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行政書士過去問 重要判例 抵当権の効力

【平成30年行政書士試験出題】

【問題】抵当権の効力に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。

1 抵当権の効力は抵当不動産の従物にも及ぶが、抵当不動産とは別個に従物について対抗要件を具備しなければ、その旨を第三者に対して対抗することができない。

2 借地上の建物に抵当権が設定された場合において、その建物の抵当権の効力は、特段の合意がない限り借地権には及ばない。

3 買戻特約付売買の買主が目的不動産について買主の債権者のために抵当権を設定し、その旨の登記がなされたところ、その後、売主が買戻権を行使した場合、買主が売主に対して有する買戻代金債権につき、上記抵当権者は物上代位権を行使することができる。

4 抵当不動産が転貸された場合、抵当権者は、原則として、転貸料債権(転貸賃料請求権)に対しても物上代位権を行使することができる。

5 抵当権者が、被担保債権について利息および遅延損害金を請求する権利を有するときは、抵当権者は、原則として、それらの全額について優先弁済権を行使することができる。


【昭和44年3月28日,最高裁判所第2小法廷,強制執行の目的物に対する第三者異議】

【判事事項】

宅地上の従物と抵当権の効力


【裁判要旨】宅地に対する抵当権の効力は、特段の事情のないかぎり、抵当権設定当時右宅地の従物であつた石燈籠および庭石にも及び、抵当権の設定登記による対抗力は、右従物についても生ずる。

本件石灯籠および取り外しのできる庭石等は本件根抵当権の目的たる宅地の従物であり、本件植木および取り外しの困難な庭石等は右宅地の構成部分であるが、右従物は本件根抵当権設定当時右宅地の常用のためこれに付属せしめられていたものであることは、原判決の適法に認定、判断したところである。そして、本件宅地の根抵当権の効力は、右構成部分に及ぶことはもちろん、右従物にも及び(大判大正8年3月15日、民緑25輯473頁参照)、この場合右根抵当権は本件宅地に対する根抵当権設定登記をもつて、その構成部分たる右物件についてはもちろん、抵当権の効力から除外する等特段の事情のないかぎり、民法370条により従物たる右物件についても対抗力を有するものと解するのが相当である。そうとすれば、被上告人は、根抵当権により、右物件等を独立の動産として抵当権の効力外に逸出するのを防止するため、右物件の譲渡または引渡を妨げる権利を有するから、執行債権者たる上告人に対し、右物件等についての強制執行の排除を求めることができるとした原判決(その引用する第一審判決を含む。)の判断は正当である。原判決には所論の違法はなく、論旨は採用できない。


【昭和40年5月4日,最高裁判所第3小法廷,建物収去土地明渡請求】

【判事事項】

一 土地貸借人が該地上の建物に設定した抵当権の効力は当該土地の賃借権に及ぶか。

二 地上建物に抵当権を設定した土地賃借人は抵当建物の競落人に対し地主に代位して当該土地の明渡を請求できるか。


【裁判要旨】

一 土地賃借人が該土地上に所有する建物について抵当権を設定した場合には、原則として、右抵当権の効力は当該土地の賃借権に及び、右建物の競落人と賃借人との関係においては、右建物の所有権とともに土地の賃借権も競落人に移転するものと解するのが相当である。

二 前項の場合には、賃借人は、賃貸人において右賃借権の移転を承諾しないときであつても、競落人に対し、土地所有者たる賃貸人に代位して右土地の明渡を請求することはできない。

土地賃借人の所有する地上建物に設定された抵当権の実行により、競落人が該建物の所有権を取得した場合には、民法612条の適用上賃貸人たる土地所有者に対する対抗の問題はしばらくおき、従前の建物所有者との間においては、右建物が取毀しを前提とする価格で競落された等特段の事情がないかぎり、右建物の所有に必要な敷地の賃借権も競落人に移転するものと解するのが相当である(原審は、択一的に、転貸関係の発生をも推定しており、この見解は当審の執らないところであるが、この点の帰結のいかんは、判決の結論に影響を及ぼすものではない。)。けだし、建物を所有するために必要な敷地の賃借権は、右建物所有権に付随し、これと一体となつて一の財産的価値を形成しているものであるから、建物に抵当権が設定されたときは敷地の賃借権も原則としてその効力の及ぶ目的物に包含されるものと解すべきであるからである。
したがつて、賃貸人たる土地所有者が右賃借権の移転を承諾しないとしても、すでに賃借権を競落人に移転した従前の建物所有者は、土地所有者に代位して競落人に対する敷地の明渡しを請求することができないものといわなければならない。
結論においてこれと同趣旨により、本件における従前の建物所有者たる上告人から競落人たる被上告人に対して本件土地明渡しを請求しえないとした原審の判断は、正当として是認すべきである。
されば、本件において、かかる特段の事情を主張立証すべき責任は、従前の建物所有者たる上告人に存するものというべく、これと反対の見解に立つ所論は理由がないし、また、被上告人が上告人から競落により賃借権を取得したとしてもそれは地主の承諾を条件とするものであるとの所論は、前記原判示の趣旨を正解しないものである。さらに、上告人が本件競落によつて被上告人の取得した賃借権とは別個の賃借権を取得したとの所論主張を肯認すべきなんらの根拠も見出しがたい。論旨は、ひつきよう、独自の法律的見解に立脚して原判示を非難するものであり、いずれも採用するを得ない。よつて、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。


【平成11年11月30日,最高裁判所第3小法廷,配当異議事件】

【判事事項】

買戻特約付売買の目的不動産に設定された抵当権に基づく買戻代金債権に対する物上代位権行使の可否


【裁判要旨】

買戻特約付売買の買主から目的不動産につき抵当権の設定を受けた者は、抵当権に基づく物上代位権の行使として、買戻権の行使により買主が取得した買戻代金債権を差し押さえることができる。

本件は、土地の買戻特約付売買において買戻権が行使されたことにより買主が取得した買戻代金債権について、買主から右土地につき根抵当権の設定を受け、その旨の登記を経由した被上告人が物上代位権の行使としてした差押えと買主の債権者である上告人が右登記の後にした差押えとが競合し、供託された買戻代金の配当手続において、被上告人による差押えが優先するとして配当表が作成されたため、上告人が、被上告人に対し、買戻しにより右根抵当権が消滅したことを理由に買戻代金債権に対する物上代位権の行使は許されないと主張して、右配当表の変更を求めている事案であり、右物上代位権の行使の可否が争点となっている。
【要旨】買戻特約付売買の買主から目的不動産につき抵当権の設定を受けた者は、抵当権に基づく物上代位権の行使として、買戻権の行使により買主が取得した買戻代金債権を差し押さえることができると解するのが相当である。けだし、買戻特約の登記に後れて目的不動産に設定された抵当権は、買戻しによる目的不動産の所有権の買戻権者への復帰に伴って消滅するが、抵当権設定者である買主やその債権者等との関係においては、買戻権行使時まで抵当権が有効に存在していたことによって生じた法的効果までが買戻しによって覆滅されることはないと解すべきであり、また、買戻代金は、実質的には買戻権の行使による目的不動産の所有権の復帰についての対価と見ることができ、目的不動産の価値変形物として、民法372条により準用される304条にいう目的物の売却又は滅失によって債務者が受けるべき金銭に当たるといって差し支えないからである。
以上と同旨に帰する原審の判断は是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。


【平成12年4月14日,最高裁判所第2小法廷,債権差押命令に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件】

【判事事項】

抵当不動産の賃借人が取得する転貸賃料債権について抵当権者が物上代位権を行使することの可否


【裁判要旨】

抵当権者は、抵当不動産の賃借人を所有者と同視することを相当とする場合を除き、右賃借人が取得する転貸賃料債権について物上代位権を行使することができない。

一 本件は、原々決定別紙物件目録記載の建物に根抵当権の設定を受けた相手方が、物上代位権の行使として、右建物を賃借してこれを他に転貸している抗告人の転借人に対する転貸賃料債権につき差押命令(原々決定)を得たところ、抗告人が、右差押命令に対して執行抗告をし、抗告棄却決定に対して更に抗告をした事件である。記録によると、本件の事実関係は、次のとおりである。
1 相手方は、昭和63年6月21日、D(以下「D」という。)との間で、同人の株式会社E銀行に対する金銭消費貸借契約に基づく債務について保証委託契約を締結し、同年10月21日、D及びF(以下、右両名を併せて「Dら」という。)との間で、相手方のDに対する求償債権等を被担保債権として、Dら共有の本件建物に極度額を1億9800万円とする根抵当権を設定することを合意し、同日、その旨の登記を経由した。
2 本件建物は、昭和63年9月26日新築の3階建店舗兼共同住宅用建物である。
3 相手方は、平成9年10月28日、右保証委託契約に基づき、DのE銀行に対する債務7216万2812円を弁済し、Dに対して同額の求償債権を取得した。
4 Gは、右同日、Dらから本件建物を買い受け(同月30日所有権移転登記)、同月31日、抗告人に本件建物を賃貸し(同年11月17日賃借権設定仮登記)、抗告人は、第三債務者らに対し、本件建物の部屋のうち7室を転貸している。
5 相手方は、平成10年9月10日、横浜地方裁判所川崎支部に、本件根抵当権に基づく物上代位権の行使として、抗告人の第三債務者らに対する転貸賃料債権について差押命令を申し立て、同裁判所は、同月16日、本件債権差押命令を発した。
6 抗告人は、本件債権差押命令に対し、執行抗告をした。
二 原審は、抵当不動産の賃貸により抵当権設定者が取得する賃料債権に対しては、民法372条によって準用される同法304条1項により、抵当権者は物上代位権を行使することができるところ、同項に規定する「債務者」には、抵当権の設定者及び抵当不動産の第三取得者(以下、両者を併せて「所有者」という。)のほか、抵当権設定後に抵当不動産を賃借した者も含まれると解すべきであるから、抵当権者は、右の賃借人が取得すべき抵当不動産の転貸賃料債権に対しても、物上代位権を行使することができるとの理由により、本件差押命令を相当として、抗告人の執行抗告を棄却した。
三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。民法372条によって抵当権に準用される同法304条1項に規定する「債務者」には、原則として、抵当不動産の賃借人(転貸人)は含まれないものと解すべきである。けだし、所有者は被担保債権の履行について抵当不動産をもって物的責任を負担するものであるのに対し、抵当不動産の賃借人は、このような責任を負担するものではなく、自己に属する債権を被担保債権の弁済に供されるべき立場にはないからである。同項の文言に照らしても、これを「債務者」に含めることはできない。
また、転貸賃料債権を物上代位の目的とすることができるとすると、正常な取引により成立した抵当不動産の転貸借関係における賃借人(転貸人)の利益を不当に害することにもなる。もっとも、所有者の取得すべき賃料を減少させ、又は抵当権の行使を妨げるために、法人格を濫用し、又は賃貸借を仮装した上で、転貸借関係を作出したものであるなど、抵当不動産の賃借人を所有者と同視することを相当とする場合には、その賃借人が取得すべき転貸賃料債権に対して抵当権に基づく物上代位権を行使することを許すべきものである。
以上のとおり、【要旨】抵当権者は、抵当不動産の賃借人を所有者と同視することを相当とする場合を除き、右賃借人が取得すべき転貸賃料債権について物上代位権を行使することができないと解すべきであり、これと異なる原審の判断には、原決定に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原決定は破棄を免れない。そして、抗告人が本件建物の所有者と同視することを相当とする者であるかどうかについて更に審理を遂げさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。


【試験ポイント】✨

1✖【昭和44年3月28日,最高裁判所第2小法廷,強制執行の目的物に対する第三者異議】

2✖【昭和40年5月4日,最高裁判所第3小法廷,建物収去土地明渡請求】

3〇【平成11年11月30日,最高裁判所第3小法廷, 配当異議事件】

4✖【平成12年4月14日,最高裁判所第2小法廷,債権差押命令に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件】

5✖ 民法375条1項「抵当権者は、利息その他の定期金を請求する権利を有するときは、その満期となった最後の2年分についてのみ、その抵当権を行使することができる。」


【民法(改正対応)】

第304条(物上代位)
先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。
2 債務者が先取特権の目的物につき設定した物権の対価についても、前項と同様とする。

第370条(抵当権の効力の及ぶ範囲)
抵当権は、抵当地の上に存する建物を除き、その目的である不動産(以下「抵当不動産」という。)に付加して一体となっている物に及ぶ。ただし、設定行為に別段の定めがある場合及び債務者の行為について第424条第3項に規定する詐害行為取消請求をすることができる場合は、この限りでない。

第372条(留置権等の規定の準用)
第296条、第304条及び第351条の規定は、抵当権について準用する。

第375条(抵当権の被担保債権の範囲)
抵当権者は、利息その他の定期金を請求する権利を有するときは、その満期となった最後の2年分についてのみ、その抵当権を行使することができる。ただし、それ以前の定期金についても、満期後に特別の登記をしたときは、その登記の時からその抵当権を行使することを妨げない。
2 前項の規定は、抵当権者が債務の不履行によって生じた損害の賠償を請求する権利を有する場合におけるその最後の2年分についても適用する。ただし、利息その他の定期金と通算して2年分を超えることができない。


第三款 詐害行為取消権 第一目 詐害行為取消権の要件

第424条(詐害行為取消請求)
債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者(以下この款において「受益者」という。)がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。
2 前項の規定は、財産権を目的としない行為については、適用しない。
3 債権者は、その債権が第1項に規定する行為の前の原因に基づいて生じたものである場合に限り、同項の規定による請求(以下「詐害行為取消請求」という。)をすることができる。
4 債権者は、その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、詐害行為取消請求をすることができない。