行政書士試験民法改正【第520条の6(指図証券の譲渡における債務者の抗弁の制限)】
第520条の6(指図証券の譲渡における債務者の抗弁の制限)
指図証券の債務者は、その証券に記載した事項及びその証券の性質から当然に生ずる結果を除き、その証券の譲渡前の債権者に対抗することができた事由をもって善意の譲受人に対抗することができない。
『(補足説明)1 指図証券の譲渡時における抗弁の切断については,商法に規定が置かれていないところ,民法第472条は,指図債権の譲渡についてではあるが,証書に記載した事項及びその証書の性質から当然に生ずる結果以外の抗弁を,善意の譲受人に対して主張することができないとしている。指図債権と指図証券との異同については見解が対立しているが,商法の適用を受ける指図証券についても,民法第472条が適用されると解する見解が有力に主張されている。他方,手形法第17条や小切手法第22条にも,流通保護の観点から,人的抗弁が原則として切断される旨の規定が置かれている。そして,商法の適用を受ける指図証券については,これらの規定が類推適用されるという見解も主張されている。有価証券の譲渡において,抗弁の切断に関するルールは最も重要なものの一つであることから,民法に有価証券に関する通則的な規定を設ける場合には,この点についても規定を設けるべきであると考えられる。その際には,債権一般を表章する有価証券に適用されるべきものとして新たに設けられる規定について,以上のような見解の対立を踏まえて,民法第472条と手形法第17条等のいずれを参照すべきかということが問題となる。民法第472条と手形法第17条等とでは,①証券の性質から当然に生ずる結果についての抗弁の切断の可否,②抗弁の切断のための譲受人の主観的要件,③抗弁の切断のための譲受人の主観的要件の主張・立証責任の所在が異なるため,これらの問題についてどのように考えるかを検討する必要がある。2 民法第472条は,指図債権の証書に記載された事項のみならず,「その証書の性質から当然に生ずる結果」についても抗弁の切断の対象ではないとしているが,手形法等では,手形等が流通の保護を図る必要性が高い無因証券とされていることから,証券の性質から当然に生ずる結果については,抗弁の切断の対象となると考えられている。この点についての具体的な立法提案は,債権一般を表章する指図証券を適用対象とすることを前提に,指図証券の中には,ある指図証券に表示されている権利と有因の関係に立つ有因証券であるものが少なくないため,証券に表示されている権利の成否,内容の変動等は,証券上に記載が無い場合であっても,対抗できるとすべきであるとして,証券の性質から当然に生ずる結果については譲受人に対抗できるとすることを提案している。債権一般を表章する指図証券については,手形・小切手ほど,流通の保護を図る必要性は高くないと思われる上,指図証券について民法第472条が適用されているという見解に対しても,この規律内容が適用されることが問題であるとの指摘も特に見られない。以上の点に鑑み,本文では,この立法提案に沿った規定を設けることを提案している。3 抗弁が切断されるための主観的要件について,民法第472条は善意の譲受人に対抗できないとしているが,これに対して,手形法第17条等は「債務者ヲ害 スルコトヲ知リテ」手形等を取得した譲受人に人的抗弁を対抗できると規定している。この「債務者ヲ害スルコトヲ知リテ」の意義については,学説上,「取得者 が手形を取得するに当たり,その満期において,手形債務者が,取得者の直接の前者に対し,抗弁を主張することは確実だという認識を有していた場合」という見解が有力に主張されており,また,判例(最判昭和35年10月25日民集14巻12号2720頁)が,重過失の有無は問わないと判断している等,民法上の「悪意」(「善意」でない場合)より限定的な解釈がされている。 この点については,手形法等の「債務者ヲ害スルコトヲ知リテ」の意義に関する判例・学説の蓄積を踏襲することを意図して,この文言を承継することを提案する立法提案がある。債権一般を表章する有価証券についても,証券の券面から抗弁の有無を判断できないのであるから,手形や小切手等と同様に,抗弁を切断して証券の取得者を保護する必要性が認められるものと思われる。そこで,本文では,指図証券の所持人が債務者を害することを知って当該証券を取得したときに,抗弁が切断されるとすることを提案している。4 民法第472条は,抗弁が切断されるための主観的要件の主張・立証責任を手形の取得者に課しているが,これに対して,手形法第17条等は,債務者に主張・ 立証責任を課している。手形法第17条等は,手形の流通保護を図る観点から,抗弁が切断されるのを原則としているものであり,譲受人が人的抗弁の有無を指図証券の証券面から判断できないことからすると,その流通を保護するためには,抗弁が切断されることが原則であるという手形法等の構造を承継することが望ましいと思われる。以上のような考慮に基づき,本文では,譲受人が「債務者ヲ害スルコトヲ知リテ」指図証券を取得したことについて,債務者に主張・立証責任を課すことを提案している。5 なお,手形法第17条等では「前者ニ対スル人的関係ニ基ク抗弁」という用語が用いられているが,ここでいう「抗弁」には,原因関係の解除が含まれるなど,民法上の「抗弁」とは同義ではないため,同条の文言を用いることは適当ではない。そこで,民法第472条を参照して,「対抗することができる事由」という文言を用いることを併せて提案している。部会資料一部引用』
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