令和5年行政書士試験過去問解説 国務請求権
【判事事項】
県教育委員会に対して請願をした者による,同教育委員会が,当該請願の要旨等につき記載した文書を同教育委員会の教育委員に配布する義務,当該請願を同教育委員会の会議において議題として上程する義務及び同会議において採択又は不採択の議決をする義務を負うことの確認を求める訴えが,却下された事例
【裁判要旨】
県教育委員会に対して請願をした者による,同教育委員会が,当該請願の要旨等につき記載した文書を同教育委員会の教育委員に配布する義務,当該請願を同教育委員会の会議において議題として上程する義務及び同会議において採択又は不採択の議決をする義務を負うことの確認を求める訴えにつき,これを官公署の事務処理上の行為規範を定めた請願法5条に基づく請願処理手続上の行為義務の確認を求めるものであると解した上,請願者は,自己が行った請願について官公署に対し審理を求め,あるいはその処理結果の通知等を求める権利を有しておらず,また,請願をしたことにより,当該官公署と請願者との間に特別な公法上の法律関係が生じるものでもないから,そのような請願処理手続上の行為が行われなかったとしても,請願者の権利や法的に保護された利益が害され,あるいは法的地位が不安定になることはなく,請願者にはそのような処理手続上の行為義務について,その確認を求める利益はないとして,前記訴えを却下した事例
【判事事項】
一 国会議員の立法行為と国家賠償責任
二 在宅投票制度を廃止しこれを復活しなかつた立法行為の違法性の有無
【裁判要旨】
一 国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらずあえて当該立法を行うというごとき例外的な場合でない限り、国家賠償法1条1項の適用上、違法の評価を受けるものではない。
二 在宅投票制度を廃止しこれを復活しなかつた立法行為は、国家賠償法1条1項にいう違法な行為に当たらない。
【判事事項】
非行事実が認められないことを理由とする不処分決定と刑事補償
【裁判要旨】
少年法23条2項による不処分決定は、非行事実が認められないことを理由とするものであっても、刑事補償法1条1項にいう「無罪の裁判」には当たらない。
【判事事項】
一 非訟事件手続法による過料の裁判の合憲性
二 前項の裁判に対する不服申立についての裁判の合憲性
【裁判要旨】
一 非訟事件手続法による過料の裁判は、憲法第31条、第32条、第82条に違反しない。
二 前項の裁判に対する不服申立についての裁判は、公開・対審の手続によらなくても、憲法第32条、第82条に違反しない。
『抗告人の抗告理由(抗告理由の補充を含む。)第一点及び第二点について。
民法46条が法人について一定の事項を登記すべきものとしているのは、権利主体たる法人の活動によつて生じる取引関係について、不測の損失や紛争を招来せしめないために、あらかじめ法人の組織に関する重要事項を一般に公示せしめることにしておく必要があるからである。従つて、その登記事項に変更を生じたときにも、一定の期間内にその登記をすることを義務づけ、これをしなければその変更を他人に対抗することができないものとしている。しかし、これらの登記を励行せしめるには、右の不利益をこうむらしめるだけではなお不十分であるとして、民法84条1号は、登記の懈怠に対して、秩序罰たる過料の制裁を科することにしている。これは、国家の法人に対するいわゆる後見的民事監督の作用として、法人に関する私権関係の形成の安全化を助長し、もつて私法秩序の安定を期することを目的としているものということができる。 右のような民事上の秩序罰としての過料を科する作用は、国家のいわゆる後見的民事監督の作用であり、その実質においては、一種の行政処分としての性質を有するものであるから、必ずしも裁判所がこれを科することを憲法上の要件とするものではなく、行政庁がこれを科する(地方自治法149条3号、255条の二参照)ことにしても、なんら違憲とすべき理由はない。従つて、法律上、裁判所がこれを科することにしている場合でも、過料を科する作用は、もともと純然たる訴訟事件としての性質の認められる刑事制裁を科する作用とは異なるのであるから、憲法82条、32条の定めるところにより、公開の法廷における対審及び判決によつて行なわれなければならないものではない。
ただ、現行法は、過料を科する作用がこれを科せられるべき者の意思に反して財産上の不利益を課するものであることにかんがみ、公正中立の立場で、慎重にこれを決せしめるため、別段の規定のないかぎり、過料は非訟事件手続法の定めるところにより裁判所がこれを科することとし(非訟事件手続法206条)、その手続についていえば、原則として、過料の裁判をする前に当事者(過料に処せられるべき者)の陳述を聴くべきものとし、当事者に告知・弁解・防禦の機会を与えており(同207条2項)、例外的に当事者の陳述を聴くことなく過料の裁判をする場合においても、当事者から異議の申立があれば、右の裁判はその効力を失い、その陳述を聴いたうえ改めて裁判をしなければならないことにしている(同208条ノニ)。
しかも、過料の裁判は、理由を付した決定でこれをすることとし(同207条1項)、これに不服のある者は即時抗告をすることができ、この抗告は過料の裁判の執行停止の効力を有するものとする(同条3項)など、違法・不当に過料に処せられることがないよう十分配慮しているのであるから、非訟事件手続法による過料の裁判は、もとより法律の定める適正な手続による裁判ということができ、それが憲法31条に違反するものでないことは明らかである。
論旨は、また、過料の決定に対する不服申立の手続において公開の対審が保障されていないことは憲法82条、32条に違反すると主張する。
しかし、本件のような秩序罰としての過料を非訟事件手続法の定めるところにより裁判所が科することにしているのが違憲でないことは、さきに説示したとおりであり、同法の定める手続により過料を科せられた者の不服申立の手続について、これを同法の定める即時抗告の手続によらしめることにしているのは、これまた、きわめて当然であり、殊に、非訟事件の裁判については、非訟事件手続法の定めるところにより、公正な不服申立の手続が保障されていることにかんがみ、公開・対審の原則を認めなかつたからといつて、憲法82条、32条に違反するものとすべき理由はない(裁判所のした過料の裁判を別訴の提起により覆えすことができないとした原決定の判断は正当といわなければならない。)。それゆえ、憲法82条、32条、31条違背の主張は、採用しがたく、憲法29条違反をいう点は、原決定の判断に憲法違反のあることを前提とするものであるから、右の説示によつて、その前提を欠くことになり、採用のかぎりでない。』
1✖【平成23年6月8日,東京高等裁判所,請願書不受理処分取消等請求控訴事件】,憲法16・17条「請願権の保障」は,請願を受けた機関にそれを誠実に処理する義務を課するにとどまり(請願法5条),請願の内容を審理・判定する法的拘束力を生ぜしめるものではない。」(芦部 信喜『憲法 第三版』234-235頁)
2✖【昭和60年11月21日,最高裁判所第一小法廷,損害賠償】
3〇 原文のまま,
【受益権(国務請求権)】
請願権(憲法16条)
国家賠償請求権(憲法17条)
裁判を受ける権利(憲法32条)
刑事補償請求権(憲法40条)まとめ記事は,こちら
4✖【平成3年3月29日, 最高裁判所第三小法廷,刑事補償及び費用補償請求事件についてした即時抗告棄却決定に対する特別抗告】
5✖【昭和41年12月27日,最高裁判所大法廷,過料決定に対する抗告棄却の決定に対する抗告】
第16条 何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。
第17条 何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。
第32条 何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。
第5条 この法律に適合する請願は、官公署において、これを受理し誠実に処理しなければならない。