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行政書士試験民法改正【第651条(委任の解除)】

【旧民法(改正前)】

第651条(委任の解除)
委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。
2 当事者の一方が相手方に不利な時期に委任の解除をしたときは、その当事者の一方は、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。


【新民法(改正後)】

第651条(委任の解除)
委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。
2 前項の規定により委任の解除をした者は、次に掲げる場合には、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。
一 相手方に不利な時期に委任を解除したとき。
二 委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く。)をも目的とする委任を解除したとき


【出典:民法(債権関係)の改正に関する検討事項(12)詳細版】

『(補足説明)
1 問題の所在 民法第651条は,委任は,各当事者がいつでも解除することができること(同条第1項),解除が相手方に不利な時期にされたときは,やむを得ない事由があるときを除き,解除した当事者は相手方の損害を賠償しなければならないこと(同条第2項)を規定している。つまり,条文上,損害賠償義務を負うことなく委任契約を解除することができる場合と,委任契約を解除することができるが相手方の損害を賠償しなければならない場合があるとされているのであるが,さらに,判例・学説上,委任契約を解除することができない場合もあるとされている。ただし,どのような場合に委任契約の解除権が否定されるかについては,判例にも変遷があるとされ,学説上も様々な見解が主張されている。
2 任意解除権の趣旨 
任意解除権の趣旨については,①委任は当事者の信頼関係を基礎とするものであり,信頼関係のない者の間で委任を継続させるのは相当でないことから,両当事者の任意解除権が導かれるという見解や,②任意解除権は,無償委任が完全な法的拘束力を付与され難いものであることに基づくものであるという見解などが主張されている。②の見解は,そのような理解を前提に,民法第651条の有償委任への適用を否定し,請負型では同法第641条が,雇用型では同法第627条,第628条が準則となるべきであり,賃貸借的要素を含む委任には信頼関係破壊法理が適用されるべきであるとしている。
3 任意解除権の行使についての判例及び学説
(1)委任における当事者の任意解除権をめぐっては,委任にはその事務処理が受任者の利益のためにされるものがあり,このような委任についても広く任意解除権が認められるかが議論されている。問題となるのは,例えば,Xが,Yに対し,XのZに対する債権の取立てを委任し,取立金額をYに対するXの債務の弁済に充てることを内容とする契約や,Xが所有する不動産の売却をYに委任し,その売却代金をYに対する債務の弁済に充てることを内容とする契約である。
(2)判例は,民法第651条は受任者が委任者の利益のためにのみ事務を処理する場合に適用されるものであり,事務の処理が受任者の利益をも目的とするときは,委任者は同条により委任を解除することができないとしている(大判大正9年4月24日民録26輯562頁)。Xは,Yに対して金銭債権を有していたが,Yに対し,XのZに対する債権の取立てを委任し,取立て金額の一部をYに対する手数料とした上で,この手数料をYのXに対する債務の弁済に充てることを合意したという事案に関するものである。
もっとも,判例は,事務処理が受任者の利益を目的としている場合にも委任者が任意解除権を行使することができる場合として,2つの場合を認めている。
第1は,受任者が著しく不誠実な行動に出た等やむを得ない事由がある場合である(最判昭和43年9月20日裁集民92号329頁)。経営不振に陥ったXが事業再建のため債権者の1人であるYに経営を委任したが,Yが独断で不動産の名義を変えるなどした事案に関するものである。
第2は,委任者が委任契約の解除権自体を放棄したものとは解されない事情があるときであり,解除によって受任者が被る不利益については損害賠償によって填補されれば足りるとされている(最判昭和56年1月19日民集35巻1号1頁)。Xが所有する住宅を賃貸してその管理をYに委託し,管理料を無償とする代わりに賃借人が差し入れた保証金をYが自由に利用できることとしていたところ,賃料増額交渉をめぐるトラブルからXが管理契約を解除した事案に関するものである。
(3)事務処理が受任者の利益をも目的とする場合の任意解除権の有無や,上記の裁判例の理解をめぐっては,学説は分かれている。上記判例の展開について,事務処理が受任者の利益をも目的とする場合に任意解除権を制限する方向から任意解除権を認める方向へと変遷してきたと理解した上で,委任事務が委任者にとって重要なものであり,委任を継続するかどうかの決定が委任者に留保されなければならない場合には,任意解除を認めることがむしろ契約目的にかなうとして,昭和56年判の判断枠組みを肯定的に評価するものがある。
他方,契約関係の継続性の価値は民法第651条第2項の損害賠償によっては十分に評価できないとして,任意解除権の安易な適用には慎重であるべきであると指摘する見解や,役務提供自体が役務提供者にとって重大な利益になる場合があるなどとして,昭和56年最判の立場を消極的に評価するものもある。
さらに,昭和56年最判は,民法第651条に基づくのではなく,継続的契約関係としての委任の性質に基づく解除権を認めたものと解し,この判決が認めた損害賠償も同条第2項の損害賠償とは異なると理解する見解もある。
4 立法提案
(1)以上を踏まえ,一つの考え方として,委任は各当事者がいつでも解除をすることができること,当事者の一方が相手方に不利な時期に委任の解除をしたときは,その当事者の一方は,やむを得ない事由がある場合を除き,解除によって相手方が被った損害を賠償しなければならないという規定は基本的に維持しながら,任意解除権を次のように制限する考え方が示されている(参考資料1・[検討委員会試案]・375頁)。まず,受任者には一定の裁量が与えられており,委任者にはこれをコントロ ールする権限を認める必要があることを指摘して,委任契約が委任者の利益だけでなく受任者の利益でもある場合であっても,委任者による解除を認めるが,解除によって受任者が被った損害を委任者に賠償させることにより,受任者の不利益にも配慮する(ただし,解除について正当な事由がある場合は損害賠償義務を負わない。)。昭和56年最判もこれと同様の立場であると理解できるとする。次に,さらに進んで委任契約が専ら受任者又は第三者の利益を図るものであるときは,委任者は,委任の目的に鑑み,受任者又は第三者の利益を委任者が尊重しなければならないから,やむを得ない事由がある場合を除き,委任を解除することができないとする。
(2)また,別の考え方として,有償委任においては,上記(1)の考え方と同様,任意解除権とそれが相手方に不利な時期に行使された場合の損害賠償義務に関する現在の規定を基本的に維持しつつ,当事者(受任者も含むと考えられる。)が任意解除権を放棄したと認められる事情があるときは委任を解除することができないこととし,他方,無償委任においては,解除権の放棄は書面をもってする必要がある(もっとも,この放棄をした場合であっても,正当な事由があるときは解除できるとする。)こととすべきであるとの考え方が提示されている(参考資料2[研究会試案]・215頁,217頁)。』


民法(債権関係)の改正に関する検討事項(12)詳細版一部引用,こちら