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行政書士試験過去問 判例 物権的請求権

【令和3年出題】
【問題】A所有の甲土地上に権原なくB所有の登記済みの乙建物が存在し、Bが乙建物をCに譲渡した後も建物登記をB名義のままとしていた場合において、その登記がBの意思に基づいてされていたときは、Bは、Aに対して乙建物の収去および甲土地の明渡しの義務を免れない。

【平成6年2月8日,最高裁判所第3小法廷,建物収去土地明渡】

【判事事項】

甲所有地上の建物所有者乙がこれを丙に譲渡した後もなお登記名義を保有する場合における建物収去・土地明渡義務者


【裁判要旨】

甲所有地上の建物を取得し、自らの意思に基づいてその旨の登記を経由した乙は、たとい右建物を丙に譲渡したとしても、引き続き右登記名義を保有する限り、甲に対し、建物所有権の喪失を主張して建物収去・土地明渡しの義務を免れることはできない。

一 原審の適法に確定したところによると、(1)上告人は、平成2年11月5日、別紙物件目録(一)、(二)記載の土地(以下「本件土地」という。)を競売による売却により取得したが、本件土地上には、同目録(三)記載の建物(以下「本件建物」という。)が存する、(2)本件建物は被上告人の夫であるDの所有であったが、同人が昭和58年5月4日死亡したため、被上告人が相続によりこれを取得してその旨の登記を経由した(記録によると、登記を経由したのは同年12月2日である。)、(3)被上告人は、同年5月17日、本件建物をEに代金250万円で売り渡したが、登記簿上、本件建物は被上告人所有名義のままとなっている、というのである。
本件訴訟において、上告人は、本件建物の所有者はその所有権移転登記を有する被上告人であり、同人が本件建物を所有することにより本件土地を占有していると主張して、所有権に基づき本件建物収去による本件土地明渡しを求めるのに対し、被上告人は、Eへの売却により本件建物の所有権を失ったから本件土地を占有するものではないと主張するところ、原審は、右事実関係の下において、被上告人の主張を容れ、被上告人が本件建物を所有し本件土地を占有しているとの上告人の主張は理由がないとして、上告人の右請求を棄却すべきものとし、これと同旨の第1審判決に対する上告人の控訴を棄却した。
二 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
1 土地所有権に基づく物上請求権を行使して建物収去・土地明渡しを請求するには、現実に建物を所有することによってその土地を占拠し、土地所有権を侵害している者を相手方とすべきである。したがって、未登記建物の所有者が未登記のままこれを第三者に譲渡した場合には、これにより確定的に所有権を失うことになるから、その後、その意思に基づかずに譲渡人名義に所有権取得の登記がされても、右譲渡人は、土地所有者による建物収去・土地明渡しの請求につき、建物の所有権の喪失により土地を占有していないことを主張することができるものというべきであり(最高裁昭和31年(オ)第119号同35年6月17日第2小法廷判決・民集14巻8号1396頁参照)、また、建物の所有名義人が実際には建物を所有したことがなく、単に自己名義の所有権取得の登記を有するにすぎない場合も、土地所有者に対し、建物収去・土地明渡しの義務を負わないものというべきである(最高裁昭和44年(オ)第1215号同47年12月7日第1小法廷判決・民集26巻10号1829頁参照)。
2 もっとも、他人の土地上の建物の所有権を取得した者が自らの意思に基づいて所有権取得の登記を経由した場合には、たとい建物を他に譲渡したとしても、引き続き右登記名義を保有する限り、土地所有者に対し、右譲渡による建物所有権の喪失を主張して建物収去・土地明渡しの義務を免れることはできないものと解するのが相当である。けだし、建物は土地を離れては存立し得ず、建物の所有は必然的に土地の占有を伴うものであるから、土地所有者としては、地上建物の所有権の帰属につき重大な利害関係を有するのであって、土地所有者が建物譲渡人に対して所有権に基づき建物収去・土地明渡しを請求する場合の両者の関係は、土地所有者が地上建物の譲渡による所有権の喪失を否定してその帰属を争う点で、あたかも建物についての物権変動における対抗関係にも似た関係というべく、建物所有者は、自らの意思に基づいて自己所有の登記を経由し、これを保有する以上、右土地所有者との関係においては、建物所有権の喪失を主張できないというべきであるからである。もし、これを、登記に関わりなく建物の「実質的所有者」をもって建物収去・土地明渡しの義務者を決すべきものとするならば、土地所有者は、その探求の困難を強いられることになり、また、相手方において、たやすく建物の所有権の移転を主張して明渡しの義務を免れることが可能になるという不合理を生ずるおそれがある。他方、建物所有者が真実その所有権を他に譲渡したのであれば、その旨の登記を行うことは通常はさほど困難なこととはいえず、不動産取引に関する社会の慣行にも合致するから、登記を自己名義にしておきながら自らの所有権の喪失を主張し、その建物の収去義務を否定することは、信義にもとり、公平の見地に照らして許されないものといわなければならない。
3 これを本件についてみるのに、原審の認定に係る前示事実関係によれば、本件建物の所有者である被上告人はEとの間で本件建物についての売買契約を締結したにとどまり、その旨の所有権移転登記手続を了していないというのであるから、被上告人は、上告人に対して本件建物の所有権の喪失を主張することができず、したがって、本件建物収去・土地明渡しの義務を免れないものというべきである。
三 そうしてみると、本件建物の譲渡を理由に被上告人は本件土地の占有者に当たらず、建物収去・土地明渡しの義務を負わないとした原審の判断には、右明渡義務が認められる場合についての法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、その趣旨をいう論旨は理由があり、原判決は破棄を免れず、前示事実関係に照らせば、上告人の請求は認容すべきものである。
よって、原判決を破棄し、第1審判決を取り消した上、上告人の請求を認容することとし、民訴法408条、396条、386条、96条、89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。


【昭和35年6月17日,最高裁判所第二小法廷,建物収去土地明渡請求】

【判事事項】

敷地不法占有と家屋収去請求の相手方。


【裁判要旨】

仮処分申請に基き、裁判所の嘱託により家屋所有権保存登記がなされている場合であつても、仮処分前に家屋を未登記のまま第三者に譲渡しその敷地を占拠していない右保存登記名義人に対し、敷地所有者から敷地不法占有を理由として家屋収去請求をすることは許されない。

『本訴は土地の所有者たる上告人(原告)が、被上告人(被告)は上告人所有の右地上に家屋を所有して、何等の権限なく不法に上告人の土地を占拠し、よつて上告人の土地所有権を侵害しているとして、土地の所有権にもとづき、その妨害排除をもとめる物上請求権の行使並びに右所有権の侵害を原因とする損害賠償の訴訟である。右のような土地の所有権にもとづく物上請求権の訴訟においては、現実に家屋を所有することによつて現実にその土地を占拠して土地の所有権を侵害しているものを被告としなければならないのである。しかるに、本件においては被上告人は、かつて右家屋の所有者ではあつたが、上告人が本件土地を買い取る以前に(もとより、上告人のした所論仮処分より前に)右家屋を未登記のまま第三者に譲渡し現在は家屋の所有者でないことは原判決の確定するところである。すなわち被上告人は現在においては右家屋に対しては何等管理処分等の権能もなければ、事実上これを支配しているものでもなく、また、登記ある地上家屋の所有者というにもあたらない。(現在登記簿上本件家屋について、被上告人名義の保存登記が存在するけれども、これは被上告人が本件家屋を未登記のまま譲渡した后に、上告人の仮処分申請にもとづいて、裁判所の嘱託によつて為されたものであつて、被上告人の関知するところでないことは原判決の確定するところである。)従つて、被上告人は現実に上告人の土地を占拠して上告人の土地の所有権を侵害しているものということはできないのであつて、かかる被上告人に対して、物上請求権を行使して地上建物の収去をもとめることは許されないものと解すべきであり、(昭和13年(オ)第1271号同年12月2日言渡大審院判決参照)また、被上告人は上告人が本件土地の所有権を取得する以前に右家屋を未登記のまま譲渡したこと前叙のごとくであるから、上告人の所有権の侵害を原因とする本訴損害賠償の請求も理由のないものといわなければならない。これと同趣旨に出た原判決は正当であつて論旨は理由がない。』


解答〇