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行政書士試験過去問解説 行政事件訴訟法が定める抗告訴訟の対象

【令和5年行政書士試験出題】

【問題】行政事件訴訟法が定める抗告訴訟の対象に関する次の記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、妥当なものはどれか。

1 登録免許税を過大に納付して登記を受けた者が登録免許税法に基づいてした登記機関から税務署長に還付通知をすべき旨の請求に対し、登記機関のする拒否通知は、当該請求者の権利に直接影響を及ぼす法的効果を有さないため、抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらない。

2 行政庁が建築基準法に基づいて、いわゆるみなし道路を告示により一括して指定する行為は、特定の土地について個別具体的な指定をしたものではなく、一般的基準の定立を目的としたものにすぎず、告示による建築制限等の制限の発生を認めることができないので、抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらない。

3 労災就学援護費に関する制度の仕組みに鑑みると、被災労働者またはその遺族は、労働基準監督署長の支給決定によって初めて具体的な労災就学援護費の支給請求権を取得するため、労働基準監督署長が行う労災就学援護費の支給または不支給の決定は、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる。

4 市町村長が住民基本台帳法に基づき住民票に続柄を記載する行為は、公の権威をもって住民の身分関係を証明し、それに公の証明力を与える公証行為であるから、それ自体によって新たに国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定する法的効果を有するため、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる。

5 都市計画法の規定に基づく用途地域指定の決定が告示された場合、その効力が生ずると、当該地域内においては、建築物の用途、容積率、建ぺい率等につき従前と異なる基準が適用され、これらの基準に適合しない建築物については建築確認を受けることができなくなる効果が生じるので、用途地域指定の決定は、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる。


【よく出題される処分性が認められた判例】↓

【昭和54年12月25日,最高裁判所第三小法廷,異議申出棄却決定取消】,こちら
【昭和59年12月12日,最高裁判所大法廷, 輸入禁制品該当通知処分等取消】,こちら
【昭和60年12月17日,最高裁判所第三小法廷,仮換地指定処分無効確認】,こちら
【平成4年11月26日,最高裁判所第一小法廷,大阪都市計画事業等事業計画決定取消】,こちら
【平成9年3月11日,最高裁判所第三小法廷,土地所有権保存登記申請却下決定処分取消等請求、訴えの追加的併合】,こちら
出題【平成14年1月17日,最高裁判所第一小法廷,道路判定処分無効確認請求事件】,こちら
出題【平成15年9月4日,最高裁判所第一小法廷,労災就学援護費不支給処分取消請求事件】,こちら
出題【平成17年4月14日,最高裁判所第一小法廷,処分取消請求事件】,こちら
【平成20年9月10日,最高裁判所大法廷,行政処分取消請求事件】,こちら


【よく出題される処分性が否定された判例】↓

【昭和39年10月29日,最高裁判所第一小法廷,ごみ焼場設置条例無効確認等請求】,こちら
【昭和41年2月23日,最高裁判所大法廷,区画整理事業設計等無効確認請求】,こちら
出題【昭和57年4月22日,最高裁判所第一小法廷, 盛岡広域都市計画用途地域指定無効確認】,こちら
【昭和57年5月27日,最高裁判所第一小法廷,採用内定取消処分取消等】,こちら
【平成6年4月22日,最高裁判所第二小法廷,都市計画法による地区計画無効確認】,こちら
【平成7年3月23日,最高裁判所第一小法廷,不作為の違法確認等】,こちら
【平成8年2月22日,最高裁判所第一小法廷,学校規則違法確認等請求、同参加、公法上の義務不存在確認等追加的併合申立】,こちら
出題【平成11年1月21日,最高裁判所第一小法廷,住民票記載処分取消、損害賠償】,こちら


【試験ポイント】✨

1✖【平成17年4月14日,最高裁判所第一小法廷,処分取消請求事件】,登記機関のする拒否通知は,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる。
2✖【平成14年1月17日,最高裁判所第一小法廷,道路判定処分無効確認請求事件】,告示により一定の条件に合致する道を一括して指定する方法でされた建築基準法42条2項所定のいわゆるみなし道路の指定は,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる。
3〇【平成15年9月4日,最高裁判所第一小法廷,労災就学援護費不支給処分取消請求事件】,こちら
4✖【平成11年1月21日,最高裁判所第一小法廷,住民票記載処分取消、損害賠償】,市町村長が住民票に世帯主との続柄を記載する行為は、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たらない。
5✖【昭和57年4月22日,最高裁判所第1小法廷,盛岡広域都市計画用途地域指定無効確認】,都市計画法8条1項1号の規定に基づく工業地域指定の決定は、抗告訴訟の対象とならない。


【平成17年4月14日,最高裁判所第一小法廷,処分取消請求事件】

【判事事項】

1 過大に登録免許税を納付して登記等を受けた者が登録免許税法(平成14年法律第152号による改正前のもの)31条2項所定の請求の手続によらないで過誤納金の還付を請求することの可否

2 登記等を受けた者が登録免許税法(平成14年法律第152号による改正前のもの)31条2項に基づいてした請求に対する登記機関の拒否通知と抗告訴訟の対象


【裁判要旨】

1 過大に登録免許税を納付して登記等を受けた者は,登録免許税法(平成14年法律第152号による改正前のもの)31条2項所定の請求の手続によらなくても,国税通則法56条に基づき,過誤納金の還付を請求することができる。

2 登記等を受けた者が登録免許税法(平成14年法律第152号による改正前のもの)31条2項に基づいてした登記機関から税務署長に還付通知をすべき旨の請求に対し,登記機関のする拒否通知は,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる。(1につき反対意見がある。)

『1 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1)被上告人は,所有していた兵庫県西宮市a町所在の建物が平成7年1月17日に発生した阪神・淡路大震災により損壊したため,上記建物を取り壊した。
(2)被上告人は,第1審判決別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)を新築した。本件建物について平成9年12月2日付けで表示登記がされた。
(3)被上告人は,平成9年12月4日,本件建物について自分を登記名義人とする保存登記を申請し,登録免許税として本件建物の課税価格の1000分の6に相当する72万3000円を納付した。上告人は,同日,第1審判決別紙登記目録記載の保存登記をした。
(4)被上告人は,上告人に対し,平成10年3月4日到達の書面で,登録免許税法(平成14年法律第152号による改正前のもの。以下同じ。) 31条2項に基づき,阪神・淡路大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律(平成11年法律第160号による改正前のもの)37条1項所定の登録免許税の免税措置が適用されることを理由に,所轄税務署長に対して登録免許税法31条1項の通知をすべき旨の請求をした。
(5)上告人は,被上告人に対し,平成10年3月14日到達の書面で,登録免許税の過誤納がなく,所轄税務署長に対して登録免許税法31条1項の通知をすることはできない旨の通知(以下「本件拒否通知」という。)をした。
2 本件は,被上告人が,上告人に対し,本件拒否通知の取消しを請求する事案である。
3 原審は,本件拒否通知が抗告訴訟の対象となる行政処分に当たらないとして ,本件訴えを却下すべきものとした。
4 しかしながら,本件拒否通知が抗告訴訟の対象となる行政処分に当たらないとした原審の判断は,是認することができない。その理由は,次のとおりである。(1)登録免許税については,納税義務は登記の時に成立し,納付すべき税額は納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで確定する(国税通則法(平成11年法律第10号による改正前のもの。以下同じ。)15条2項14号,3項6号)。そこで,登録免許税の納税義務者は,過大に登録免許税を納付して登記等を受けた場合には,そのことによって当然に還付請求権を取得し,同法56条,74条により5年間は過誤納金の還付を受けることができるのであり(登録免許税法31条6項4号参照),その還付がされないときは,還付金請求訴訟を提起することができる。この点につき登録免許税法31条1項は,同項各号のいずれかに該当する事実があるときは,登記機関が職権で遅滞なく所轄税務署長に過誤納金の還付に関する通知をしなければならないことを規定している。これは,登録免許税については,登記等をするときに登記機関がその課税標準及び税額の認定をして登録免許税の額の納付の事実の確認を行うこととしていることに対応する規定であり,登記機関が職権で所轄税務署長に対して過誤納金の存在及びその額を通知することとし,これにより登録免許税の過誤納金の還付が円滑かつ簡便に行われるようにすることを目的とする。そして,同条2項は,登記等を受けた者が登記機関に申し出て上記の通知をすべき旨の請求をすることができることとし,登記等を受けた者が職権で行われる上記の通知の手続を利用して簡易迅速に過誤納金の還付を受けることができるようにしている。
同条1項及び2項の趣旨は,上記のとおり,過誤納金の還付が円滑に行われるようにするために簡便な手続を設けることにある。同項が上記の請求につき1年の期間制限を定めているのも,登記等を受けた者が上記の簡便な手続を利用するについてその期間を画する趣旨であるにすぎないのであって,当該期間経過後は還付請求権が存在していても一切その行使をすることができず,登録免許税の還付を請求するには専ら同項所定の手続によらなければならないこととする手続の排他性を定めるものであるということはできない。
このように解さないと,税務署長が登記等を受けた者から納付していない登録免許税の納付不足額を徴収する場合には,国税通則法72条所定の国税の徴収権の消滅時効期間である5年間はこれを行うことが可能であるにもかかわらず,登録免許税の還付については,同法74条所定の還付金の消滅時効期間である5年間が経過する前に,1年の期間の経過によりその還付を受けることができなくなることとなり,納付不足額の徴収と権衡を失するものといわざるを得ない。
なお,申告納税方式の国税については,納税義務者が,自己の管理,支配下において生じた課税の根拠等となる事実に基づき,自己の責任で行う確定申告により納付すべき税額が確定するという原則が採られているため,納税申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより,当該申告書の提出により納付すべき税額が過大であるときなどには,当該申告書に係る国税の法定申告期限から1年以内に限り,税務署長に対し,更正をすべき旨の請求をすることができるのであって,上記期間を超えて上記の請求をすることができるのはやむを得ない理由がある場合に限られることとされている(国税通則法23条1項及び2項)。これは,申告納税方式の下では,自己の責任において確定申告をするために,その誤りを是正するについて法的安定の要請に基づき短期の期間制限を設けられても,納税義務者としてはやむを得ないことであるということができるからである。
これに対し,登録免許税は,納税義務は登記の時に成立し,納付すべき税額は納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで確定するのであるから,登録免許税法31条2項所定の請求は,申告納税方式の国税について定める国税通則法23条所定の更正の請求とはその前提が異なるといわざるを得ず,これらを同列に論ずることはできない。ちなみに,同法70条は,申告納税方式の国税について行うことがある更正,決定等について所定の場合に応じた期間制限を定めているのであり,更正については,偽りその他不正の行為により税額を免れたような場合を除くと,その更正に係る国税の法定申告期限から3年を経過した日以後においては,更正をすることができないこととしている(同条1項)。
以上のとおり,【要旨1】登録免許税法31条2項は,登録免許税の還付を請求するには専ら上記の請求の手続によるべきであるとする手続の排他性を規定するものということはできない。したがって,登記等を受けた者は,過大に登録免許税を納付した場合には,同項所定の請求に対する拒否通知の取消しを受けなくても,国税通則法56条に基づき,登録免許税の過誤納金の還付を請求することができるものというべきである。
そうすると,同項が登録免許税の過誤納金の還付につき排他的な手続を定めていることを理由に,同項に基づく還付通知をすべき旨の請求に対してされた拒否通知が抗告訴訟の対象となる行政処分に当たると解することはできないといわざるを得ない。
(2)しかしながら,上述したところにかんがみると,登録免許税法31条2項は,登記等を受けた者に対し,簡易迅速に還付を受けることができる手続を利用することができる地位を保障しているものと解するのが相当である。そして,同項に基づく還付通知をすべき旨の請求に対してされた拒否通知は,登記機関が還付通知を行わず,還付手続を執らないことを明らかにするものであって,これにより,登記等を受けた者は,簡易迅速に還付を受けることができる手続を利用することができなくなる。そうすると,【要旨2】上記の拒否通知は,登記等を受けた者に対して上記の手続上の地位を否定する法的効果を有するものとして,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たると解するのが相当である。
5 以上述べたところと異なる見解に立って本件訴えを不適法として却下すべきものとした原審の判断には,法令の解釈適用を誤った違法があるものといわざるを得ない。しかしながら,被上告人は,国を相手方とし,前記のとおり納付した登録免許税の還付請求に係る訴えを本件訴えに併合して提起したところ,原審は,上記のとおり本件訴えを却下すべきものとするとともに,被上告人の国に対する還付請求についてはこれを棄却する旨の判決を言い渡し,同判決のうち上記の請求を棄却する部分が確定したことは記録上明らかであるから,被上告人が前記のとおり納付した登録免許税の還付を受けることができる地位にないことは既判力をもって確定されている。したがって,被上告人は,本件訴えにおいて本件拒否通知を取り消す旨の判決を得たとしても,これによって上記の還付を受けることができる地位を回復する余地はないから,本件訴えにつき訴えの利益を有するものとすることはできない。そうすると,本件訴えを不適法として却下すべきものとした原審の判断は,結論において是認することができる。論旨は,結局,採用することができない。よって,裁判官泉徳治の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。』


【平成14年1月17日,最高裁判所第一小法廷,道路判定処分無効確認請求事件】

【判事事項】

告示により一括して指定する方法でされた建築基準法42条2項所定のいわゆるみなし道路の指定と抗告訴訟の対象


【裁判要旨】

告示により一定の条件に合致する道を一括して指定する方法でされた建築基準法42条2項所定のいわゆるみなし道路の指定は,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる。

『1 本件は,第1審判決添付の物件目録記載の土地(以下「本件通路部分」という。)に面し一部が本件通路部分に含まれる土地を所有する上告人が,本件通路部分について,建築基準法(以下「法」という。)42条2項の規定により同条1項の道路とみなされる道路(以下「2項道路」という。)に指定する旨の被上告人の処分が存在しないことの確認を求めている事案である。
2 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1)本件通路部分を含む奈良県南葛城郡a町(現在の奈良県御所市)は,法の施行日である昭和25年11月23日以前から都市計画区域に指定されていたところ,被上告人は,同年11月28日付け奈良県告示第351号により,「都市計画区域内において建築基準法施行の際現に建築物が立ち並んでいる幅員4m未満1 .8m以上の道」を2項道路に指定し,同37年12月28日付け奈良県告示第327号(以下「本件告示」という。)により,上記第351号の告示を廃止するとともに「幅員4m未満1.8m以上の道」を2項道路に指定した。
(2)上告人が,前記所有地上の建物新築工事の建築確認申請に先立ち,本件通路部分が2項道路に当たるか否かを奈良県高田土木事務所に照会したところ,平成元年1月30日,建築主事から本件通路部分は2項道路である旨の回答がされた。
3 原審は,上記事実関係の下で,本件告示は,包括的に一括して幅員4m未満1.8m以上の道を2項道路とすると定めたにとどまり,本件通路部分等特定の土地について個別具体的にこれを指定するものではなく,不特定多数の者に対して一般的抽象的な基準を定立するものにすぎないのであって,これによって直ちに建築制限等の私権制限が生じるものでないから,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たらないとし,本件訴えを不適法なものとして却下した。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は次のとおりである。
(1)法42条2項は,同条1項各号の道路に該当しない道であっても,法第3章の規定が適用されるに至った時点において,現に建築物が立ち並んでいる幅員4m未満の道で,特定行政庁の指定したものは,同項の道路とみなし,その中心線から水平距離2mの線を道路の境界とみなすものとしている。同条2項の特定行政庁の指定は,同項の要件を満たしている道について,個別具体的に対象となる道を2項道路に指定するいわゆる個別指定の方法でされることがある一方で,本件告示のように,一定の条件に合致する道について一律に2項道路に指定するいわゆる一括指定の方法でされることがある。同項の文言のみからは,一括指定の方法をも予定しているか否かは必ずしも明らかではないが,法の前身というべき市街地建築物法の建築線制度における行政官庁による指定建築線については行政官庁の制定する細則による一括指定もされていたこと,同項の規定は法の適用時点において多数存在していた幅員4m未満の道に面する敷地上の既存建築物を救済する目的を有すること,現に法施行直後から多数の特定行政庁において一括指定の方法による2項道路の指定がされたが,このような指定方法自体が法の運用上問題とされることもなかったことなどを勘案すれば,同項はこのような一括指定の方法による特定行政庁の指定も許容しているものと解することができる。
本件告示は,幅員4m未満1.8m以上の道を一括して2項道路として指定するものであるが,これによって,法第3章の規定が適用されるに至った時点において現に建築物が立ち並んでいる幅員4m未満の道のうち,本件告示の定める幅員1.8m以上の条件に合致するものすべてについて2項道路としての指定がされたこととなり,当該道につき指定の効果が生じるものと解される。
原判決は,特定の土地について個別具体的に2項道路の指定をするものではない本件告示自体によって直ちに私権制限が生じるものではない旨をいう。
しかしながら,それが,本件告示がされた時点では2項道路の指定の効果が生じていないとする趣旨であれば,結局,本件告示の定める条件に合致する道であっても,個別指定の方法による指定がない限り,特定行政庁による2項道路の指定がないことに帰することとなり,そのような見解は相当とはいえない。
そして,本件告示によって2項道路の指定の効果が生じるものと解する以上,このような指定の効果が及ぶ個々の道は2項道路とされ,その敷地所有者は当該道路につき道路内の建築等が制限され(法44条),私道の変更又は廃止が制限される(法45条)等の具体的な私権の制限を受けることになるのである。
そうすると,特定行政庁による2項道路の指定は,それが一括指定の方法でされた場合であっても,個別の土地についてその本来的な効果として具体的な私権制限を発生させるものであり,個人の権利義務に対して直接影響を与えるものということができる。
したがって,【要旨】本件告示のような一括指定の方法による2項道路の指定も ,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たると解すべきである。
(2)そして,本件訴えは,本件通路部分について,本件告示による2項道路の指定の不存在確認を求めるもので,行政事件訴訟法3条4項にいう処分の存否の確認を求める抗告訴訟であり,同法36条の要件を満たすものということができる。
5 以上によれば,本件訴えは適法なものとすべきところ,これと異なる見解に立って本件訴えを不適法として却下した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,本案について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。』


【平成11年1月21日,最高裁判所第一小法廷,住民票記載処分取消、損害賠償】

【判事事項】

一 市町村長が住民票に世帯主との続柄を記載する行為と抗告訴訟の対象

二 市長が住民票に非嫡出子の世帯主との続柄を「子」と記載した行為に国家賠償法1条1項にいう違法がないとされた事例


【裁判要旨】

一 市町村長が住民票に世帯主との続柄を記載する行為は、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たらない。

二 市長が住民票に非嫡出子の世帯主との続柄を「子」と記載した行為は、住民基本台帳の記載方法等に関して国が定めた右行為当時の住民基本台帳事務処理要領に、世帯主の嫡出子の続柄は「長男」、「二女」等と、非嫡出子のそれは「子」と記載することと定めており、右市長もこれに従って右続柄の記載をしたものであり、右の定めが明らかに住民基本台帳法の解釈を誤ったものということはできないなど判示の事情の下においては、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然とされたものとはいえず、右行為には国家賠償法1条1項にいう違法がない。


【昭和57年4月22日,最高裁判所第1小法廷,盛岡広域都市計画用途地域指定無効確認】

【判事事項】

都市計画法8条1項1号の規定に基づく工業地域指定の決定と抗告訴訟の対象


【裁判要旨】

都市計画法8条1項1号の規定に基づく工業地域指定の決定は、抗告訴訟の対象とならない。

都市計画区域内において工業地域を指定する決定は、都市計画法8条1項1号に基づき都市計画決定の一つとしてされるものであり、右決定が告示されて効力を生ずると、当該地域内においては、建築物の用途、容積率、建ぺい率等につき従前と異なる基準が適用され(建築基準法48条7項、52条1項3号、53条1項2号等)、これらの基準に適合しない建築物については、建築確認を受けることができず、ひいてその建築等をすることができないこととなるから(同法6条4項、5項)、右決定が、当該地域内の土地所有者等に建築基準法上新たな制約を課し、その限度で一定の法状態の変動を生ぜしめるものであることは否定できないが、かかる効果は、あたかも新たに右のような制約を課する法令が制定された場合におけると同様の当該地域内の不特定多数の者に対する一般的抽象的なそれにすぎず、このような効果を生ずるということだけから直ちに右地域内の個人に対する具体的な権利侵害を伴う処分があつたものとして、これに対する抗告訴訟を肯定することはできない。もつとも、右のような法状態の変動に伴い将来における土地の利用計画が事実上制約されたり、地価や土地環境に影響が生ずる等の事態の発生も予想されるが、これらの事由は未だ右の結論を左右するに足りるものではない。なお、右地域内の土地上に現実に前記のような建築の制限を超える建物の建築をしようとしてそれが妨げられている者が存する場合には、その者は現実に自己の土地利用上の権利を侵害されているということができるが、この場合右の者は右建築の実現を阻止する行政庁の具体的処分をとらえ、前記の地域指定が違法であることを主張して右処分の取消を求めることにより権利救済の目的を達する途が残されていると解されるから、前記のような解釈をとつても格別の不都合は生じないというべきである。右の次第で、本件工業地域指定の決定は、抗告訴訟の対象となる処分にはあたらないと解するのが相当であり、これと同旨の原審の判断は正当であつて、原判決に所論の違法はない。論旨は、違憲をいう点を含め、独自の見解に立つて右判断の不当をいうもので、採用することができない。』