国家公務員試験・行政書士試験民法改正【第579条(買戻しの特約)】
第579条(買戻しの特約)
不動産の売主は、売買契約と同時にした買戻しの特約により、買主が支払った代金(別段の合意をした場合にあっては、その合意により定めた金額。第583条第1項において同じ。)及び契約の費用を返還して、売買の解除をすることができる。この場合において、当事者が別段の意思を表示しなかったときは、不動産の果実と代金の利息とは相殺したものとみなす。
『第4 売買-買戻し,特殊の売買
1 買戻し(民法第579条から第585条まで)
ア 買戻しに関する規定(民法第579条以下)は,その特約付でされた売買が債権担保を目的とするものである場合には,適用されない旨の規定を設けるという考え方があり得るが,どのように考えるか。
イ 買戻しの規定内容については,以下に掲げる見直しの全部又は一部を行うとの考え方があり得るが,どのように考えるか。
① 民法第579条が規定する売主の返還義務の範囲につき,当事者による別段の定めが許容されることを条文上明記することとする。
② 民法第581条第1項の「効力を生ずる」という文言を「対抗することができる」に改めるものとする。
③ 同条が売買契約と同時に登記をすることを求めているのを改め,売買契約の登記の後であっても,買戻しの特約の登記ができるものとする。』
『○ 中間的な論点整理第41,1「買戻し(民法第579条から第585条まで)」担保目的の買戻しは,譲渡担保として処理すべきであって民法の買戻しに関する規定は適用されないとする判例法理を踏まえて,民法の買戻しの規定は,担保目的を有しない買戻しにのみ適用されることを条文上明確にすべきであるという考え方について,検討してはどうか。また,買戻しの制度を使いやすくする観点から,契約と同時に登記することを必要とする民法第581条の見直し等について,検討してはどうか。このほか,買戻しの特約により売主が負担する返還義務の範囲(民法第579条)を, 条文により固定するのではなく,合意等により決する余地を認めるべきであるという考え方や,買戻しに関する規定の意味を明確にする観点から「その効力を生ずる」という条文の文言を見直すべきであるといった考え方についても,更に検討してはどうか。部会資料15-2第4,2[61頁]』
『(補足説明)
1 判例は,買戻特約付の売買契約という形式が採られていたとしても,債権担保の目的で締結されたものである場合には,その性質は譲渡担保契約であり,民法第579条以下の買戻しの規定は適用されないものとしている(最判平成18年2月7日民集60巻2号480頁)。そこで,本文アでは,このような判例法理を明文化するという提案を取り上げている。この提案には,次のような問題がある。すなわち,現行民法の買戻し概念は,規定上利用目的を問わないものとなっている。仮に買戻しを担保目的のものとそうでないものに二分し,後者にのみ買戻しに関する現行規定が適用されるものとした上で,前者に関して新たに設けるべき規定の内容を検討するのは,具体的な立法提案が存在しないことなどを考えると,必ずしも容易ではない。他方で,担保目的の買戻しにつき,現行民法の買戻しの規定が適用されないとしつつ何らの規律も設けないことが適切か否かについて,疑問の余地があるとの指摘がある。
このような問題に対しては,担保目的の買戻しについて譲渡担保に関する判例法理によるとの考え方が確立しているのであれば,担保目的の買戻しについて規定を設けなくても問題は生じず,買戻しに関する現行規定が担保目的のものに適用されないことには異論がない以上,むしろそのことを規定上も明らかにした方が望ましいとの考え方もあり得る。
以上を踏まえ,本文アのような考え方につき,どのように考えるか。
2 買戻しに関する個別の規定については,以下のような見直しが提案されている。本文イは,それらを取り扱うものである。(1)本文イ①民法第579条は,買戻しによる売主の返還義務の範囲を「支払った代金及び契約の費用」と定めており,これは(片面的な)強行規定と解されている。
しかしながら,この規定の適用を避けるために実務上再売買の予約が用いられているという実態を踏まえると,売主の返還義務の範囲を強行法的に固定する実益は乏しい上,売主の返還義務の範囲につき柔軟な取扱いを認める実務的要請があるとして,民法第579条の返還義務の範囲につき,別段の定めが許容される旨の規定を設けるとの立法提案がある(参考資料1検討委員会試案・292頁。)。本文①は,この点を取り上げたものである。
(2)本文イ②民法第581条は,売買と同時に買戻しの特約を登記したときは,その特約が第三者に対しても「効力を生ずる」としている。
しかし,登記前であっても特約の効力は当事者間において生じていることなどを指摘して,「効力を生ずる」という文言は,「対抗することができる」と改めるのが適切であるとの考え方がある。
本文②は,この考え方を取り上げたものである。「対抗することができる」という民法上の表現の参照例として,同法第468条第2項,第539条等がある。他方,第三者との関係で「効力を生ずる」との表現を用いる民法上の参照例として,同法第605条があり,この規定についても同様の見直しをするかどうかが検討課題とされている(中間的な論点整理第45,3(1)「目的不動産について物権を取得した者その他の第三者との関係」[135頁(330頁)]参照)。どのように考えるか。(3)本文イ③ 第14回会議においては,買戻し制度を使い易くする観点から,売買契約の登記(売買を原因とする所有権移転登記)の後であっても,買戻しの特約を登記することが可能となるよう,規定を改めることの可否を検討すべきであるとの提案があった。
本文③は,この提案を取り上げたものである。この提案については,買戻しの特約を売買契約と同時にすることを要求している民法第579条第1項との整合性が問題となり得る。この点をも含めて変更することは,買戻し概念の在り方自体を問い直すことにもつながるように思われるが,どのように考えるか。』
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