令和5年行政書士試験過去問判例 行政上の法律関係
【判事事項】
労働基準監督署長が労働者災害補償保険法(平成11年法律第160号による改正前のもの)23条に基づいて行う労災就学援護費の支給に関する決定と抗告訴訟の対象
【裁判要旨】
労働基準監督署長が労働者災害補償保険法(平成11年法律第160号による改正前のもの)23条に基づいて行う労災就学援護費の支給に関する決定は,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる。
『法23条1項2号は,政府は,労働福祉事業として,遺族の就学の援護等,被災労働者及びその遺族の援護を図るために必要な事業を行うことができると規定し,同条2項は,労働福祉事業の実施に関して必要な基準は労働省令で定めると規定している。これを受けて,労働省令である労働者災害補償保険法施行規則(平成12年労働省令第2号による改正前のもの)1条3項は,労災就学援護費の支給に関する事務は,事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長が行うと規定している。そして,「労災就学援護費の支給について」と題する労働省労働基準局長通達(昭和 45年10月27日基発第774号)は,労災就学援護費は法23条の労働福祉事業として設けられたものであることを明らかにした上,その別添「労災就学等援護費支給要綱」において,労災就学援護費の支給対象者,支給額,支給期間,欠格事由,支給手続等を定めており,所定の要件を具備する者に対し,所定額の労災就学援護費を支給すること,労災就学援護費の支給を受けようとする者は,労災就学等援護費支給申請書を業務災害に係る事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長に提出しなければならず,同署長は,同申請書を受け取ったときは,支給,不支給等を決定し,その旨を申請者に通知しなければならないこととされている。このような労災就学援護費に関する制度の仕組みにかんがみれば,法は,労働者が業務災害等を被った場合に,政府が,法第3章の規定に基づいて行う保険給付を補完するために,労働福祉事業として,保険給付と同様の手続により,被災労働者又はその遺族に対して労災就学援護費を支給することができる旨を規定しているものと解するのが相当である。そして,被災労働者又はその遺族は,上記のとおり,所定の支給要件を具備するときは所定額の労災就学援護費の支給を受けることができるという抽象的な地位を与えられているが,具体的に支給を受けるためには,労働基準監督署長に申請し,所定の支給要件を具備していることの確認を受けなければならず,労働基準監督署長の支給決定によって初めて具体的な労災就学援護費の支給請求権を取得するものといわなければならない。
そうすると,【要旨】労働基準監督署長の行う労災就学援護費の支給又は不支給の決定は,法を根拠とする優越的地位に基づいて一方的に行う公権力の行使であり,被災労働者又はその遺族の上記権利に直接影響を及ぼす法的効果を有するものであるから,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるものと解するのが相当である。論旨は理由がある。』
【判事事項】
拘置所に収容された被勾留者に対する国の安全配慮義務の有無
【裁判要旨】
国は,拘置所に収容された被勾留者に対して,その不履行が損害賠償責任を生じさせることとなる信義則上の安全配慮義務を負わない。
『1 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1)被上告人は,平成18年10月23日に器物損壊罪で逮捕された後勾留され,平成19年3月15日,神戸地方裁判所において,建造物損壊罪で懲役1年の判決を受け,これを不服として控訴し,同年5月10日,神戸拘置所から大阪拘置所に移送され,同拘置所に収容されていた。
(2)大阪拘置所医務部の医師は,平成19年5月14日,被上告人が11食連続して食事をしておらず,同拘置所入所時と比較して体重が5㎏減少しており,食事をするよう指導をしてもこれを拒絶していることから,このままでは被上告人の生命に危険が及ぶおそれがあると判断し,被上告人の同意を得ることなく,鼻腔から胃の内部にカテーテルを挿入し栄養剤を注入する鼻腔経管栄養補給の処置を実施した。その後,カテーテルを引き抜いたところ,被上告人の鼻腔から出血が認められたので,医師の指示により止血処置が行われた。
2 本件は,被上告人が,上告人に対し,被上告人の当時の身体状態に照らして不必要であった上記処置を実施したことが,拘置所に収容された被勾留者に対する診療行為における安全配慮義務に違反し債務不履行を構成するなどと主張して,損害賠償を求める事案である。国が,拘置所に収容された被勾留者に対し,未決勾留による拘禁関係の付随義務として信義則上の安全配慮義務を負うか否かが争われている。なお,被上告人は,上記処置の実施につき国家賠償法1条1項に基づく損害賠償も請求していたが,当該請求に係る請求権は時効により消滅したとしてこれを棄却した原判決に対し不服申立てをしなかった。
3 原審は,前記事実関係の下において,次のとおり判断して,被上告人の請求を一部認容した。拘置所に収容された被勾留者は,自己の意思に従って自由に医師の診療行為を受けることはできない。そして,拘置所の職員は,被勾留者が飲食物を摂取しない場合等に強制的な診療行為(栄養補給の処置を含む。)を行う権限が与えられている反面として,拘置所内の診療行為に関し,被勾留者の生命及び身体の安全を確保し,危険から保護する必要がある。そうすると,拘置所に収容された被勾留者に対する診療行為に関し,国と被勾留者との間には特別な社会的接触の関係があり,国は,当該診療行為に関し,安全配慮義務を負担していると解するのが相当である。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。未決勾留は,刑訴法の規定に基づき,逃亡又は罪証隠滅の防止を目的として,被疑者又は被告人の居住を刑事施設内に限定するものであって,このような未決勾留 による拘禁関係は,勾留の裁判に基づき被勾留者の意思にかかわらず形成され,法令等の規定に従って規律されるものである。そうすると,未決勾留による拘禁関係は,当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上の安全配慮義務を負うべき特別な社会的接触の関係とはいえない。したがって,国は,拘置所に収容された被勾留者に対して,その不履行が損害賠償責任を生じさせることとなる信義則上の安全 配慮義務を負わないというべきである(なお,事実関係次第では,国が当該被勾留者に対して国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任を負う場合があり得ることは別論である。)。
5 これと異なる原審の上記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,被上告人の請求は理由がなく,これを棄却した第1審判決は是認することができるから,上記部分に関する被上告人の控訴を棄却すべきである。』
【判事事項】
食品衛生法第21条による食肉販売の営業許可を受けない者のした食肉買入契約の効力。
【裁判要旨】
食品衛生法第21条による食肉販売の営業許可を受けない者のした食肉の買入契約は無効ではない。
『本件売買契約が食品衛生法による取締の対象に含まれるかどうかはともかくとして同法は単なる取締法規にすぎないものと解するのが相当であるから、上告人が食肉販売業の許可を受けていないとしても、右法律により本件取引の効力が否定される理由はない。それ故右許可の有無は本件取引の私法上の効力に消長を及ぼすものではないとした原審の判断は結局正当であり、所論は採るを得ない。』
【判事事項】
宅地建物取引の媒介において建設大臣が定めた報酬の額をこえる額についてなされた報酬契約の効力
【裁判要旨】
宅地建物取引業法17条1項および2項は、宅地建物取引の媒介の報酬契約のうち建設大臣の定めた額をこえる部分の効力を否定する趣旨であり、報酬契約のうち右額をこえる部分は無効と解するのが相当である。
【判事事項】
課税処分と信義則の適用
【裁判要旨】
租税法規に適合する課税処分について信義則の法理の適用による違法を考え得るのは、納税者間の平等公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合でなければならず、右特別の事情が存するかどうかの判断に当たつては、少なくとも、税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示し、納税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したところ右表示に反する課税処分が行われ、そのために納税者が経済的不利益を受けることになつたものかどうか、納税者が税務官庁の右表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて納税者の責に帰すべき事由がないかどうか、という点の考慮が不可欠である。
『租税法規に適合する課税処分について、法の一般原理である信義則の法理の適用により、右課税処分を違法なものとして取り消すことができる場合があるとしても、法律による行政の原理なかんずく租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、右法理の適用については慎重でなければならず、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に、初めて右法理の適用の是非を考えるべきものである。そして、右特別の事情が存するかどうかの判断に当たつては、少なくとも、税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したことにより、納税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したところ、のちに右表示に反する課税処分が行われ、そのために納税者が経済的不利益を受けることになつたものであるかどうか、また、納税者が税務官庁の右表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないかどうかという点の考慮は不可欠のものであるといわなければならない。』
【試験ポイント】✨
ア✖【平成15年9月4日,最高裁判所第一小法廷,労災就学援護費不支給処分取消請求事件】
イ〇【平成28年4月21日,最高裁判所第一小法廷,損害賠償請求事件】
ウ〇【昭和35年3月18日,最高裁判所第二小法廷,売掛代金請求】,(無効判例)【昭和45年2月26日,最高裁判所第一小法廷,報酬金請求】も要注意!
エ✖【昭和62年10月30日,最高裁判所第三小法廷,相続税更正処分等取消、所得税更正処分等取消】
解答3