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行政書士試験過去問 民法 時効の援用

【令和元年行政書士試験出題】

【問題】時効の援用に関する次のア~オの記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当でないものの組合せはどれか。

ア 時効による債権の消滅の効果は、時効期間の経過とともに確定的に生ずるものではなく、時効が援用されたときにはじめて確定的に生ずるものである。

イ 時効の援用を裁判上行使する場合には、事実審の口頭弁論終結時までにする必要がある。

ウ 被相続人の占有により取得時効が完成していた場合に、その共同相続人の一人は、自己の相続分の限度においてのみ取得時効を援用することができる。

エ 保証人や連帯保証人は、主たる債務の消滅時効を援用することはできるが、物上保証人や抵当不動産の第三取得者は、被担保債権の消滅時効を援用することはできない。

オ 主たる債務者である破産者が免責許可決定を受けた場合であっても、その保証人は、自己の保証債務を免れるためには、免責許可決定を受けた破産者の主たる債務について、消滅時効を援用しなければならない。

1 ア・イ

2 ア・エ

3 イ・ウ

4 ウ・オ

5 エ・オ


【昭和61年3月17日,最高裁判所第2小法廷, 所有権移転請求権保全仮登記 抹消登記手続等本訴、所有権移転請求権保全仮登記本登記手続反訴】

【判事事項】

農地の売買に基づく県知事に対する所有権移転許可申請協力請求権の消滅時効期間の経過後に右農地が非農地化した場合における所有権の移転及び非農地化後にされた時効援用の効力の有無


【裁判要旨】

農地の売買に基づく県知事に対する所有権移転許可申請協力請求権の消滅時効期間が経過してもその後に右農地が非農地化した場合には、買主に所有権が移転し、非農地化後にされた時効の援用は効力を生じない。

原判決は、(一)(1)原判決別紙物件目録記載の13筆の土地(以下「本件土地」という。)は、もとDの所有であり、農地であつたが、同人は、昭和31年12月15日本件土地を含む第一審判決物件目録記載の土地をEに売り渡し(以下「本件売買」という。)、売買代金全額の支払を受け、右土地につき同人に対し神戸地方法務局赤穂出張所昭和32年5月6日受付第922号をもつて所有権移転請求権保全仮登記(以下「本件仮登記」という。)をしたが、Dは昭和37年3月4日死亡し、被上告人らがその地位を相続した、(2)Fは、昭和43年11月4日Eから本件売買契約上の買主たる地位の譲渡を受け(以下「本件地位譲渡契約」という。)、第一審判決物件目録記載の土地につき同月11日同出張所受付第6259号をもつて本件仮登記につき右所有権移転請求権移転の附記登記(以下「本件附記登記」という。)を受けたが、昭和56年11月12日死亡し、上告人らが、Fの地位を相続し、本件土地を占有しているとの事実を確定したうえ、(二)(1)被上告人らの次の主張、すなわち、本件土地は本件売買当時から農地であつたので、本件売買は農地法所定の県知事の許可が法定条件となつていたところ、上告人らが本件売買に基づき被上告人らに対して有していた県知事に対する許可申請協力請求権(以下「本件許可申請協力請求権」という。)は、本件売買の成立した昭和31年12月15日から10年を経た同41年12月15日の経過とともに時効により消滅し、これにより右法定条件は不成就に確定し、本件土地の所有権はEに移転しないことが確定したから、本件土地は被上告人らに帰属することに確定した旨の主張を認め、本件土地の所有権に基づき、上告人らに対しその明渡と本件附記登記の抹消登記手続を求める被上告人らの本訴請求を認容すべきであるとし、(2)したがつてまた、本件売買及び本件地位譲渡契約により本件土地が上告人らの所有に帰属するに至つたとの上告人らの主張は排斥を免れないとし、被上告人らに対し本件土地につき本件附記登記に基づく本登記手続を求める上告人らの本件反訴請求を棄却すべきであるとしている。
しかしながら、原審の右判断は、首肯し難い。その理由は次のとおりである。民法167条1項は「債権ハ十年間之ヲ行ハサルニ因リテ消滅ス」と規定しているが、他方、同法145条及び146条は、時効による権利消滅の効果は当事者の意思をも顧慮して生じさせることとしていることが明らかであるから、時効による債権消滅の効果は、時効期間の経過とともに確定的に生ずるものではなく、時効が援用されたときにはじめて確定的に生ずるものと解するのが相当であり、農地の買主が売主に対して有する県知事に対する許可申請協力請求権の時効による消滅の効果も、10年の時効期間の経過とともに確定的に生ずるものではなく、売主が右請求権についての時効を援用したときにはじめて確定的に生ずるものというべきであるから、右時効の援用がされるまでの間に当該農地が非農地化したときには、その時点において、右農地の売買契約は当然に効力を生じ、買主にその所有権が移転するものと解すべきであり、その後に売主が右県知事に対する許可申請協力請求権の消滅時効を援用してもその効力を生ずるに由ないものというべきである。そして、本件記録によると、被上告人らが本件許可申請協力請求権の消滅時効を援用したのは昭和51年2月9日に提起した本件本訴の訴状においてであること、これに対し、上告人らは、原審において、本件土地はすくなくとも昭和46年8月5日以降は雑木等が繁茂し原野となつたから、本件売買は効力を生じた旨主張し、右主張に副う証拠として乙第三号証を提出していたことが認められるところ、上告人らの右主張事実を認めうるときには、本件売買は、本件土地が右非農地化した時点において、当然にその効力を生じ、被上告人らは本件土地の所有権を喪失するに至つたものと いうべきであり、したがつて、本件許可申請協力請求権の時効消滅は問題とする余地がなく、また、Eが本件売買契約上の買主の義務をすべて履行しているという原審確定の事実関係のもとにおいては、本件地位譲渡契約は被上告人らとの間においてもその効力を生じうる余地があるものというべきである。したがつて、上告人らの右主張について審理判断しなかつた原判決には、民法145条、167条1項の解釈適用の誤り、ひいては審理不尽、理由不備の違法があるものというべきであり、この違法をいう論旨は、理由があるから、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れないところ、上告人らの右主張について審理を尽くさせる必要があるから、本件を原審に差し戻すこととする。


【平成13年7月10日,最高裁判所第3小法廷,土地所有権移転登記手続請求 事件】

【判事事項】

被相続人の占有により取得時効が完成した場合において共同相続人の1人が取得時効を援用することができる限度


【裁判要旨】

被相続人の占有により取得時効が完成した場合において,その共同相続人の1人は,自己の相続分の限度においてのみ取得時効を援用することができる。


【平成11年11月9日,最高裁判所第3小法廷,求償債権請求事件】

【判事事項】

破産免責の効力の及ぶ債務の保証人とその債権の消滅時効の援用


【裁判要旨】

主債務者である破産者が免責決定を受けた場合に、免責決定の効力の及ぶ債務の保証人は、その債権についての消滅時効を援用することができない。


【試験ポイント】✨

ア〇【昭和61年3月17日,最高裁判所第2小法廷, 所有権移転請求権保全仮登記抹消登記手続等本訴、所有権移転請求権保全仮登記本登記手続反訴】

イ〇大判大正12年3月26日,「事実審である口頭弁論終了時までに」

ウ〇【平成13年7月10日,最高裁判所第3小法廷,土地所有権移転登記手続請求事件】

エ✖ 民法145条

オ✖【平成11年11月9日,最高裁判所第3小法廷,求償債権請求事件】

解答5


【民法(改正対応)】

第145条(時効の援用)
時効は、当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。