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行政書士試験民法改正【第658条(寄託物の使用及び第三者による保管)】

【旧民法】↓

民法第658条(寄託物の使用及び第三者による保管)
受寄者は、寄託者の承諾を得なければ、寄託物を使用し、又は第三者にこれを保管させることができない。
2 第105条及び第107条第2項の規定は、受寄者が第三者に寄託物を保管させることができる場合について準用する。


【新民法(改正後)】↓

第658条(寄託物の使用及び第三者による保管)
受寄者は、寄託者の承諾を得なければ、寄託物を使用することができない。
2 受寄者は、寄託者の承諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、寄託物を第三者に保管させることができない。
3 再受寄者は、寄託者に対して、その権限の範囲内において、受寄者と同一の権利を有し、義務を負う。


【出典 民法(債権関係)の改正に関する検討事項(12) 詳細版】↓

『(補足説明)
1 適法な再寄託による受寄者の保管義務の見直し
民法第658条第2項は,復代理に関する同法第105条を準用し,適法に再寄託がされた場合には,受寄者は,再受寄者の選任及び監督についてのみ責任を負うとしている。
しかし,この規定については,寄託者が,第三者が寄託物を保管するということについて承諾しただけで,受寄者の責任が限定される結果となるのは不当であると批判されている。その上で,受寄者がどのような責任を負うかという点については,当事者間の合意によって決せられるものであり,受寄者の負うべき責任が再受寄者の選任及び監督に限定されるのは,その旨の寄託者の承諾があった場合に限定されるべきであるという見解が有力に主張されている。このような問題意識を踏まえて,適法な再寄託がされた場合における受寄者の責任について,受寄者は,自ら寄託物を保管する場合と同様の責任を負うこととし,例外的に,寄託者の指名に従って再受寄者を選任したときに限り,民法第105条第2項ただし書の規律を維持する方向で見直すべきであるという考え方が提示されている。このような考え方について,どのように考えるか。
2 寄託者と再受寄者との間の直接請求権の見直し
民法第658条第2項は,同法第107条第2項も準用し,寄託者と再受寄者との間に相互の直接請求権を認めている。しかし,この規定については,その妥当性を疑問視する見解が主張されている。
すなわち,再委任の場合には,復受任者は,委任者の名で法律行為を行うことを受任者から委任されており,復受任者の行為の効果が直接委任者に帰属するのであるから,委任者と復受任者の間には委任関係があるとして,相互的に直接請求権を認めるのが適切である。
他方,再寄託の場合には,受寄者が自らの名で物の保管をするものであり,再受寄者の行為の効果が寄託者に直接帰属するという関係にないのであるから,寄託者と再受寄者との間に直接請求権を認める必要はないというのである。そもそも,この規定の立法過程においては,当初,起草者から,上記の趣旨の説明がされた上で,民法第107条第2項を準用しないという原案が提出されていたが,再寄託は寄託者の承諾がある場合に限られるから同項を準用するのが便利であろうという理由で,同項を準用する旨の修正案が可決されたという経緯があるが,このような立法過程についても,修正の理由が合理的ではないと批判されている。
また,このほかにも,再受寄者は,寄託者との関係では,受寄者の履行補助者に過ぎないとして,寄託者と再受寄者との間に直接請求権を認めるべきではないという批判もある。
以上のような批判を踏まえて,再寄託については,民法第107条第2項を準用せず,寄託者と再受寄者との間に直接請求権を認めないこととすべきであるという考え方が提示されている。このような考え方について,どのように考えるか。』


【出典 民法(債権関係)の改正に関する要綱案のたたき台(7)】↓

(説明)1 素案(1)について
(1)現状及び問題の所在 
民法第658条第1項は,受寄者の自己執行義務を定めるとともに,その例外として,寄託者の承諾を得た場合に,再寄託を行うことを認めている。受寄者が自己執行義務を負う理由は,寄託契約が,寄託者の受寄者に対する属人的な信頼を基礎とすることに基づくとされる。このため,例外として再寄託をすることができるのは,寄託者の承諾を得た場合に限定されている。
しかし,これでは,再寄託をする必要があるにもかかわらず,寄託者の承諾を得ることが困難な事情がある場合にも,再寄託をすることができないことになるため,適当ではないという批判がある。実務的には,個別に寄託者の承諾を得ることが困難である場合が想定されることから,「やむを得ない事由があるとき」には寄託者の承諾がなくても再寄託が認められる旨の規定を契約において設ける実例があると指摘されている(標準倉庫寄託約款第18条参照)
また,寄託と同様に人的信頼関係を基礎とする契約とされる委任において,委任者の承諾がない場合であっても,「やむを得ない事由があるとき」に復委任が認められると考えられている(民法第104条参照)ことと整合的でなく,寄託が属人的な信頼関係を基礎とする契約であるとしても,契約の相手方が承諾した場合以外に再寄託を認めることに問題はないとの指摘がある。
上記の指摘等を踏まえ,学説では,寄託についても,解釈によって,「やむを得ない事由があるとき」に再寄託ができるとすべきであるとする見解が有力に主張されている。
以上のような状況を踏まえ、再寄託をすることができる場合を拡張する方向で民法第658条第1項を改めることが必要である。
(2)改正の内容
素案(1)イは,上記の問題の所在を踏まえて,寄託者の承諾を得なくても,やむを得ない事由があるときには,再寄託をすることができることとして,民法第658条第1項を改めている。これは,現在の契約実務や有力な学説において再寄託が認められる場合を参照したほか,復委任をすることができる要件(部会資料72A第2,1)との整合性を考慮し,再寄託の要件を拡張することとしたものである。
素案(1)アは,受寄者の承諾がなければ寄託物を使用してはならないという民法第658条第1項の規律を維持するものである。
2 素案(2)について
(1)現状及び問題の所在
民法第658条第2項は,復代理に関する同法第105条を準用し,適法に再寄託がされた場合における受寄者の責任を軽減している。しかし,この規定については,第三者が寄託物を保管するということを寄託者が承諾しただけで,受寄者の責任が再受寄者の選任及び監督に限定される結果となるのは不当であるとの批判のほか,再受寄者が履行を補助する第三者なのだから,債務不履行に関する一般ルールが適用されるべきであり,これと異なるルールを設ける合理性が認められないとの批判がある。また,寄託者の承諾がない場合にも一定の要件の下で再寄託を許容することを前提とすると(前記(1)イ),緩和された再寄託の要件を充足することにより寄託者の承諾を得ないで適法に再寄託がされた場合について,受寄者の責任が限定されることを正当化することはより一層困難であると指摘されている。また,民法第105条自体について,今般の改正において削除することが提案されているところ(部会資料66A第2、3参照),寄託についてのみ現在の規律を維持することを正当化することは困難であるようにも思われる。 以上のように,民法第658条第2項については,同法第105条を準用することの当否が問題となる。
(2)改正の内容 
素案(2)は,民法第658条第2項における同法第105条を準用する部分を削除し,再寄託がされた場合における受寄者の責任について,履行を補助する第三者の行為に基づく責任に関する一般原則に委ねることとしている。
なお、パブリック・コメントの手続に寄せられた意見の中には,寄託者の再受寄者に対する直接請求権を認めないこととするために,民法第107条第2項を準用している部分をも削除すべきであるという意見があった。この意見は,再受寄者に直接請求権を認める必要性や合理性に乏しいという点を根拠とするものである。しかし,直接請求権が認められていることによって具体的な弊害が生じ得るとの指摘は特に見られなかったことや,復委任についても直接請求権を認める考え方が提示されていること(部会資料72A第2、1)との整合性などを考慮し, この点については現状を維持することとした。