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行政書士試験過去問 私法上の法律関係

【平成25年行政書士試験出題】

【問題】私法上の法律関係における憲法の効力に関する次の記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、正しいものはどれか。

1 私人間においては、一方が他方より優越的地位にある場合には私法の一般規定を通じ憲法の効力を直接及ぼすことができるが、それ以外の場合は、私的自治の原則によって問題の解決が図られるべきである。

2 私立学校は、建学の精神に基づく独自の教育方針を立て、学則を制定することができるが、学生の政治活動を理由に退学処分を行うことは憲法19条に反し許されない。

3 性別による差別を禁止する憲法14条1項の効力は労働関係に直接及ぶことになるので、男女間で定年に差異を設けることについて経営上の合理性が認められるとしても、女性を不利益に扱うことは許されない。

4 自衛隊基地建設に関連して、国が私人と対等な立場で締結する私法上の契約は、実質的に公権力の発動と同視できるような特段の事情がない限り、憲法9条の直接適用を受けない。

5 企業者が、労働者の思想信条を理由に雇い入れを拒むことは、思想信条の自由の重要性に鑑み許されないが、いったん雇い入れた後は、思想信条を理由に不利益な取り扱いがなされてもこれを当然に違法とすることはできない。


【昭和48年12月12日,最高裁判所大法廷,労働契約関係存在確認請求(三菱樹脂事件)】

【判事事項】

一、憲法14条、19条と私人相互間の関係

二、特定の思想、信条を有することを理由とする雇入れの拒否は許されるか

三、雇入れと労働基準法3条

四、企業者が労働者の雇入れにあたりその思想、信条を調査することの可否

五、試用期間中に企業者が管理職要員として不適格であると認めたときは解約できる旨の特約に基づく留保解約権の行使が許される場合


【裁判要旨】

一、憲法14条や19条の規定は、直接私人相互間の関係に適用されるものではない。

二、企業者が特定の思想、信条を有する労働者をそのゆえをもつて雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできない。

三、労働基準法3条は、労働者の雇入れそのものを制約する規定ではない。

四、労働者を雇い入れようとする企業者が、その採否決定にあたり、労働者の思想、信条を調査し、そのためその者からこれに関連する事項についての申告を求めることは、違法とはいえない。

五、企業者が、大学卒業者を管理職要員として新規採用するにあたり、採否決定の当初においてはその者の管理職要員としての適格性の判定資料を十分に蒐集することができないところから、後日における調査や観察に基づく最終的決定を留保する趣旨で試用期間を設け、企業者において右期間中に当該労働者が管理職要員として不適格であると認めたときは解約できる旨の特約上の解約権を留保したときは、その行使は、右解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許されるものと解すべきである。


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【関連判例】↓
【昭和27年2月22日,最高裁判所第二小法廷,雇傭契約解除無効確認俸給支払請求(十勝女子商業事件)】

【判事事項】

政治活動をしないことを条件とする雇傭契約と基本的人権の制限


【裁判要旨】

憲法で保障されたいわゆる基本的人権も絶対のものではなく、自己の自由意思に基く特別な公法関係または私法関係上の義務によつて制限を受けるものであつて、自己の自由意思により、校内において政治活動をしないことを条件として教員として学校に雇われた場合には、その契約は無効ではない。


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【昭和49年7月19日,最高裁判所第三小法廷,身分確認請求】

【判事事項】

一、私立大学における学生の政治的活動に対する規制の合理性

二、学生の退学処分と学長の裁量権

三、私立大学の学生に対する退学処分の効力が是認された事例


【裁判要旨】

一、私立大学において、その建学の精神に基づく校風と教育方針に照らし、学生が政治的目的の署名運動に参加し又は政治的活動を目的とする学外団体に加入するのを放任することは教育上好ましくないとする見地から、学則等により、学生の署名運動について事前に学校当局に届け出るべきこと及び学生の学外団体加入について学校当局の許可を受けるべきことを定めても、これをもつて直ちに学生の政治的活動の自由に対する不合理な規制ということはできない。

二、学校教育法施行規則13条3項4号により学生の退学処分を行うにあたり、当該学生に対して学校当局のとつた措置が本人に反省を促すための補導の面において欠けるところがあつたとしても、それだけで退学処分が違法となるものではなく、その点をも含めた諸般の事情を総合的に観察して、退学処分の選択が社会通念上合理性を認めることができないようなものでないかぎり、その処分は、学長の裁量権の範囲内にあるものというべきである。

三、学生の思想の穏健中正を標榜する保守的傾向の私立大学の学生が、学則に違反して、政治的活動を目的とする学外団体に無許可で加入し又は加入の申込をし、かつ、無届で政治的目的の署名運動をした事案において、これに対する学校当局の措置が、学生の責任を追及することに急で、反省を求めるために説得に努めたとはいえないものであつたとしても、他方、右学生は、学則違反についての責任の自覚歩うすく、学外団体からの離脱を求める学校当局の要求に従う意思はなく、説諭に対して終始反発したうえ、週刊誌や学外集会等において公然と学校当局の措置を非難するような行動をしたなど判示の事情があるときは、学校教育法施行規則13条3項4号により右学生に対してされた退学処分は、学長に認められた裁量権の範囲内にあるものとしてその効力を是認すべきである。


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【昭和56年3月24日,最高裁判所第三小法廷,雇傭関係存続確認等】

【判事事項】

定年年齢を男子60歳女子55歳と定めた就業規則中女子の定年年齢を男子より低く定めた部分が性別のみによる不合理な差別を定めたものとして民法90条の規定により無効とされた事例


【裁判要旨】

会社がその就業規則中に定年年齢を男子60歳、女子55歳と定めた場合において、担当職務が相当広範囲にわたつていて女子従業員全体を会社に対する貢献度の上がらない従業員とみるべき根拠はなく、労働の質量が向上しないのに実質賃金が上昇するという不均衡は生じておらず、少なくとも60歳前後までは男女とも右会社の通常の職務であれば職務遂行能力に欠けるところはなく、一律に従業員として不適格とみて企業外へ排除するまでの理由はないなど、原判示の事情があつて、会社の企業経営上定年年齢において女子を差別しなければならない合理的理由が認められないときは、右就業規則中女子の定年年齢を男子より低く定めた部分は、性別のみによる不合理な差別を定めたものとして民法90条の規定により無効である。


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【平成元年6月20日,最高裁判所第三小法廷,不動産所有権確認、所有権取得登記抹消請求本訴、同反訴、不動産所有権確認、停止条件付所有権移転仮登記抹消登記請求本訴、同反訴及び当事者参加】

【判事事項】

一 国が行う私法上の行為と憲法98条1項にいう「国務に関するその他の行為」

二 私法上の行為と憲法9条の適用

三 憲法9条と民法90条にいう「公ノ秩序」との関係


【裁判要旨】

一 国が行う私法上の行為は、憲法98条1項にいう「国務に関するその他の行為」には当たらない。

二 私法上の行為には憲法9条は直接適用されるものではない。

三 憲法9条の宣明する国家の統治活動に対する規範は、そのままの内容で民法90条にいう「公ノ秩序」の内容を形成し、それに反する私法上の行為の効力を一律に否定する法的作用を営むということはなく、私法的な価値秩序のもとで確立された私的自治の原則、契約における信義則、取引の安全等の私法上の規範によつて相対化され、「公ノ秩序」の内容の一部を形成する。


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【試験ポイント】✨

試験によく出る重要な判例ばかりです!

1✖【昭和48年12月12日,最高裁判所大法廷,労働契約関係存在確認請求(三菱樹脂事件)】『憲法14条や19条の規定は、直接私人相互間の関係に適用されるものではない。』,関連判例は「十勝女子商業事件」

2✖【昭和49年7月19日,最高裁判所第三小法廷,身分確認請求(昭和女子大事件)】

3✖【昭和56年3月24日,最高裁判所第三小法廷,雇傭関係存続確認等(日産自動車女子定年制事件)】

4〇【平成元年6月20日,最高裁判所第三小法廷,不動産所有権確認、所有権取得登記抹消請求本訴、同反訴、不動産所有権確認、停止条件付所有権移転仮登記抹消登記請求本訴、同反訴及び当事者参加】『私法上の行為には憲法9条は直接適用されるものではない。』

5✖【昭和48年12月12日,最高裁判所大法廷,労働契約関係存在確認請求(三菱樹脂事件)】