行政書士試験過去問 損失補償 法令および最高裁判所の判例
【判事事項】
消防法29条3項にいう延焼の防止のために緊急の必要があつたと認められた事例
【裁判要旨】
火災の際の消防活動により破壊された建物甲は、それ自体としては延焼のおそれがないが、その建物と現に延焼中の建物乙との距離が約30メートルであり、その間に延焼のおそれのあるバラツク建の建物が間隙なく接続しており、右建物を早急に破壊するためには地形や風向等の関係から建物甲を破壊する必要がある等原判示の事情(原判決理由参照)があるときは、建物甲を破壊することは、消防法29条3項にいう延焼の防止のために緊急の必要があつたものというべきである。
【判事事項】
一 河川附近地制限令第4条第2号第10条と憲法第29条
二 憲法第29条第3項の意義
【裁判要旨】
一 河川附近地制限令第4条第2号、第10条は、憲法第29条第3項に違反しない。
二 財産上の犠牲が単に一般的に当然に受認すべきものとされる制限の範囲をこえ、特別の犠牲を課したものである場合には、これについて損失補償に関する規定がなくても、直接憲法第29条第3項を根拠にして、補償請求をする余地がないではない。
【判事事項】
旧都市計画法(大正8年法律第36号)16条1項に基づき土地を収用する場合に被収用者に補償すべき価格と当該都市計画事業のため右土地に課せられた建築制限
【裁判要旨】
旧都市計画法(大正8年法律第36号)16条1項に基づき土地を収用する場合、被収用者に対し土地収用法72条(昭和42年法律第74号による改正前のもの)によつて補償すべき相当な価格を定めるにあたつては、当該都市計画事業のため右土地に課せられた建築制限を斟酌してはならない。
『おもうに、土地収用法における損失の補償は、特定の公益上必要な事業のために土地が収用される場合、その収用によつて当該土地の所有者等が被る特別な犠牲の回復をはかることを目的とするものであるから、完全な補償、すなわち、収用の前後を通じて被収用者の財産価値を等しくならしめるような補償をなすべきであり、金銭をもつて補償する場合には、被収用者が近傍において被収用地と同等の代替地等を取得することをうるに足りる金額の補償を要するものというべく、土地収用法72条(昭和42年法律第74号による改正前のもの。以下同じ。)は右のような趣旨を明らかにした規定と解すべきである。そして、右の理は、土地が都市計画事業のために収用される場合であつても、何ら、異なるものではなく、この場合、被収用地については、街路計画等施設の計画決定がなされたときには建築基準法44条2項に定める建築制限が、また、都市計画事業決定がなされたときには旧都市計画法11条、同法施行令11条、12条等に定める建築制限が課せられているが、前記のような土地収用における損失補償の趣旨からすれば、被収用者に対し土地収用法72条によつて補償すべき相当な価格とは、被収用地が、右のような建築制限を受けていないとすれば、裁決時において有するであろうと認められる価格をいうと解すべきである。なるほど、法律上右のような建築制限に基づく損失を補償する旨の明文の規定は設けられていないが、このことは、単に右の損失に対し独立に補償することを要しないことを意味するに止まるものと解すべきであり、損失補償規定の存在しないことから、右のような建築制限の存する土地の収用による損失を決定するにあたり、当該土地をかかる建築制限を受けた土地として評価算定すれば足りると解するのは、前記土地収用法の規定の立法趣旨に反し、被収用者に対し不当に低い額の補償を強いることになるのみならず、右土地の近傍にある土地の所有者 に比しても著しく不平等な結果を招くことになり、到底許されないものというべきである』
【判事事項】
道路法70条1項の定める損失の補償の対象
【裁判要旨】
道路法70条1項の定める損失の補償の対象は、道路工事の施行による土地の形状の変更を直接の原因として生じた隣接地の用益又は管理上の障害を除去するためにやむをえない必要があつてした通路、みぞ、かき、さくその他これに類する工作物の新築、増築、修繕若しくは移転又は切土若しくは盛土の工事に起因する損失に限られ、道路工事の施行の結果、危険物の保管場所等につき保安物件との間に一定の離隔距離を保持すべきことを内容とする技術上の基準を定めた警察法規に違反する状態を生じ、危険物保有者が右の基準に適合するように工作物の移転等を余儀なくされたことによつて被つた損失は、右補償の対象には属しない。
第29条 消防吏員又は消防団員は、消火若しくは延焼の防止又は人命の救助のために必要があるときは、火災が発生せんとし、又は発生した消防対象物及びこれらのものの在る土地を使用し、処分し又はその使用を制限することができる。
② 消防長若しくは消防署長又は消防本部を置かない市町村においては消防団の長は、火勢、気象の状況その他周囲の事情から合理的に判断して延焼防止のためやむを得ないと認めるときは、延焼の虞がある消防対象物及びこれらのものの在る土地を使用し、処分し又はその使用を制限することができる。
③ 消防長若しくは消防署長又は消防本部を置かない市町村においては消防団の長は、消火若しくは延焼の防止又は人命の救助のために緊急の必要があるときは、前2項に規定する消防対象物及び土地以外の消防対象物及び土地を使用し、処分し又はその使用を制限することができる。この場合においては、そのために損害を受けた者からその損失の補償の要求があるときは、時価により、その損失を補償するものとする。
④ 前項の規定による補償に要する費用は、当該市町村の負担とする。
⑤ 消防吏員又は消防団員は緊急の必要があるときは、火災の現場附近に在る者を消火若しくは延焼の防止又は人命の救助その他の消防作業に従事させることができる。
第133条(訴訟)
収用委員会の裁決に関する訴え(次項及び第3項に規定する損失の補償に関する訴えを除く。)は、裁決書の正本の送達を受けた日から3月の不変期間内に提起しなければならない。2 収用委員会の裁決のうち損失の補償に関する訴えは、裁決書の正本の送達を受けた日から6月以内に提起しなければならない。
3 前項の規定による訴えは、これを提起した者が起業者であるときは土地所有者又は関係人を、土地所有者又は関係人であるときは起業者を、それぞれ被告としなければならない。
【試験ポイント】✨
1✖ 消防法29条第3項,【昭和47年5月30日,最高裁判所第3小法廷,損害賠償請求】
2✖ このような規定はない。よく出る判例が,河川付近地制限令事件
【 昭和43年11月27日,最高裁判所大法廷,河川附近地制限令違反】
3〇【昭和48年10月18日,最高裁判所第1小法廷,土地収用補償金請求】
4✖ 土地収用法133条 『これを提起した者が起業者であるときは土地所有者又は関係人を、土地所有者又は関係人であるときは起業者を、それぞれ被告としなければならない。』
5✖【昭和58年2月18日,最高裁判所第2小法廷,損失補償裁決取消等】