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行政書士試験過去問解説 留置権【昭和43年11月21日,最高裁判所第1小法廷,家屋明渡請求事件】

【令和3年行政書士試験 留置権】

【問題】留置権に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。


1 留置権者は、善良な管理者の注意をもって留置物を占有すべきであるが、善良な管理者の注意とは、自己の財産に対するのと同一の注意より軽減されたものである。

2 留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物について使用・賃貸・担保供与をなすことができず、留置権者が債務者の承諾を得ずに留置物を使用した場合、留置権は直ちに消滅する。

3 建物賃借人が賃料不払いにより賃貸借契約を解除された後に当該建物につき有益費を支出した場合、賃貸人による建物明渡請求に対して、賃借人は、有益費償還請求権を被担保債権として当該建物を留置することはできない。

4 Aが自己所有建物をBに売却し登記をB名義にしたものの代金未払のためAが占有を継続していたところ、Bは、同建物をCに転売し、登記は、C名義となった。Cが所有権に基づき同建物の明渡しを求めた場合、Aは、Bに対する売買代金債権を被担保債権として当該建物を留置することはできない。

5 Dが自己所有建物をEに売却し引渡した後、Fにも同建物を売却しFが所有権移転登記を得た。FがEに対して当該建物の明渡しを求めた場合、Eは、Dに対する履行不能を理由とする損害賠償請求権を被担保債権として当該建物を留置することができる。


【試験ポイント】✨

行政書士試験において,「留置権」は,出題頻度が非常に高い分野ですので完全にマスターしましょう!


1✖ 民法298条の「善良なる管理者の注意義務」と程度は,一言で「専門家が払う程度の注意」,すなわち,その人の社会的,経済的な地位に応じて求められる注意義務のこと。これは普通の注意義務より少し高い注意義務。これに対して,民法659条の「自己の財産に対するのと同一の注意義務」は,民法298条の注意義務より低い。「自己の財産に対するのと同一の注意義務の程度レベル」は,民法659条(無報酬の受寄者の注意義務)や第827条(財産の管理における注意義務)の場合。

2✖ 民法298条第3項,「債務者は、留置権の消滅を請求することができる。」にすぎない。

3〇 民法295条,【昭和46年7月16日,最高裁判所第2小法廷,家屋明渡等請求事件】,「建物の賃借人が、債務不履行により賃貸借契約を解除されたのち、権原のないことを知りながら右建物を不法に占有する間に有益費を支出しても、その者は、民法295条2項の類推適用により、右費用の償還請求権に基づいて右建物に留置権を行使することはできない。」

4✖ 民法295条第1項,【昭和47年11月16日,最高裁判所第1小法廷,建物明渡請求事件】,「甲所有の物を買受けた乙が、売買代金を支払わないままこれを丙に譲渡した場合には、甲は、丙からの物の引渡請求に対して、未払代金債権を被担保債権とする留置権の抗弁権を主張することができる。」

5✖【昭和43年11月21日,最高裁判所第1小法廷,家屋明渡請求事件】,「不動産の二重売買において、第二の買主のため所有権移転登記がされた場合、第一の買主は、第二の買主の右不動産の所有権に基づく明渡請求に対し、売買契約不履行に基づく損害賠償債権をもつて、留置権を主張することは許されない。」


【昭和46年7月16日,最高裁判所第2小法廷,家屋明渡等請求事件】

【判事事項】

建物賃貸借契約解除後の不法占有と民法295条2項の類推適用


【裁判要旨】

建物の賃借人が、債務不履行により賃貸借契約を解除されたのち、権原のないことを知りながら右建物を不法に占有する間に有益費を支出しても、その者は、民法295条2項の類推適用により、右費用の償還請求権に基づいて右建物に留置権を行使することはできない。


【昭和47年11月16日,最高裁判所第1小法廷,建物明渡請求事件】

【判事事項】

一、甲所有の物を買受けた乙が売買代金を支払わないままこれを丙に譲渡した場合における丙の甲に対する物の引渡請求と甲の留置権の抗弁

二、物の引渡請求に対する留置権の抗弁を認容する場合においてその被担保債権の支払義務者が第三者であるときの判決主文


【裁判要旨】

一、甲所有の物を買受けた乙が、売買代金を支払わないままこれを丙に譲渡した場合には、甲は、丙からの物の引渡請求に対して、未払代金債権を被担保債権とする留置権の抗弁権を主張することができる。

二、物の引渡請求に対する留置権の抗弁を認容する場合において、その物に関して生じた債務の支払義務を負う者が、原告ではなく第三者であるときは、被告に対し、その第三者から右債務の支払を受けるのと引換えに物の引渡をすることを命ずるべきである。


【昭和43年11月21日,最高裁判所第1小法廷,家屋明渡請求事件】

【判事事項】

不動産の二重売買の場合の履行不能を理由とする損害賠償債権をもつてする留置権の主張の許否


【裁判要旨】

不動産の二重売買において、第二の買主のため所有権移転登記がされた場合、第一の買主は、第二の買主の右不動産の所有権に基づく明渡請求に対し、売買契約不履行に基づく損害賠償債権をもつて、留置権を主張することは許されない。


【民法(改正対応)改正なし】↓

第295条(留置権の内容)
他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。
2 前項の規定は、占有が不法行為によって始まった場合には、適用しない。

第298条(留置権者による留置物の保管等)
留置権者は、善良な管理者の注意をもって、留置物を占有しなければならない。
2 留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物を使用し、賃貸し、又は担保に供することができない。ただし、その物の保存に必要な使用をすることは、この限りでない。
3 留置権者が前2項の規定に違反したときは、債務者は、留置権の消滅を請求することができる。

第659条(無報酬の受寄者の注意義務)
無報酬の受寄者は、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、寄託物を保管する義務を負う。

第827条(財産の管理における注意義務)
親権を行う者は、自己のためにするのと同一の注意をもって、その管理権を行わなければならない。