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行政書士試験過去問憲法解説 裁判官分限法

【令和元年行政書士試験出題】

【問題】動物愛護や自然保護に強い関心を持つ裁判官A氏は、毛皮の採取を目的とした野生動物の乱獲を批判するため、休日に仲間と語らって派手なボディペインティングをした風体でデモ行進を行い、その写真をソーシャルメディアに掲載したところ、賛否両論の社会的反響を呼ぶことになった。事態を重く見た裁判所は、A氏に対する懲戒手続を開始した。このニュースに関心を持ったBさんは、事件の今後の成り行きを予測するため情報収集を試みたところ、裁判官の懲戒手続一般についてインターネット上で次の1~5の出所不明の情報を発見した。このうち、法令や最高裁判所の判例に照らし、妥当なものはどれか。


1 裁判官の身分保障を手続的に確保するため、罷免については国会に設置された弾劾裁判所が、懲戒については独立の懲戒委員会が決定を行う。

2 裁判官の懲戒の内容は、職務停止、減給、戒告または過料とされる。

3 司法権を行使する裁判官に対する政治運動禁止の要請は、一般職の国家公務員に対する政治的行為禁止の要請よりも強い。

4 政治運動を理由とした懲戒が憲法21条に違反するか否かは、当該政治運動の目的や効果、裁判官の関わり合いの程度の3点から判断されなければならない。

5 表現の自由の重要性に鑑みれば、裁判官の品位を辱める行状があったと認定される事例は、著しく品位に反する場合のみに限定されなければならない。


【試験ポイント】✨

1✖ 憲法78条,裁判官分限法3条,6条,裁判所法49条の懲戒事由のとき

2✖ 裁判官分限法2条 戒告又は1万円以下の過料

3〇 平成10年12月1日,最高裁判所大法廷,裁判官分限事件の決定に対する即時抗告。

4✖ 裁判官分限事件には、憲法82条1項は適用されない。

5✖ 平成30年10月17日,最高裁判所大法廷,裁判官に対する懲戒申立て事件


【平成10年12月1日,最高裁判所大法廷,裁判官分限事件の決定に対する即時抗告】

【判事事項】

一 裁判所法52条1号にいう「積極的に政治運動をすること」の意義

二 裁判官が積極的に政治運動をすることを禁止する裁判所法52条1号と憲法21条1項

三 裁判官が積極的に政治運動をしたとされた事例

四 裁判官が積極的に政治運動をしたことがその職務上の義務に違反するとして当該裁判官に対し戒告がされた事例

五 裁判官分限事件への憲法82条1項の適用の有無

六 民事訴訟又は非訟の手続において期日に立ち会う代理人の数を制限することの可否


【裁判要旨】

一 裁判所法52条1号にいう「積極的に政治運動をすること」とは、組織的、計画的又は継続的な政治上の活動を能動的に行う行為であって裁判官の独立及び中立・公正を害するおそれがあるものをいい、具体的行為の該当性を判断するに当たっては、行為の内容、行為の行われるに至った経緯、行われた場所等の客観的な事情のほか、行為をした裁判官の意図等の主観的な事情をも総合的に考慮して決するのが相当である。

二 裁判官が積極的に政治運動をすることを禁止する裁判所法52条1号の規定は、憲法21条1項に違反しない。

三 裁判官が、その取扱いが政治的問題となっていた法案を廃案に追い込もうとする党派的な運動の一環として開かれた集会において、会場の一般参加者席から、裁判官であることを明らかにした上で、「当初、この集会において、盗聴法と令状主義というテーマのシンポジウムにパネリストとして参加する予定であったが、事前に所長から集会に参加すれば懲戒処分もあり得るとの警告を受けたことから、パネリストとしての参加は取りやめた。自分としては、仮に法案に反対の立場で発言しても、裁判所法に定める積極的な政治運動に当たるとは考えないが、パネリストとしての発言は辞退する。」との趣旨の発言をした行為は、判示の事実関係の下においては、右集会の参加者に対し、右法案が裁判官の立場からみて令状主義に照らして問題のあるものであり、その廃案を求めることは正当であるという同人の意見を伝えるものというべきであり、右集会の開催を決定し右法案を廃案に追い込むことを目的として共同して行動している諸団体の組織的、計画的、継続的な反対運動を拡大、発展させ、右目的を達成させることを積極的に支援しこれを推進するものであって、裁判所法52条1号が禁止している「積極的に政治運動をすること」に該当する。

四 裁判官が積極的に政治運動をしたことは、裁判所法49条所定の懲戒事由である職務上の義務違反に該当し、当該行為の内容、その後の態度等判示の事情にかんがみれば、当該裁判官を戒告することが相当である。

五 裁判官分限事件には、憲法82条1項は適用されない。

六 民事訴訟又は非訟の手続を主宰する裁判所は、その手続を円滑に進行させるために与えられた指揮権に基づいて、期日を開く場所の収容能力、当該期日に予定されている手続の内容、裁判所の法廷警察権ないし指揮権行使の難易等を考慮して、必要かつ相当な場合には、期日に立ち会う代理人の数を合理的と認められる限度にまで制限することができる。


判例は,こちら


【平成30年10月17日,最高裁判所大法廷,裁判官に対する懲戒申立て事件】

【判事事項】

1 裁判所法49条にいう「品位を辱める行状」の意義

2 裁判官がインターネットを利用して短文の投稿をすることができる情報ネットワーク上で投稿をした行為が裁判所法49条にいう「品位を辱める行状」に当たるとされた事例


【裁判要旨】

1 裁判所法49条にいう「品位を辱める行状」とは,職務上の行為であると,純然たる私的行為であるとを問わず,およそ裁判官に対する国民の信頼を損ね,又は裁判の公正を疑わせるような言動をいう。

2 裁判官がインターネットを利用して短文の投稿をすることができる情報ネットワーク上で投稿をした行為は,次の(1)~(3)など判示の事情の下においては,裁判所法49条にいう「品位を辱める行状」に当たる。

(1)当該投稿は,これをした者が裁判官の職にあることが広く知られている状況の下で行われた。

(2)当該投稿は,判決が確定した当該裁判官の担当外の民事訴訟事件に関し,その内容を十分に検討した形跡を示さず,表面的な情報のみを掲げて,私人である当該訴訟の原告が訴えを提起したことが不当であるとする一方的な評価を不特定多数の閲覧者に公然と伝えるものであった。

(3)当該投稿は,上記原告が訴訟を提起したことを揶揄するものともとれるその表現振りとあいまって,同人の感情を傷つけるものであった。(2につき補足意見がある。)


判例は,こちら


【憲法】↓

第78条
裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の弾劾によらなければ罷免されない。裁判官の懲戒処分は、行政機関がこれを行ふことはできない。


【裁判所法】↓

第49条(懲戒)
裁判官は、職務上の義務に違反し、若しくは職務を怠り、又は品位を辱める行状があつたときは、別に法律で定めるところにより裁判によつて懲戒される。


【裁判官分限法】↓

第2条(懲戒)
裁判官の懲戒は、戒告又は1万円以下の過料とする。

第3条(裁判権)
各高等裁判所は、その管轄区域内の地方裁判所、家庭裁判所及び簡易裁判所の裁判官に係る第一条第一項の裁判及び前条の懲戒に関する事件(以下分限事件という。)について裁判権を有する。
② 最高裁判所は、左の事件について裁判権を有する。
一 第1審且つ終審として、最高裁判所及び各高等裁判所の裁判官に係る分限事件
二 終審として、高等裁判所が前項の裁判権に基いてした裁判に対する抗告事件

第4条(合議体)
分限事件は、高等裁判所においては、5人の裁判官の合議体で、最高裁判所においては、大法廷で、これを取り扱う。

第6条(事件の開始)
分限事件の裁判手続は、裁判所法第80条の規定により当該裁判官に対して監督権を行う裁判所の申立により、これを開始する。