行政書士試験民法改正【第605条(不動産賃貸借の対抗力)】
第605条(不動産賃貸借の対抗力)
不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができる。
民法(債権関係)の改正に関する検討事項(11)詳細版は,こちら
『(補足説明)
1 不動産賃貸借を対抗できる第三者の範囲について
現行民法第605条は,不動産の賃貸借を登記したときは,その後その不動産について「物権を取得した者」に対しても,賃貸借の効力を生ずると規定している。
しかし,「物権を取得した者」の他にも,例えば,同一の不動産について他に賃借権の設定を受けた者や,当該不動産の差押債権者については,対抗関係が想定され,これらの第三者との関係においても賃借人は賃借権を対抗することができると解されている。
そこで,条文上もこれらの第三者が含まれることを明示すべきであるとの考え方が提示されている。このような考え方について,どのように考えるか。
2 動産賃貸借の対抗力
民法第605条は不動産賃貸借の対抗力のみを規定し,動産賃貸借については規定していないため,賃貸借の目的動産が譲渡された場合などの法律関係が問題となり得る。
この点に関しては,動産賃貸借は引渡しによって新所有者に対抗することができると解するのが多数説であるとされている。この見解は,その理由について次のような説明をする。すなわち,目的動産を譲り受けた新所有者がその所有権を第三者(賃借人)に対抗するための対抗要件は引渡しであり(民法第178条),賃借人が占有している場合は指図による占有移転(同法第184条)によることとなるが,そのためには,旧所有者(賃貸人)が賃借人に対して,以後第三者(新所有者)のためにその物を占有することを命じ,その第三者(新所有者)がこれを承諾することが必要となるので,新所有者は賃貸借を前提として目的物を譲り受けたことになるというのである。このような解釈論に基づいて,動産賃貸借の対抗力に関する明文規定を設けるという考え方があり得る。
しかし,上記の解釈論に対しては,指図による占有移転の中に新所有者が賃貸借を承継する意思を読み込む論理に無理があるほか,不動産賃貸借について対抗力を与えるためにわざわざ同法第605条が置かれている理由が説明できないなどとして,反対説も有力である。また,動産賃貸借の対抗力に関する明文規定を設けることに対しては,動産賃貸借に対して破産法第56条第1項が適用され,同法第53条第1項及び第2項の適用が排除される可能性があることを指摘して,明文規定を設けることに消極の考え方が示されているが,どのように考えるか。
3 その他
用語法の問題であるが,債権的な権利が登記によって対外的な効力を取得する場面に関して,民法第605条は賃貸借が第三者に対しても「効力を生ずる」と表現しているところ,これを第三者に「対抗することができる」と改めるべきであるという考え方が提示されている。
この「効力を生ずる」という表現は,目的不動産の所有権が賃貸人から第三者(新所有者)に移転した場合に,賃貸借関係も当然に新所有者に移転することの根拠として挙げられていることに留意する必要があり,また,民法全体及び他の法律おける用語法にもかかわる問題提起であることに留意する必要があるが,これらを含めて,上記の考え方について,どのように考えるか。 また,不動産賃貸借における民法上の対抗要件は登記(同法第605条)であるが,賃借人は登記請求権を有しないと解されており,実際にはこの登記は,平成15年改正前の民法第395条のもとでの濫用的短期賃貸借のような場面を除いてほとんど利用されていないと言われている。
このため,借地借家法において,借地権に関し土地の上に借地権者が登記されている建物を所有することを対抗要件とし(同法第10条第1項),建物賃貸借に関して建物の引渡しを対抗要件とする(同法第31条第1項)という特則が設けられている。
また、農地法においても,農地又は採草放牧地の賃貸借に関して引渡しが対抗要件とされている(同法第16条第1項)。このように,特別法において重要な特則が設けられている状況を踏まえると,民法の規定上も,登記だけでなく,特別法に規定された対抗要件によっても,賃借権を第三者に対抗することができる旨を明記すべきであるとの考え方があるが,どのように考えるか。』
『目的不動産の所有権が移転した場合の賃貸借契約の帰すう
賃貸借の目的物である不動産の所有権が移転した場合における旧所有者との間の賃貸借契約の帰すうについて,判例は,不動産賃貸借が対抗力を有する場合には,賃借人と旧所有者との間の賃貸借関係は新所有者との間に当然に承継され,旧所有者は賃貸借関係から離脱するとしており,その際に賃借人の承諾は不要であるとしている。また,この場合において,賃貸人たる地位を旧所有者に留保する旨の合意の効力については,これを否定する判例がある。さらに,この場合の賃貸人たる地位の承継を新所有者が賃借人に対して主張するための要件について,判例は,新所有者が不動産の登記を備える必要があるとしている。これらの法律関係について民法は具体的な規定を置いていないことから,以上のような判例法理を条文上明確にすべきであるとの考え方が提示されているが,どのように考えるか。
(補足説明)
1 賃貸人たる地位の承継
不動産賃貸借が対抗要件を備えた後に目的不動産の所有権が移転した場合には,従来の賃貸人(旧所有者)との間の賃貸借関係も新所有者との間に移転し,従来の賃貸人は賃貸借関係から離脱するとされている(大判大正10年5月30日民録27輯1013頁,最判昭和39年8月28日民集18巻7号1354頁等)。
その根拠としては,民法第605条の「賃貸借は,・・・その後その不動産について物権を取得した者に対しても,その効力を生ずる」という文言が挙げられている。学説も,このような判例の結論を支持しており,賃貸借関係が賃貸目的物の所有権と結合する一種の状態債務関係として所有権とともに移転するなどの説明がされている。
このように賃貸人たる地位が新所有者に移転し,従前の所有者が賃貸借関係から離脱するとした場合に,賃貸人も賃借人に対して目的物を使用収益させる債務を負う立場にあることから,賃借人の承諾の要否が問題となり得る。
この点について,判例は「土地の賃貸借契約における賃貸人の地位の譲渡は,賃貸人の義務の移転を伴なうものではあるけれども,賃貸人の義務は賃貸人が何ぴとであるかによって履行方法が特に異なるわけのものではなく,また,土地所有権の移転があったときに新所有者にその義務の承継を認めることがむしろ賃借人にとつて有利であるというのを妨げないから,一般の債務の引受の場合と異なり,特段の事情のある場合を除き,新所有者が旧所有者の賃貸人としての権利義務を承継するには,賃借人の承諾を必要とせず,旧所有者と新所有者間の契約をもつてこれをなすことができると解するのが相当である」としている(最判昭和46年4月23日民集25巻3号388頁)。また,学説も,賃貸人の債務は実際上は個人的な色彩を有さず,目的物の所有者であることによってほぼ履行することができること,賃借人にとっても譲受人が賃貸人の地位を承継してくれる方が有利であること等を指摘して,賃借人の承諾を不要とする見解が一般的であるとされている。以上を踏まえ,確立した判例法理の明文化を図る観点から,不動産賃貸借が対抗力を備えた後に目的不動産の所有権が移転した場合には,新所有者が賃貸人の地位を承継することや,その際に賃借人の承諾は不要であることを,条文上明記すべきであるとの考え方が提示されているが,どのように考えるか。
2 賃貸人たる地位を譲渡人に留保する旨の合意の効力
旧所有者と新所有者との間で目的不動産の所有権のみを移転し,賃貸人たる地位については旧所有者に留保するとの合意をした場合に,このような合意が有効であるかが問題とされている。このような合意の効力を認め,賃貸人たる地位を留保したまま目的不動産の所有権が移転されることを認めると,賃借人は,所有権を失った者との間に転貸借と同様の関係を有することとなり,従前よりも不利な地位に立たされることになる。そのため,判例は,旧借家法の適用がある賃貸借の事例について,このような合意は無効であるとの判断(大判昭和6年5月23日法律新聞3290号17頁)や,賃貸人の地位を留保する合意があったとしても賃貸人の地位の移転を否定する特段の事情には当たらず,賃貸人の地位は当然に新所有者に移転するとの判断(最判平成11年3月25日判時1674号61頁)を示している。
そこで,賃貸人たる地位を譲渡人に留保する旨の合意は無効である旨を条文上明記すべきであるという考え方が提示されている。もっとも,このような考え方に対しては,賃借人が目的不動産が譲渡されたことを認識しつつ,その譲渡後も旧所有者を賃貸人とする法律関係を容認しているような場合で,三者間の合意までは認められないという事例もあり得ることを指摘して,上記のような合意を一律に無効とすべきではないとの批判もある。
以上を踏まえ, 上記のような考え方について,どのように考えるか。
3 新所有者が承継した賃貸人の地位を主張するための要件
目的不動産の所有権の移転により賃貸人たる地位が新所有者に承継されるとした場合に,新所有者が賃借人に対して権利行使をするための要件として,不動産の登記を備える必要があるかが問題とされてきた。登記を必要とする見解としては,この場合の賃貸人たる地位は目的不動産の所有権と結びついている以上,新所有者が賃貸人たる地位を主張することができるかという問題は,不動産の所有権を主張することができるかという問題(民法第177条)と重なるとしている(対抗問題構成説)。判例(大判昭和8年5月9日民集12巻1123頁,判昭和49年3月19日民集28巻2号325頁) も,この見解を採るとされている。
これに対し,新所有者が賃貸人たる地位を主張することができるかという問題は,民法第177条の対抗問題とは異なるとする理解もある。このような理解に立つ場合であっても,新所有者が賃貸人たる地位の承継を前提として賃借人に対し積極的に権利主張をするためには所有権取得の登記を必要とするという見解がある(資格要件説)。また,登記を備えているかどうかに関わりなく賃貸人たる地位を主張することができるとする見解や,契約上の地位の移転についての一般的な理解と同様に民法第467条を類推適用し,譲渡人から賃借人への通知又は賃借人の承諾が必要であるとする見解もある。このような状況を踏まえ,判例の立場から,新所有者が賃貸人たる地位の移転を賃借人に対抗するためには不動産の登記を備える必要があることを条文上明記すべきであるという考え方が提示されているが,どのように考えるか。なお,新所有者が登記を備えていない場合であっても,賃借人の側から新所有者を賃貸人と認め,賃料の支払などを行うことは可能とされている(判昭和46年12月3日判時655号28頁)。』