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行政書士試験判例過去問 公序良俗および強行法規等の違反

【平成30年行政書士試験出題】

【問題】公序良俗および強行法規等の違反に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当でないものはどれか。

1 食品の製造販売を業とする者が、有害物質の混入した食品を、食品衛生法に抵触するものであることを知りながら、あえて製造販売し取引を継続していた場合には、当該取引は、公序良俗に反して無効である。

2 債権の管理または回収の委託を受けた弁護士が、その手段として訴訟提起や保全命令の申立てをするために当該債権を譲り受ける行為は、たとえそれが弁護士法に違反するものであったとしても、司法機関を利用して不当な利益を追求することを目的として行われた等の事情がない限り、直ちにその私法上の効力が否定されるものではない。

3 組合契約において、組合員はやむを得ない事由があっても任意に脱退することができない旨の約定が存する場合であっても、組合員の脱退に関する民法の規定は強行法規ではないから、かかる約定の効力が否定されるものではない。

4 契約が公序に反することを目的とするものであるかどうかは、当該契約が成立した時点における公序に照らして判断すべきである。

5 男子の定年年齢を60歳、女子の定年年齢を55歳とする旨の会社の就業規則は、経営上の観点から男女別定年制を設けなければならない合理的理由が認められない場合、公序良俗に反して無効である。


【昭和39年1月23日,最高裁判所第1小法廷,為替手形金請求】

【判事事項】

有毒性物質である硼砂を混入して製造したアラレ菓子の販売契約が民法第90条により無効とされた事例


【裁判要旨】アラレ菓子の製造販売業者が硼砂の有毒性物質であることを知り、これを混入して製造したアラレ菓子の販売を食品衛生法が禁止していることを知りながら、あえてこれを製造のうえ、その販売業者に継続的に売り渡す契約は、民法第90条により無効である。


【平成21年8月12日,最高裁判所第1小法廷,債権仮差押命令保全異議申立てについての決定に対する保全抗告棄却決定に対する許可抗告事件】

【判事事項】

債権の管理又は回収の委託を受けた弁護士が,その手段として本案訴訟の提起や保全命令の申立てをするために当該債権を譲り受ける行為の私法上の効力


【裁判要旨】

債権の管理又は回収の委託を受けた弁護士が,その手段として本案訴訟の提起や保全命令の申立てをするために当該債権を譲り受ける行為は,他人間の法的紛争に介入し,司法機関を利用して不当な利益を追求することを目的として行われたなど,公序良俗に反するような事情があれば格別,仮にこれが弁護士法28条に違反するものであったとしても,直ちにその私法上の効力が否定されるものではない。


【平成11年2月23日,最高裁判所第3小法廷,立替金返還等】

【判事事項】

やむを得ない事由があっても任意の脱退を許さない旨の組合契約における約定の効力


【裁判要旨】

やむを得ない事由があっても任意の脱退を許さない旨の組合契約における約定は、無効である。

一 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
1 上告人らと被上告人らは、平成2年11月ころ、一口100万円の出資をして共同でヨットを購入し、出資者が会員となり、ヨットを利用して航海を楽しむことなどを目的とするヨットクラブ(以下「本件クラブ」という。)を結成する旨の組合契約(以下「本件契約」という。)を締結した。なお、本件契約には、本件クラブの存続期間についての定めがない。
2 上告人らと被上告人らは、本件契約に基づいて合計14口の出資をし(上告人らの出資口数は各2口である。)、平成3年1月30日、ヨット一隻(以下「本件ヨット」という。)を1400万円で購入した。
3 本件契約の内容となる本件クラブの規約には、会員の権利の譲渡及び退会に関して、「オーナー会議で承認された相手方に対して譲渡することができる。譲渡した月の月末をもって退会とする。(これは、不良なオーナーをふせぐ為である。)」との規定(以下「本件規定」という。)がある。
4 本件規定が設けられたのは、本件クラブが、資産として本件ヨットを有するだけで、資金的・財政的余裕がなく、出資金の払戻しをする財源を有しないこと、本件クラブでは、会員の数が少ないと月会費や作業の負担が増えるので、会員の数を減らさないようにする必要があることによるものである。
二 上告人らは、本件において、被上告人らに対し、本件ヨットの係留権取得費用及び桟橋工事費の各立替金並びにこれらに対する遅延損害金のほか、平成3年8月に被上告人らに対して本件クラブから脱退する旨の意思表示をしたとして、当時の本件ヨットの時価額を各上告人の出資割合に応じて案分した額の組合持分の払戻金及びこれに対する遅延損害金をそれぞれ請求している。上告人らは、右意思表示をしたことにはやむを得ない事由がある、本件規定が会員の権利を譲渡する以外の方法による本件クラブからの任意の脱退を認めない趣旨であるとすれば、本件規定は公序良俗に反する、と主張している。
三 前記事実関係の下において、原審は、次のとおり判示して、上告人らの組合持分払戻金及びこれに対する遅延損害金の支払請求を棄却すべきものと判断した。
1 本件規定は、本件クラブからの任意の脱退は、会員の権利を譲渡する方法によってのみすることができ、それ以外の方法によることは許さない旨を定めたものである。
2 本件規定が設けられたことには、一4のとおり合理的な理由がある上、本件クラブの会員は、やむを得ない事由があるときは、本件クラブの解散請求をすることもできる。したがって、本件規定は、公序良俗に反するとはいえず、有効であり、上告人らが被上告人らに対して脱退の意思表示をしてもその効力を生じないから、その余の点について判断するまでもなく、上告人らの持分払戻金請求は理由がない。
四 しかしながら、原審の右三2の判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
1 民法678条は、組合員は、やむを得ない事由がある場合には、組合の存続期間の定めの有無にかかわらず、常に組合から任意に脱退することができる旨を規定しているものと解されるところ、同条のうち右の旨を規定する部分は、強行法規であり、これに反する組合契約における約定は効力を有しないものと解するのが相当である。けだし、やむを得ない事由があっても任意の脱退を許さない旨の組合契約は、組合員の自由を著しく制限するものであり、公の秩序に反するものというべきだからである。
2 本件規定は、これを三1のとおりの趣旨に解釈するとすれば、やむを得ない事由があっても任意の脱退を許さないものとしていることになるから、その限度において、民法678条に違反し、効力を有しないものというべきである。このことは、本件規定が設けられたことについて一4のとおりの理由があり、本件クラブの会員は、会員の権利を譲渡し、又は解散請求をすることができるという事情があっても、異なるものではない。
五 右と異なる見解に立って、やむを得ない事由の存否について判断するまでもなく上告人らの被上告人らに対する脱退の意思表示が効力を生じないものとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ず、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。これと同旨の論旨は理由があり、原判決中、上告人らの組合持分払戻金及びこれに対する遅延損害金の支払請求を棄却した部分は、その余の論旨について判断するまでもなく、破棄を免れず、やむを得ない事由の存否等につき更に審理を尽くさせる必要があるから、右部分を原審に差し戻すこととする。なお、上告人らは、原判決中、上告人らの被上告人らに対する立替金及びこれに対する遅延損害金の支払請求に係る部分について、上告理由を記載した書面を提出しないので、右部分に対する上告は、不適法であって、却下を免れない。 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。


【平成15年4月18日,最高裁判所第2小法廷,約定金,寄託金返還請求事件】

【判事事項】

1 法律行為が公序に反することを目的とするものであるかどうかを判断する基準時

2 証券取引法42条の2第1項3号が平成3年法律第96号による同法の改正前に締結された損失保証や特別の利益の提供を内容とする契約に基づく履行の請求をも禁止していることと憲法29条


【裁判要旨】

1 法律行為が公序に反することを目的とするものであるとして無効になるかどうかは,法律行為がされた時点の公序に照らして判断すべきである。

2 証券取引法42条の2第1項3号が,平成3年法律第96号による同法の改正前に締結された損失保証や特別の利益の提供を内容とする契約に基づいてその履行を請求する場合を含め,顧客等に対する損失補てんや利益追加のための財産上の利益の提供を禁止していることは,憲法29条に違反しない。


【昭和56年3月24日,最高裁判所第3小法廷,雇用関係存続確認等】

【判事事項】

定年年齢を男子60歳女子55歳と定めた就業規則中女子の定年年齢を男子より低く定めた部分が性別のみによる不合理な差別を定めたものとして民法90条の規定により無効とされた事例


【裁判要旨】

会社がその就業規則中に定年年齢を男子60歳、女子55歳と定めた場合において、担当職務が相当広範囲にわたつていて女子従業員全体を会社に対する貢献度の上がらない従業員とみるべき根拠はなく、労働の質量が向上しないのに実質賃金が上昇するという不均衡は生じておらず、少なくとも六〇歳前後までは男女とも右会社の通常の職務であれば職務遂行能力に欠けるところはなく、一律に従業員として不適格とみて企業外へ排除するまでの理由はないなど、原判示の事情があつて、会社の企業経営上定年年齢において女子を差別しなければならない合理的理由が認められないときは、右就業規則中女子の定年年齢を男子より低く定めた部分は、性別のみによる不合理な差別を定めたものとして民法90条の規定により無効である。


【試験ポイント】✨

上記判例のポイントをしっかりおさえましょう!

1〇 【昭和39年1月23日,最高裁判所第1小法廷,為替手形金請求】

2〇 【平成21年8月12日,最高裁判所第1小法廷,債権仮差押命令保全異議申立てについての決定に対する保全抗告棄却決定に対する許可抗告事件】

3✖ 【平成11年2月23日,最高裁判所第3小法廷,立替金返還等】

4〇 【平成15年4月18日,最高裁判所第2小法廷,約定金,寄託金返還請求事件】

5〇 【昭和56年3月24日,最高裁判所第3小法廷,雇用関係存続確認等】


【民法(改正対応)】

第678条(組合員の脱退)
組合契約で組合の存続期間を定めなかったとき、又はある組合員の終身の間組合が存続すべきことを定めたときは、各組合員は、いつでも脱退することができる。ただし、やむを得ない事由がある場合を除き、組合に不利な時期に脱退することができない。
2 組合の存続期間を定めた場合であっても、各組合員は、やむを得ない事由があるときは、脱退することができる。