二、国家賠償法2条1項による営造物の設置または管理のかしに基づく国および公共団体の損害賠償責任については、過失の存在を必要としない。


【昭和50年6月26日,最高裁判所第1小法廷,損害賠償請求】

【判事事項】

県道上に工事標識板赤色灯標柱などが倒れ赤色灯が消えたままであつても道路の管理に瑕疵がないとされた事例


【裁判要旨】

県道上に道路管理者の設置した掘穿工事中であることを表示する工事標識板、バリケード及び赤色灯標柱が倒れ、赤色灯が消えたままになつていた場合であつても、それが夜間、他の通行車によつて惹起されたものであり、その直後で道路管理者がこれを原状に復し道路の安全を保持することが不可能であつたなど判示の事実関係のもとでは、道路の管理に瑕疵がなかつたというべきである。


よく出題される道路管理に瑕疵がある場合の判例↓

【昭和50年7月25日,最高裁判所第3小法廷, 損害賠償請求】

【判事事項】

国道上に駐車中の故障した大型貨物自動車を約87時間放置していたことが道路管理の瑕疵にあたるとされた事例


【裁判要旨】

幅員7・5メートルの国道の中央線近くに故障した大型貨物自動車が約87時間駐車したままになつていたにもかかわらず、道路管理者がこれを知らず、道路の安全保持のために必要な措置を全く講じなかつた判示の事実関係のもとにおいては、道路の管理に瑕疵があるというべきである。


【昭和53年7月4日,最高裁判所第3小法廷,損害賠償】

【判事事項】

営造物の通常の用法に即しない行動の結果生じた事故と営造物の設置管理の瑕疵


【裁判要旨】

営造物の通常の用法に即しない行動の結果事故が生じた場合において、その営造物として本来具有すべき安全性に欠けるところがなく、右行動が設置管理者において通常予測することのできないものであるときは、右事故が営造物の設置又は管理の瑕疵によるものであるということはできない。

『ところで、国家賠償法2条1項にいう営造物の設置又は管理に瑕疵があつたとみられるかどうかは、当該営造物の構造、用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的個別的に判断すべきものであるところ、前記事実関係に照らすと、本件防護柵は、本件道路を通行する人や車が誤つて転落するのを防止するために被上告人によつて設置されたものであり、その材質、高さその他その構造に徴し、通行時における転落防止の目的からみればその安全性に欠けるところがないものというべく、上告人の転落事故は、同人が当時危険性の判断能力に乏しい6歳の幼児であつたとしても、本件道路及び防護柵の設置管理者である被上告人において通常予測することのできない行動に起因するものであつたということができる。したがつて、右営造物につき本来それが具有すべき安全性に欠けるところがあつたとはいえず、上告人のしたような通常の用法に即しない行動の結果生じた事故につき、被上告人はその設置管理者としての責任を負うべき理由はないものというべきである。本件道路の設置又は管理に所論の瑕疵はないとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。』


【平成7年7月7日,最高裁判所第2小法廷,国道43号・阪神高速道路騒音排気ガス規制等】

【判事事項】

一 一般国道等の道路の周辺住民が受けた自動車騒音の屋外騒音レベルの認定に違法はないとされた事例

二 一般国道等の道路の周辺住民がその供用に伴う自動車騒音等により受けた被害が社会生活上受忍すべき限度を超えるとして右道路の設置又は管理に瑕疵があるとされた事例

三 自動車騒音によるいわゆる生活妨害を被害の中心として多数の被害者から一律の額の慰謝料が請求された場合についての受忍限度を超える被害を受けた者とそうでない者とを識別するための基準の設定に違法はないとされた事例


【裁判要旨】

一 一般国道等の道路の周辺住民がその供用に伴う自動車騒音にほぼ一日中暴露されている場合、右道路の周辺地域を交通量によって三地域に道路構造によって四区画に分類した上、右道路端からの遠近や右道路への見通しの程度に基づき、周辺住民を合計19のグループに分け、鑑定の結果を基本にして、右グループごとに上限と下限の等価騒音レベルによる数値を抽出し、その幅のある数値をもって同一のグループに属する各住民が日常暴露された原則的な屋外騒音レベルと推認することに違法はない。

二 一般国道等の道路の周辺住民がその供用に伴う自動車騒音等により睡眠妨害、会話、電話による通話、家族の団らん、テレビ・ラジオの聴取等に対する妨害及びこれらの悪循環による精神的苦痛等の被害を受けている場合において、右道路は産業物資流通のための地域間交通に相当の寄与をしているが、右道路が地域住民の日常生活の維持存続に不可欠とまではいうことのできないいわゆる幹線道路であって、周辺住民が右道路の存在によってある程度の利益を受けているとしても、その利益とこれによって被る被害との間に、後者の増大に必然的に前者の増大が伴うというような彼此相補の関係はないなど判示の事情の存するときは、右被害は社会生活上受忍すべき限度を超え、右道路の設置又は管理には瑕疵があるというべきである。

三 一般国道等の道路の供用に伴う自動車騒音によるいわゆる生活妨害を被害の中心とし、多数の被害者から全員に共通する限度において各自の被害につき一律の額の慰謝料が請求された場合について、受忍限度を超える被害を受けた者とそうでない者とを識別するため、被害者の居住地における屋外等価騒音レベルを主要な基準とし、右道路端と居住地との距離を補助的な基準としたのは、侵害行為の態様及び被害の内容との関連性を考慮したものとして不合理ではなく、この基準の設定に違法はない。


【平成22年3月2日,最高裁判所第3小法廷,損害賠償請求事件】

【判事事項】

北海道内の高速道路で自動車の運転者がキツネとの衝突を避けようとして自損事故を起こした場合において,小動物の侵入防止対策が講じられていなかったからといって上記道路に設置又は管理の瑕疵があったとはいえないとされた事例


【裁判要旨】

北海道内の高速道路で自動車の運転者がキツネとの衝突を避けようとして自損事故を起こした場合において,(1)走行中の自動車が上記道路に侵入したキツネ等の小動物と接触すること自体により自動車の運転者等が死傷するような事故が発生する危険性は高いものではないこと,(2)金網の柵を地面との透き間無く設置し,地面にコンクリートを敷くという小動物の侵入防止対策が全国で広く採られていたという事情はうかがわれず,そのような対策を講ずるためには多額の費用を要することは明らかであること,(3上記道路には動物注意の標識が設置されていたことなど判示の事情の下においては,上記(2)のような対策が講じられていなかったからといって,上記道路に設置又は管理の瑕疵があったとはいえない。


【試験ポイント】✨

長期記憶のコツとして,「高知県国道落石事故事件」等,事件名で覚え,さらに「瑕疵がある場合の判例」で覚えておくと楽です!
1✖【昭和45年8月20日,最高裁判所第1小法廷,損害賠償請求】,平成21年出題の記事は,こちら。平成25年出題の記事は,こちら。令和元年出題の記事は,こちら
2✖【昭和50年6月26日,最高裁判所第1小法廷,損害賠償請求】,よく出題される道路管理に瑕疵がある場合の判例【昭和50年7月25日,最高裁判所第3小法廷, 損害賠償請求】も要注意!
3✖【昭和53年7月4日,最高裁判所第3小法廷,損害賠償】
4✖【平成7年7月7日,最高裁判所第2小法廷,国道43号・阪神高速道路騒音排気ガス規制等】
5〇【平成22年3月2日,最高裁判所第3小法廷,損害賠償請求事件】


【河川をめぐる国家賠償の判例】↓

【大東水害訴訟:昭和59年1月26日,最高裁判所第一小法廷,損害賠償】↓

【判事事項】

一 河川管理についての瑕疵の有無の判断基準

二 改修計画に基づいて改修中の河川と河川管理の瑕疵の有無


【裁判要旨】

一 河川の管理についての瑕疵の有無は、過去に発生した水害の規模発生の頻度、発生原因、被害の性質降雨状況、流域の地形その他の自然的条件、土地の利用状況その他の社会的条件、改修を要する緊急性の有無及びその程度等諸般の事情を総合的に考慮し、河川管理における財政的、技術的及び社会的諸制約のもとでの同種・同規模の河川の管理の一般水準及び社会通念に照らして是認しうる安全性を備えていると認められるかどうかを基準として判断すべきである。

二 改修計画に基づいて現に改修中である河川については、右計画が、全体として、過去の水害の発生状況その他諸般の事情を総合的に考慮し、河川管理の一般水準及び社会通念に照らして、格別不合理なものと認められないときは、その後の事情の変動により未改修部分につき水害発生の危険性が特に顕著となり、早期の改修工事を施行しなければならないと認めるべき特段の事由が生じない限り、当該河川の管理に瑕疵があるということはできない。


【多摩川水害訴訟:平成2年12月13日,最高裁判所第一小法廷,損害賠償】↓

【判事事項】

一 工事実施基本計画に準拠して新規の改修、整備の必要がないものとされた河川における河川管理の瑕疵

二 河川の改修、整備がされた後に水害発生の危険の予測が可能となった場合における河川管理の瑕疵

三 河道内に許可工作物の存在する河川部分における河川管理の瑕疵


【裁判要旨】

一 工事実施基本計画に準拠して新規の改修、整備の必要がないものとされた河川における河川管理の瑕疵の有無は、同計画に定める規模の洪水における流水の通常の作用から予測される災害の発生を防止するに足りる安全性を備えているかどうかによって判断すべきである。

二 河川の改修、整備がされた後に水害発生の危険の予測が可能となつた場合における河川管理の瑕疵の有無は、過去に発生した水害の規模、発生の頻度、発生原因、被害の性質、降雨状況、流域の地形その他の自然的条件、土地の利用状況その他の社会的条件、改修を要する緊急性の有無及びその程度等諸般の事情並びに河川管理における財政的、技術的、社会的諸制約をその事案に即して考慮した上、右危険の予測が可能となつた時点から当該水害発生時までに右危険に対する対策を講じなかったことが河川管理の瑕疵に該当するかどうかによって判断すべきである。

三 河道内に許可工作物の存在する河川部分における河川管理の瑕疵の有無は,当該河川部分の全体について、判断すべきである。