公務員試験・行政書士試験民法改正【第619条(賃貸借の更新の推定等)】
第619条(賃貸借の更新の推定等)
賃貸借の期間が満了した後賃借人が賃借物の使用又は収益を継続する場合において、賃貸人がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の賃貸借と同一の条件で更に賃貸借をしたものと推定する。この場合において、各当事者は、第617条の規定により解約の申入れをすることができる。
2 従前の賃貸借について当事者が担保を供していたときは、その担保は、期間の満了によって消滅する。ただし、第622条の2第1項に規定する敷金については、この限りでない。
第622条の2
賃貸人は、敷金(いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この条において同じ。)を受け取っている場合において、次に掲げるときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
一 賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき。
二 賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき。
2 賃貸人は、賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において、賃借人は、賃貸人に対し、敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない。
【試験ポイント】✨
1項は変更なし。2項の第622条の2第1項に規定する敷金と改められたことぐらいです。因みに,新第622条の2の主な改正点は,1 『敷金の定義(賃料債務等を担保する目的で賃借人が賃貸人に交付する金銭で,名目を問わない)が明記。賃貸借に当たっては,敷金のほか,地域によって「礼金」「権利金」「保証金」等の名目で金銭を差し入れられることがあり,名目にかかわらず,担保目的であれば敷金に該当と整理されました。』
2 『敷金の返還時期(賃貸借が終了して賃貸物の返還を受けたとき等)・返還の範囲(賃料等の未払債務を控除した残額)等に関するルールを民法に明記』
『(補足説明)
賃貸借の目的である不動産の所有権が移転し,これに伴って賃貸人たる地位が新所有者に移転する場合において,賃借人が旧所有者に対して敷金を差し入れていたときは,その敷金の返還債務は当然に新所有者に承継されるとするのが判例(大判昭和5年7月9日民集9巻839頁,大判昭和18年5月17日民集22巻373頁,最判昭和44年7月17日民集23巻8号1610頁)・通説であるとされている。その際に,敷金が差し入れられていることについて新所有者の認識の有無や,不動産を譲り受けるに当たって新所有者が旧所有者から敷金相当額の補償を受けていたか否かは,問わないとされている。また,新所有者に承継される敷金の額は,原則として賃借人から差し入れられた金額であるが,旧所有者に対する賃料の延滞等がある場合には敷金から充当・清算がされ,その残額の返還債務が新所有者に承継されるとされている(大判昭和5年7月9日民集9巻839頁,大判昭和18年5月17日民集22巻373頁,最判昭和44年7月17日民集23巻8号1610頁)。
敷金返還債務が新所有者に当然に承継されることに賛成する立場は,①敷金は賃貸借契約に基づく賃貸人の債権を担保するものであり,主たる契約関係である賃貸人たる地位が移転すれば敷金も移転すると考えるべきであることや,②賃貸借契約に基づき賃借人が負担する債務について,賃借人は差し引き計算されるとの期待を有しており,賃借人の関与しない賃貸人の地位の移転によって賃借人の期待を奪うべきでないことなどを理由としている。
これに対して,敷金返還債務が当然に承継されることを否定する立場も示されている。この立場は,①賃貸借契約と敷金設定契約は別の契約であること,②敷金の承継を当然に認めると,譲受人が敷金の存在を知らない場合にまで賃貸借の終了時に賃借人に対する敷金返還債務を負担させられてしまうこと,③賃借人の知らないところで敷金返還債務の債務者が変更されるのは債務者の保護の観点から問題であることなどを理由としている。このような状況を踏まえ,判例・通説に従い,差し入れられた敷金の有無や残額についての新所有者の認識を問わず,新所有者が敷金返還債務を当然に承継することを条文上明確にすべきであるとの考え方が提示されているが,どのように考えるか。
(関連論点)
敷金返還債務の承継と旧所有者の責任について敷金返還債務が当然に新所有者に承継されるとした場合に,旧所有者が一切の負担を免れるとするとすると,新所有者の資産状況によって債権者(賃借人)が不利益を受ける可能性があるという問題が指摘されている。賃貸人の地位の承継については,賃貸人が負担する債務(主に目的物を利用させる債務)の属人性が希薄であることなどを理由に,賃借人の承諾は不要であると解されているが,敷金返還債務の承継については,必ずしも同様に考えることができないという指摘である。このような指摘を踏まえて,敷金返還債務が新所有者に承継される場合には,旧所有者もその履行を担保する義務を負う旨の規定を設けるべきであるとの考え方がある。もっとも,この考え方に対しては,旧所有者は目的不動産の所有権を失った後も 長期間にわたり賃貸借をめぐる法律関係から解放されず,敷金返還を求められるリスクを負担することになるという不都合が指摘されている。以上を踏まえ,上記の考え方について,どのように考えるか。』
民法(債権関係)の改正に関する検討事項(11) 詳細版は,こちら
【判事事項】
賃貸建物の所有権移転と敷金の承継【裁判要旨】
建物賃貸借契約において、該建物の所有権移転に伴い賃貸人たる地位に承継があつた場合には、旧賃貸人に差し入れられた敷金は、未払賃料債務があればこれに当然充当され、残額についてその権利義務関係が新賃貸人に承継される。判例は,こちら