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地方上級 住居侵入罪 「正当な理由がないのに」は注意的に明示したものにすぎない

地方上級出題例

【問題】建造物侵入罪に関する次の記述ア~オのうちには判例に照らし妥当なものが二つある。それはどれか。


ア 建造物侵入罪の構成要件である「侵入」とは,他人の看守する建造物等に管理権者の意思に反して立ち入ることをいう。


イ 管理権者があらかじめ建造物への立ち入りを拒否する意思を積極的に明示していない場合,当該建造物の性質や使用目的,管理状況などから見て,現に行われた立入り行為を管理権者が容認していないと合理的に判断されるときでも,建造物侵入罪は成立しない。


ウ 現金自動預払機(ATM)が設置されているのみで行員が常駐しない銀行支店出張所に,ATM利用客のキャッシュカードの暗証番号等を盗撮する目的で,客を装って侵入した場合,建造物侵入罪が成立する。


エ 強盗の意図を隠して「こんにちは」と挨拶し,中にいる人が「お入り」と答えたのに応じて建物に入った場合,立入りに対する承諾があるので,建造物侵入罪は成立しない。


オ 政治的意見を記載したビラを郵便受けに投函する目的で他人の看守する建物に侵入した場合,憲法が保障する政治的表現活動の一環として違法性が阻却され,建造物侵入罪は成立しない。


1 ア,ウ

2 ア,エ

3 イ,ウ

4 イ,オ

5 エ,オ


【試験ポイント】✨

正解1

この過去問を作った人は非常に優秀な方ですね。そして,間違ってはいけないポイントを押さえています。特に,選択肢アの住居侵入罪の保護法益である「意思侵害説(住居権説)」と「平穏侵害説」をちゃんと理解しているかを問うてます。すばらしい~ 「侵入」の意義 住居権者の意思に反する場合は,侵入にあたる。

よくあるのが,条文の「正当な理由がないのに」を根拠に古典派の公務員試験三大人物(ハイドン・モーツアルト・ベートーヴェン)ベートーヴェンの曲がぴったりのジャジャジャ~ン「運命」で登場する人がいますね・・古典派3人衆は覚えましょうね。

しかし,この「正当な理由がないのに」は注意的に明示したものにすぎず,「なくてもよい言葉」なので何ら根拠になりません!いずれにしろ,一番重要なのが「侵入」です!


判例は,こちら

【平成20年4月11日,最高裁判所第2小法廷,住居侵入被告事件】

【判事事項】

1 管理者が管理する,公務員宿舎である集合住宅の1階出入口から各室玄関前までの部分及び門塀等の囲障を設置したその敷地が,刑法130条の邸宅侵入罪の客体に当たるとされた事例

2 各室玄関ドアの新聞受けに政治的意見を記載したビラを投かんする目的で公務員宿舎である集合住宅の敷地等に管理権者の意思に反して立ち入った行為をもって刑法130条前段の罪に問うことが,憲法21条1項に違反しないとされた事例


【裁判要旨】

1 管理者が管理する,職員及びその家族が居住する公務員宿舎である集合住宅の1階出入口から各室玄関前までの部分及び同宿舎の各号棟の建物に接してその周辺に存在し,かつ,管理者が外部との境界に門塀等の囲障を設置することにより,これが各号棟の建物の付属地として建物利用のために供されるものであることを明示しているその敷地(判文参照)は,刑法130条にいう「人の看守する邸宅」及びその囲にょう地として,邸宅侵入罪の客体になる。

2 各室玄関ドアの新聞受けに政治的意見を記載したビラを投かんする目的で,職員及びその家族が居住する公務員宿舎である集合住宅の共用部分及び敷地に,同宿舎の管理権者の意思に反して立ち入った行為(判文参照)をもって刑法130条前段の罪に問うことは,憲法21条1項に違反しない。


【平成25年行政書士試験出題】↓

『確かに,表現の自由は,民主主義社会において特に重要な権利として尊重されなければならず,被告人らによるその政治的意見を記載したビラの配布は,表現の自由の行使ということができる。しかしながら,憲法21条1項も,表現の自由を絶対無制限に保障したものではなく,公共の福祉のため必要かつ合理的な制限を是認するものであって,たとえ思想を外部に発表するための手段であっても,その手段が他人の権利を不当に害するようなものは許されないというべきである(最高裁昭和59年(あ)第206号同年12月18日第三小法廷判決・刑集38巻12号3026頁参照)。本件では,表現そのものを処罰することの憲法適合性が問われているのではなく,表現の手段すなわちビラの配布のために「人の看守する邸宅」に管理権者の承諾なく立ち入ったことを処罰することの憲法適合性が問われているところ,本件で被告人らが立ち入った場所は,防衛庁の職員及びその家族が私的生活を営む場所である集合住宅の共用部分及びその敷地であり,自衛隊・防衛庁当局がそのような場所として管理していたもので,一般に人が自由に出入りすることのできる場所ではない。たとえ表現の自由の行使のためとはいっても,このような場所に管理権者の意思に反して立ち入ることは,管理権者の管理権を侵害するのみならず,そこで私的生活を営む者の私生活の平穏を侵害するものといわざるを得ない。したがって,本件被告人らの行為をもって刑法130条前段の罪に問うことは,憲法21条1項に違反するものではない。このように解することができることは,当裁判所の判例(昭和41年(あ)第536号同43年12月18日大法廷判 決・刑集22巻13号1549頁,昭和42年(あ)第1626号同45年6月17日大法廷判決・刑集24巻6号280頁)の趣旨に徴して明らかである。所論は理由がない。』