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過去問行政書士試験判例 医師の不法行為の成否

【平成29年行政書士試験出題】

【問題】不法行為に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。

1 景観の良否についての判断は個々人によって異なる主観的かつ多様性のあるものであることから、個々人が良好な景観の恵沢を享受する利益は、法律上保護される利益ではなく、当該利益を侵害しても、不法行為は成立しない。

2 人がその品性、徳行、名声、信用などについて社会から受けるべき客観的な社会的評価が低下させられた場合だけではなく、人が自己自身に対して与えている主観的な名誉感情が侵害された場合にも、名誉毀損による不法行為が成立し、損害賠償の方法として原状回復も認められる。

3 宗教上の理由から輸血拒否の意思表示を明確にしている患者に対して、輸血以外に救命手段がない場合には輸血することがある旨を医療機関が説明しないで手術を行い輸血をしてしまったときでも、患者が宗教上の信念に基づいて当該手術を受けるか否かを意思決定する権利はそもそも人格権の一内容として法的に保護に値するものではないので、不法行為は成立しない。

4 医師の過失により医療水準に適 かなった医療行為が行われず患者が死亡した場合において、医療行為と患者の死亡との間の因果関係が証明されなくても、医療水準に適った医療行為が行われていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明されるときは、不法行為が成立する。

5 交通事故の被害者が後遺症のために身体的機能の一部を喪失した場合には、その後遺症の程度が軽微であって被害者の現在または将来における収入の減少が認められないときでも、労働能力の一部喪失を理由とする財産上の損害が認められる。


【平成18年3月30日,最高裁判所第1小法廷,建築物撤去等請求事件】

【判事事項】

1 良好な景観の恵沢を享受する利益は法律上保護されるか

2 良好な景観の恵沢を享受する利益に対する違法な侵害に当たるといえるために必要な条件

3 直線状に延びた公道の街路樹と周囲の建物とが高さにおいて連続性を有し調和がとれた良好な景観を呈している地域において地上14階建ての建物を建築することが良好な景観の恵沢を享受する利益を違法に侵害する行為に当たるとはいえないとされた事例


【裁判要旨】

1 良好な景観に近接する地域内に居住する者が有するその景観の恵沢を享受する利益は,法律上保護に値するものと解するのが相当である。

2 ある行為が良好な景観の恵沢を享受する利益に対する違法な侵害に当たるといえるためには,少なくとも,その侵害行為が,刑罰法規や行政法規の規制に違反するものであったり,公序良俗違反や権利の濫用に該当するものであるなど,侵害行為の態様や程度の面において社会的に容認された行為としての相当性を欠くことが求められる。

3 南北約1.2kmにわたり直線状に延びた「大学通り」と称される幅員の広い公道に沿って,約750mの範囲で街路樹と周囲の建物とが高さにおいて連続性を有し,調和がとれた良好な景観を呈している地域の南端にあって,建築基準法(平成14年法律第85号による改正前のもの)68条の2に基づく条例により建築物の高さが20m以下に制限されている地区内に地上14階建て(最高地点の高さ43.65m)の建物を建築する場合において,

(1)上記建物は,同条例施行時には既に根切り工事をしている段階にあって,同法3条2項に規定する「現に建築の工事中の建築物」に当たり,上記条例による高さ制限の規制が及ばないこと,

(2)その外観に周囲の景観の調和を乱すような点があるとは認め難いこと,

(3)その他,その建築が,当時の刑罰法規や行政法規の規制に違反したり,公序良俗違反や権利の濫用に該当するなどの事情はうかがわれないことなど判示の事情の下では,上記建物の建築は,行為の態様その他の面において社会的に容認された行為としての相当性を欠くものではなく,上記の良好な景観に近接する地域内に居住する者が有するその景観の恵沢を享受する利益を違法に侵害する行為に当たるとはいえない。


【昭和45年12月18日, 最高裁判所第2小法廷,委嘱状不法発送謝罪請求】

【判事事項】

民法723条にいう名誉の意義


【裁判要旨】

民法723条にいう名誉とは、人がその品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価、すなわち社会的名誉を指すものであつて、人が自己自身の人格的価値について有する主観的な評価、すなわち名誉感情は含まないものと解すべきである。

民法723条にいう名誉とは、人がその品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価、すなわち社会的名誉を指すものであつて、人が自己自身の人格的価値について有する主観的な評価、すなわち名誉感情は含まないものと解するのが相当である。けだし、同条が、名誉を毀損された被害者の救済処分として、損害の賠償のほかに、それに代えまたはそれとともに、原状回復処分を命じうることを規定している趣旨は、その処分により、加害者に対して制裁を加えたり、また、加害者に謝罪等をさせることにより被害者に主観的な満足を与えたりするためではなく、金銭による損害賠償のみでは填補されえない、毀損された被害者の人格的価値に対する社会的、客観的な評価自体を回復することを可能ならしめるためであると解すべきであり、したがつて、このような原状回復処分をもつて救済するに適するのは、人の社会的名誉が毀損された場合であり、かつ、その場合にかぎられると解するのが相当であるからである。
ところで、原審の確定したところによれば、上告人らが本件委嘱状の送付を受けたことにより毀損されたのは、同人らの社会的名誉またはそれと同視すべき同人らに対する政治的信頼ではなく、同人らの名誉感情にすぎなかつたというのであり、そして、原審の右事実認定は、原判決(その引用する第一審決を含む。以下同じ。) 挙示の証拠関係に照らして、首肯することができないわけではないから、このような事実認定のもとにおいては、上告人らは、右委嘱状の送付を受けたことにより民法723条にいう名誉を毀損されたとして、同条所定の原状回復処分を求めることは許されるいものと解すべきである。
してみれば、民法723条所定の原状回復処分としての謝罪文書の交付を求める上告人らの本訴請求を棄却した原審の判断は、その結論において、正当であり、したがつて、上告人らの右請求を棄却した原判決の違法をいう論旨は、結局、その理由がなく、採用することができないものというべきである。


【平成12年2月29日,最高裁判所第3小法廷,損害賠償請求上告,同附帯上告事件】

【判事事項】

宗教上の信念からいかなる場合にも輸血を受けることは拒否するとの固い意思を有している患者に対して医師がほかに救命手段がない事態に至った場合には輸血するとの方針を採っていることを説明しないで手術を施行して輸血をした場合において右医師の不法行為責任が認められた事例


【裁判要旨】

医師が、患者が宗教上の信念からいかなる場合にも輸血を受けることは拒否するとの固い意思を有し、輸血を伴わないで肝臓のしゅようを摘出する手術を受けることができるものと期待して入院したことを知っており、右手術の際に輸血を必要とする事態が生ずる可能性があることを認識したにもかかわらず、ほかに救命手段がない事態に至った場合には輸血するとの方針を採っていることを説明しないで右手術を施行し、患者に輸血をしたなど判示の事実関係の下においては、右医師は、患者が右手術を受けるか否かについて意思決定をする権利を奪われたことによって被った精神的苦痛を慰謝すべく不法行為に基づく損害賠償責任を負う。


【平成12年9月22日,最高裁判所第2小法廷,損害賠償請求事件】

【判事事項】

医師が過失により医療水準にかなった医療を行わなかったことと患者の死亡との間の因果関係の存在は証明されないが右医療が行われていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明される場合における医師の不法行為の成否


【裁判要旨】

医師が過失により医療水準にかなった医療を行わなかったことと患者の死亡との間の因果関係の存在は証明されないけれども、右医療が行われていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明される場合には、医師は、患者が右可能性を侵害されたことによって被った損害を賠償すべき不法行為責任を負う。


【昭和56年12月22日,最高裁判所第3小法廷,損害賠償】

【判事事項】

身体的機能の一部喪失と労働能力喪失を理由とする財産上の損害の有無


【裁判要旨】

交通事故による後遺症のために身体的機能の一部を喪失した場合においても、後遺症の程度が比較的軽微であつて、しかも被害者が従事する職業の性質からみて現在又は将来における収入の減少も認められないときは、特段の事情のない限り、労働能力の一部喪失を理由とする財産上の損害は認められない。


判例のポイントとして,「裁判要旨」をしっかり頭に叩き込もう!

1✖【平成18年3月30日,最高裁判所第1小法廷,建築物撤去等請求事件】

2✖【昭和45年12月18日, 最高裁判所第2小法廷,委嘱状不法発送謝罪請求】

3✖【平成12年2月29日,最高裁判所第3小法廷,損害賠償請求上告,同附帯上告事件】

4〇【平成12年9月22日,最高裁判所第2小法廷,損害賠償請求事件】

5✖【昭和56年12月22日,最高裁判所第3小法廷,損害賠償】