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行政書士過去問 憲法【昭和38年6月26日,ため池の保全に関する条例違反】

【平成29年行政書士試験出題】

【問題】次の記述は、ため池の堤とう(堤塘)の使用規制を行う条例により「ため池の堤とうを使用する財産上の権利を有する者は、ため池の破損、決かい等に因る災害を未然に防止するため、その財産権の行使を殆んど全面的に禁止される」ことになった事件についての最高裁判所判決に関するものである。判決の論旨として妥当でないものはどれか。

1 社会生活上のやむを得ない必要のゆえに、ため池の堤とうを使用する財産上の権利を有する者は何人も、条例による制約を受忍する責務を負うというべきである。

2 ため池の破損、決かいの原因となるため池の堤とうの使用行為は、憲法でも、民法でも適法な財産権の行使として保障されていない。

3 憲法、民法の保障する財産権の行使の埓外にある行為を条例をもって禁止、処罰しても憲法および法律に抵触またはこれを逸脱するものとはいえない。

4 事柄によっては、国において法律で一律に定めることが困難または不適当なことがあり、その地方公共団体ごとに条例で定めることが容易かつ適切である。

5 憲法29条2項は、財産権の内容を条例で定めることを禁じているが、その行使については条例で規制しても許される。


【昭和38年6月26日,最高裁判所大法廷,ため池の保全に関する条例違反】

【判事事項】

奈良県ため池の保全に関する条例(昭和29年奈良県条例第38号)第4条第2号、第9条(所定のため池の堤とうに竹木若しくは農作物を植える等の行為をした者を3万円以下の罰金に処するとしたもの)の合憲性。


【裁判要旨】

奈良県ため池の保全に関する条例(昭和29年奈良県条例第38号)第4条第2号、第9条は、憲法第29条第2項、第3項に違反しない。

『大阪高等検察庁検事長代理次席検事田辺光夫の上告趣意について。
一 先ず、本条例制定の趣旨および本件において問題となつている本条例の条項の法意を考えてみるに、記録によると、奈良県においては、一三、〇〇〇に余まるかんがいの用に供する貯水池が存在しているが、県下ならびに他府県下における貯水池の破損、決かい等による災害の事例に徴し、その災害が単に所有者にとどまらず、一般住民および滞在者の生命財産にまで多大の損傷を及ぼすものであることにかんがみ、且つ、貯水池の破損、決かいの原因調査による科学的根拠に基づき、本条例を制定公布したものであることを認めることができる。そして、本条例は、「ため池の破損、決かい等に因る災害を未然に防止するため、ため池の管理に関し必要な事項を定めることを目的(1条)とし、本条例においてため池とは「かんがいの用に供する貯水池であつて、えん堤の高さが三米以上のもの又は受益農地面積が一町歩以上のものをいう(2条1号)とされているところ、本条例4条においては、右1条の目的を」達成するため、右2条のため池に関し、何人も「ため池の余水はきの溢流水の流去に障害となる行為(1号」)、「ため池の堤とうに竹木若しくは農作物を植え、又は建物その他の工作物(ため池の保全上必要な工作物を除く)を設置する行為(2号、」) 「前各号に掲げるものの外、ため池の破損又は決かいの原因となる行為 (3号)を」 してはならないとすると共に同9条においては、右第4条の規定に違反した者は、「3万円以下の罰金に処する」ものとしている。すなわち、本条例4条は、ため池の破損、決かい等による災害を防止し、地方公共の秩序を維持し、住民および滞在者の安全を保持するために、ため池に関し、ため池の破損、決かいの原因となるような同条所定の行為をすることを禁止し、これに違反した者は同9条により処罰することとしたものであつて、結局本条例は、奈良県が地方公共団体の条例特定権に基づき、公共の福祉を保持するため、いわゆる行政事務条例として地方自治法2条2項、14条1項、2項、5項により制定したものであることが認められる。また、本条例3条によれば国または地方公共団体が管理するため池には同5条ないし8条は適用しないが、しからざるため池には、ひろく本条例が適用されることとなつているから本条例は、地方自治法2条3項1号、2号の事務に関するものと認められるところ、原判決の認定したところによれば、本件a池と称するため池は、周囲の堤とう六反四畝二八歩と 共に、登記簿上は、奈良県磯城郡b町大字a居住のA、B両名の所有名義となつているが、実質上は、同大字居住農家の共有ないし総有とみるべきもので、その貯水は、同大字の耕作地のかんがいの用に供され、受益農地面積は、三〇町歩以上に及び、その管理は、同大字の総代が当つているもので、周囲の堤とうは、同大字居住者約27名において 父祖の代から引き続いて竹、果樹、茶の木その他農作物の裁培に使用し、被告人らもまた同様であつたが、本条例の施行により、被告人らを除く他の者は、任意に栽培を中止したことが認められるというのである。
しからば本件ため池は、国または地方公共団体が自ら管理するものでないことが明らかであるから、本条例は、本件に関する限り、地方自治法2条3項1号の事務に関するものであり、また、ため池の破損、決かい等による災害の防止を目的としているから、同法2条3項8号の事務に関するものでもある(原判決が、本件に関し、本条例を同法2条3項2号の事務に関するものとし、これを前提として本条例の違憲、違法をいう点は、前提において誤つている。)。なお、本条例4条各号は、同条項所定の行為をすることを禁止するものであつて、直接には不作為を命ずる規定であるが、同条2号は、ため池の堤とうの使用に関し制限を加えているから、ため池の堤とうを使用する財産上の権利を有する者に対しては、その使用を殆んど全面的に禁止することとなり、同条項は、結局右財産上の権利に著しい制限を加えるものであるといわなければならない。 しかし、その制限の内容たるや、立法者が科学的根拠に基づき、ため池の破損、決かいを招く原因となるものと判断した、ため池の堤とうに竹木若しくは農作物を植え、または建物その他の工作物(ため池の保全上必要な工作物を除く)を設置する行為を禁止することであり、そして、このような禁止規定の設けられた所以のものは、本条例1条にも示されているとおり、ため池の破損、決かい等による災害を未然に防止するにあると認められることは、すでに説示したとおりであつて、本条例4条2号の禁止規定は、堤とうを使用する財産上の権利を有する者であると否とを問わず、何人に対しても適用される。ただ、ため池の堤とうを使用する財産上の権利を有する者は、本条例1条の示す目的のため、その財産権の行使を殆んど全面的に禁止されることになるが、それは災害を未然に防止するという社会生活上の已むを得ない必要から来ることであつて、ため池の堤とうを使用する財産上の権利を有する者は何人も、公共の福祉のため、当然これを受忍しなければならない責務を負うというべきである。
すなわち、ため池の破損、決かいの原因となるため池の堤とうの使用行為は、憲法でも、民法でも適法な財産権の行使として保障されていないものであつて、憲法、民法の保障する財産権の行使の埒外にあるものというべく、従つて、これらの行為を条例をもつて禁止、処罰しても憲法および法律に牴触またはこれを逸脱するものとはいえないし、また右条項に規定するような事項を、既に規定していると認むべき法令は存在していないのであるから、これを条例で定めたからといつて、違憲または違法の点は認められない。更に本条例9条は罰則を定めているが、それが憲法31条に違反するものでないことは、当裁判所の判例(昭和31年(あ)第4289号、同37年5月30日大法廷判決、刑集16巻5号577頁)の趣旨とするところである。
なお、事柄によつては、特定または若干の地方公共団体の特殊な事情により、国において法律で一律に定めることが困難または不適当なことがあり、その地方公共団体ごとに、その条例で定めることが、容易且つ適切なことがある。本件のような、ため池の保全の問題は、まさにこの場合に該当するというべきである。それ故、本条例は、憲法29条2項に違反して条例をもつては規定し得ない事項を規定したものではなく、これと異なる判断をした原判決は、憲法の右条項の解釈を誤つた違法があるといわなければならない。
二 次に、原判決は、条例をもつて権利の行使を強制的に制限または停止するについては、権利者の損失を補償すべきであるにかかわらず、本件において補償を与えた形跡が存在しないことも本条例を被告人らに適用し難い一理由としているのであるが、さきに説示したとおり、本条例は、災害を防止し公共の福祉を保持するためのものであり、その4条2号は、ため池の堤とうを使用する財産上の権利の行使を著しく制限するものではあるが、結局それは、災害を防止し公共の福祉を保持する上に社会生活上已むを得ないものであり、そのような制約は、ため池の堤とうを使用し得る財産権を有する者が当然受忍しなければならない責務というべきものであつて、憲法29条3項の損失補償はこれを必要としないと解するのが相当である。この点に関する原判決の判断は、前提において誤つているのみならず、結局憲法29条3項の解釈を誤つた違法あるを免れない。
三 以上の次第で、原判決は、憲法29条2項、3項の解釈を誤り、それを前提として本条例4条、9条は、被告人らにその効力は及ばないとして被告人らを無罪としたものであつて 失当たるを免れずこれらの点に関する論旨は結局理由あるに帰し、原判決はこれを破棄し、本件はこれを原審に差し戻すべきものである。


【憲法】↓

第29条 財産権は、これを侵してはならない。
② 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
③ 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。


【試験ポイント】✨

判例を知らなくても,憲法の条文を知っていれば,解ける問題です。よって,憲法の条文は理解しながら,全部覚えましょう。

1~4上記判例のとおり。憲法29条2項「財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。」であって,「財産権の内容を条例で定めることを禁じている」ものではない。

解答5