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Q 使用者が賃金を相殺したと言って,賃金を支払わない。

使用者が労働者の債務不履行又は不法行為を理由とする損害賠償債権を自働債権として労働者の賃金債権と相殺することは,できるのでしょうか。

A 賃金の全額払い原則としてダメ!

【昭和31年11月2日,最高裁判所第二小法廷,給料等請求事件】

【判事事項】

賃金債権に対する相殺の許否


【裁判要旨】

使用者は、労働者の賃金債権に対しては、損害賠償債権をもつて相殺をすることも許されない。

労働基準法24条1項は、賃金は原則としてその全額を支払わなければならない旨を規定し、これによれば、賃金債権に対しては損害賠償債権をもつて相殺をすることも許されないと解するのが相当である。ところで、上告人の本訴請求は、上告人がその主張の期間被上告会社に勤務したことに基く整理手当及び給料の支払を求めるというのであつて、賃金の支払を求めるものと解されるにかかわらず、原判決は、上告人がその主張の債権を有する事実を確定しながら、被上告会社の上告人に対する判示損害賠償債権による相殺の抗弁を容れて、上告人の本訴請求を排斥した。すなわち、原判決の認定によれば、
(1)上告人は昭和17年10月頃から同25年4月末日まで被上告会社に勤務していた。
(2)同24年10月1日から同25年4月末日までの上告人の給料は1箇月5千円、毎月末日払の約であつた。
(3)被上告会社は営業不振のため同24年2月末日休業したが、当時従業員に対する給料の未払分があつたので、その支払のため、上告人は被上告会社代表者の依頼により、在庫品の売却及び半製品の仕上販売等の任に当つた。
(4)同24年8月17日会社事業が再開されると同時に上告人は取締役に就任したが、その際被上告会社は上告人に対し右休業中の整理手当として1箇月7千円を支払う旨を約した。
(5)ところが、被上告会社は右(4)の整理手当及び(2)の給料の各一部を支払つただけで残りの支払をしないので、上告人は被上告会社に対し、その未払分合計3万8千880円64銭の債権を有する、というのである。以上の事実によれば、右債権中(2)のいわゆる給料は取締役としての報酬であつて賃金とはいえないとしても、(4)のいわゆる整理手当は賃金に外ならないと解せられるにかかわらず、原判決がその金額を確定することなく、漫然右債権の全額につき被上告会社の判示損害賠償債権による相殺の意思表示を有効と認め、これにより右債権は消滅したものと判断したのは、法律の適用を誤つた結果審理不尽理由不備の違法を犯したものとなさざるをえない。よつて、上告理由5 項は結局理由があるに帰し、原判決は破棄を免れないから、民訴407条に従い主文のとおり判決する。』


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【労働基準法】↓

第24条(賃金の支払)
賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
② 賃金は、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第89条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。