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行政書士試験過去問解説 空港や航空関連施設をめぐる裁判

【令和5年行政書士試験出題】

【問題】空港や航空関連施設をめぐる裁判に関する次の記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、妥当なものはどれか。

1 いわゆる「新潟空港訴訟」(最二小判平成元年2月17日民集43巻2号56頁)では、定期航空運送事業免許の取消訴訟の原告適格が争点となったところ、飛行場周辺住民には、航空機の騒音によって社会通念上著しい障害を受けるとしても、原告適格は認められないとされた。

2 いわゆる「大阪空港訴訟」(最大判昭和56年12月16日民集35巻10号1369頁)では、空港の供用の差止めが争点となったところ、人格権または環境権に基づく民事上の請求として一定の時間帯につき航空機の離着陸のためにする国営空港の供用についての差止めを求める訴えは適法であるとされた。

3 いわゆる「厚木基地航空機運航差止訴訟」(最一小判平成28年12月8日民集70巻8号1833頁)では、周辺住民が自衛隊機の夜間の運航等の差止めを求める訴訟を提起できるかが争点となったところ、当該訴訟は法定の抗告訴訟としての差止訴訟として適法であるとされた。

4 いわゆる「成田新法訴訟」(最大判平成4年7月1日民集46巻5号437頁)では、新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法(当時)の合憲性が争点となったところ、憲法31条の法定手続の保障は刑事手続のみでなく行政手続にも及ぶことから、適正手続の保障を欠く同法の規定は憲法31条に違反するとされた。

5 いわゆる「成田新幹線訴訟」(最二小判昭和53年12月8日民集32巻9号1617頁)では、成田空港と東京駅を結ぶ新幹線の建設について、運輸大臣の工事実施計画認可の取消訴訟の原告適格が争点となったところ、建設予定地付近に居住する住民に原告適格が認められるとされた。


「新潟空港訴訟」【平成元年2月17日,最高裁判所第二小法廷,新潟─小松─ソウル間の定期航空運送事業免許処分取消請求事件】

【判事事項】

定期航空運送事業免許の取消訴訟と飛行場周辺住民の原告適格


【裁判要旨】

定期航空運送事業免許に係る路線を航行する航空機の騒音によつて社会通念上著しい障害を受けることとなる飛行場周辺住民は、当該免許の取消しを訴求する原告適格を有する。


「大阪空港訴訟」【昭和56年12月16日,最高裁判所大法廷,大阪国際空港夜間飛行禁止等】

【判事事項】

一 民事上の請求として一定の時間帯につき航空機の離着陸のためにする国営空港の供用の差止めを求める訴えの適否

二 営造物の利用の態様及び程度が一定の限度を超えるために利用者又は第三者に対して危害を生ぜしめる危険性がある場合と国家賠償法2条1項にいう営造物の設置又は管理の瑕疵

三 国営空港に離着陸する航空機の騒音が一定の程度に達しており空港周辺地域の住民の一部により右騒音を原因とする空港供用の差止請求等の訴訟が提起されているなどの状況のもとに右地域に転入した者が右騒音により被害を受けたとして国に対し慰藉料を請求した場合につき右請求を排斥すべき事由がないとした認定判断に経験則違背等の違法があるとされた事例

四 将来にわたつて継続する不法行為に基づく損害賠償請求権が将来の給付の訴えを提起することのできる請求権としての適格性を有するとされるための要件


【裁判要旨】

一 民事上の請求として一定の時間帯につき航空機の離着陸のためにする国営空港の供用の差止めを求める訴えは、不適法である。

二 営造物の利用の態様及び程度が一定の限度にとどまる限りはその施設に危害を生ぜしめる危険性がなくても、これを超える利用によつて利用者又は第三者に対して危害を生ぜしめる危険性がある状況にある場合には、そのような利用に供される限りにおいて右営造物につき国家賠償法2条1項にいう設置又は管理の瑕疵があるものというべきである。

三 当該空港に離着陸する航空機の騒音がその頻度及び大きさにおいて一定の程度に達しており、また、空港周辺住民の一部により右騒音を原因とする空港供用差止請求等の訴訟が提起され、主要日刊新聞紙上に当該空港周辺における騒音問題が頻々として報道されていたなど、判示のような状況のもとに空港周辺地域に転入した者が空港の設置・管理者たる国に対し右騒音による被害について慰藉料の支払を求めたのに対し、特段の事情の存在を確定することなく、転入当時右の者は航空機騒音が問題になつている事情ないしは航空機騒音の存在の事実をよく知らなかつたものとし、右請求を排斥すべき理由はないとした原審の認定判断には、経験則違背等の違法がある。

四 現在不法行為が行われており、同一態様の行為が将来も継続することが予想されても、損害賠償請求権の成否及びその額をあらかじめ一義的に明確に認定することができず、具体的に請求権が成立したとされる時点においてはじめてこれを認定することができ、かつ、右権利の成立要件の具備については債権者がこれを立証すべきものと考えられる場合には、かかる将来の損害賠償請求権は、将来の給付の訴えを提起することのできる請求権としての適格性を有しない。


「厚木基地航空機運航差止訴訟」【平成28年12月8日,最高裁判所第一小法廷,各航空機運航差止等請求事件】

【判事事項】

1 自衛隊が設置し,海上自衛隊及びアメリカ合衆国海軍が使用する飛行場の周辺住民が,当該飛行場における航空機の運航による騒音被害を理由として自衛隊の使用する航空機の運航の差止めを求める訴えについて,行政事件訴訟法37条の4第1項所定の「重大な損害を生ずるおそれ」があると認められた事例

2 自衛隊が設置し,海上自衛隊及びアメリカ合衆国海軍が使用する飛行場における自衛隊の使用する航空機の運航に係る防衛大臣の権限の行使が,行政事件訴訟法37条の4第5項所定の行政庁がその処分をすることがその裁量権の範囲を超え又はその濫用となると認められるときに当たるとはいえないとされた事例


【裁判要旨】

1 自衛隊が設置し,海上自衛隊及びアメリカ合衆国海軍が使用する飛行場の周辺に居住する住民が,当該飛行場における航空機の運航による騒音被害を理由として,自衛隊の使用する航空機の毎日午後8時から午前8時までの間の運航等の差止めを求める訴えについて,①上記住民は,当該飛行場周辺の「防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律」4条所定の第一種区域内に居住し,当該飛行場に離着陸する航空機の発する騒音により,睡眠妨害,聴取妨害及び精神的作業の妨害や不快感等を始めとする精神的苦痛を反復継続的に受けており,その程度は軽視し難いこと,②このような被害の発生に自衛隊の使用する航空機の運航が一定程度寄与していること,③上記騒音は,当該飛行場において内外の情勢等に応じて配備され運航される航空機の離着陸が行われる度に発生するものであり,上記被害もそれに応じてその都度発生し,これを反復継続的に受けることにより蓄積していくおそれのあるものであることなど判示の事情の下においては,当該飛行場における自衛隊の使用する航空機の運航の内容,性質を勘案しても,行政事件訴訟法37条の4第1項所定の「重大な損害を生ずるおそれ」があると認められる。

2 自衛隊が設置し,海上自衛隊及びアメリカ合衆国海軍が使用する飛行場における,自衛隊の使用する航空機の毎日午後8時から午前8時までの間の運航等に係る防衛大臣の権限の行使は,①上記運航等が我が国の平和と安全,国民の生命,身体,財産等の保護の観点から極めて重要な役割を果たしており,高度の公共性,公益性があること,②当該飛行場周辺の「防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律」4条所定の第一種区域内に居住する住民は,当該飛行場に離着陸する航空機の発する騒音により,睡眠妨害,聴取妨害及び精神的作業の妨害や不快感等を始めとする精神的苦痛を反復継続的に受けており,このような被害は軽視することができないものの,これを軽減するため,自衛隊の使用する航空機の運航については一定の自主規制が行われるとともに,住宅防音工事等に対する助成,移転補償,買入れ等に係る措置等の周辺対策事業が実施されるなど相応の対策措置が講じられていることなど判示の事情の下においては,行政事件訴訟法37条の4第5項所定の行政庁がその処分をすることがその裁量権の範囲を超え又はその濫用となると認められるときに当たるとはいえない。

(1,2につき補足意見がある。)


「成田新法訴訟」【平成4年7月1日,最高裁判所大法廷,工作物等使用禁止命令取消等】

【判事事項】

一 新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法(昭和59年法律第87号による改正前のもの)3条1項1号と憲法21条1項

二 新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法(昭和59年法律第87号による改正前のもの)3条1項1号と憲法22条1項

三 新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法(昭和59年法律第87号による改正前のもの)3条1項1、2号と憲法29条1、二項

四 新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法(昭和59年法律第87号による改正前のもの)3条1項1、2号と憲法31条

五 新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法(昭和59年法律第87号による改正前のもの)3条1、3項と憲法35条


【裁判要旨】

一 新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法(昭和59年法律第87号による改正前のもの)3条1項1号は、憲法21条1項に違反しない。

二 新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法(昭和59年法律第87号による改正前のもの)3条1項1号は、憲法22条1項に違反しない。

三 新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法(昭和59年法律第87号による改正前のもの)3条1項1、2号は、憲法29条1、2項に違反しない。

四 新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法(昭和59年法律第87号による改正前のもの)3条1項1、2号は、憲法31条の法意に反しない。

五 新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法(昭和59年法律第187号による改正前のもの)3条1、3項は、憲法35条の法意に反しない。

(四につき意見がある。)


「成田新幹線訴訟」【昭和53年12月8日,最高裁判所第二小法廷,行政処分取消】

【判事事項】

全国新幹線鉄道整備法9条に基づく運輸大臣の工事実施計画の認可と抗告訴訟の対象


【裁判要旨】

全国新幹線鉄道整備法9条に基づく運輸大臣の工事実施計画の認可は、抗告訴訟の対象とならない。


【試験ポイント】✨

短期間で成績を上げるコツとして,①過去に出題された判例をチェックする。②問題形式が「適法であるか」「適法でないか」を覚えましょう。本件で言えば,「原告適格を有するか,有しないか」です。

1✖「新潟空港訴訟」【平成元年2月17日,最高裁判所第二小法廷,新潟─小松─ソウル間の定期航空運送事業免許処分取消請求事件】

2✖「大阪空港訴訟」【昭和56年12月16日,最高裁判所大法廷,大阪国際空港夜間飛行禁止等】

3〇「厚木基地航空機運航差止訴訟」【平成28年12月8日,最高裁判所第一小法廷,各航空機運航差止等請求事件】

4✖「成田新法訴訟」【平成4年7月1日,最高裁判所大法廷,工作物等使用禁止命令取消等】

5✖「成田新幹線訴訟」【昭和53年12月8日,最高裁判所第二小法廷,行政処分取消】


原告適格が認められた林地開発許可の取消訴訟

【平成13年3月13日,最高裁判所第三小法廷,林地開発行為許可処分取消請求事件】

【判事事項】

林地開発許可の取消訴訟と開発区域の周辺住民の原告適格


【裁判要旨】

土砂の流出又は崩壊,水害等の災害により生命,身体等に直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に居住する者は,森林法(平成11年法律第87号による改正前のもの)10条の2による開発許可の取消訴訟の原告適格を有する。


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