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行政書士試験過去問解説 信教の自由・政教分離

【平成28年行政書士試験出題】

【問題】信教の自由・政教分離に関する次の記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、最も妥当なものはどれか。

1 憲法が国およびその機関に対し禁ずる宗教的活動とは、その目的・効果が宗教に対する援助、助長、圧迫、干渉に当たるような行為、あるいは宗教と過度のかかわり合いをもつ行為のいずれかをいう。

2 憲法は、宗教と何らかのかかわり合いのある行為を行っている組織ないし団体であれば、これに対する公金の支出を禁じていると解されるが、宗教活動を本来の目的としない組織はこれに該当しない。

3 神社が主催する行事に際し、県が公費から比較的低額の玉串料等を奉納することは、慣習化した社会的儀礼であると見ることができるので、当然に憲法に違反するとはいえない。

4 信仰の自由の保障は私人間にも間接的に及ぶので、自己の信仰上の静謐を他者の宗教上の行為によって害された場合、原則として、かかる宗教上の感情を被侵害利益として損害賠償や差止めを請求するなど、法的救済を求めることができ る。

5 解散命令などの宗教法人に関する法的規制が、信者の宗教上の行為を法的に制約する効果を伴わないとしてもそこに何らかの支障を生じさせるならば、信教の自由の重要性に配慮し、規制が憲法上許容されるか慎重に吟味しなければならない。


【試験ポイント】✨

1✖ 穴埋め問題でも出題が予想されるので,目的・効果は押さえましょう!【昭和52年7月13日,最高裁判所大法廷,行政処分取消等(津地鎮祭事件)】

2✖【平成5年2月16日,最高裁判所第3小法廷,運動場一部廃止決定無効確認等、同附帯及び慰霊祭支出差止】

3✖【平成9年4月2日,最高裁判所大法廷,愛媛県靖国神社玉串料訴訟)】

4✖【昭和63年6月1日,最高裁判所大法廷,自衛隊らによる合祀手続の取消等請求事件】

5〇【平成8年1月30日,最高裁判所第1小法廷,宗教法人解散命令に対する抗告棄却決定に対する特別抗告】


【昭和52年7月13日,最高裁判所大法廷,行政処分取消等(津地鎮祭事件)】

【判事事項】

一、憲法における政教分離原則

二、憲法20条3項にいう宗教的活動の意義

三、市が主催し神式に則り挙行された市体育館の起工式が憲法20条3項にいう宗教的な活動にあたらないされた事例


【裁判要旨】

一、憲法の政教分離原則は、国家が宗教的に中立であることを要求するものではあるが、国家が宗教とのかかわり合いをもつことを全く許さないとするものではなく、宗教とのかかわり合いをもたらす行為目的及び効果にかんがみ、そのかかわり合いがわが国の社会的・文化的諸条件に照らし信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えるものと認められる場合にこれを許さないとするものである。

二、憲法20条3項にいう宗教的活動とは、国及びその機関の活動で宗教とのかかわり合いをもつすべての行為を指すものではなく、当該行為の目的が宗教的意義をもち、その効果が宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になるよ うな行為をいう。

三、市が主催し神式に則り挙行された市体育館の起工式は、宗教とかかわり合いをもつものであることを否定することはできないが、その目的が建築着工に際し土地の平安堅固、工事の無事安全を願い、社会の一般的慣習に従つた儀礼を行うという専ら世俗的なものと認められ、その効果が神道を援助、助長、促進し又は他の宗教に圧迫、干渉を加えるものとは認められない判示の事情のもとにおいては、憲法20条3項にいう宗教的活動にあたらない。


【平成5年2月16日,最高裁判所第3小法廷,運動場一部廃止決定無効確認等、同附帯及び慰霊祭支出差止】

【判事事項】

一 市が忠魂碑の存する公有地の代替地を買い受けて右忠魂碑の移設・再建をした行為及び右忠魂碑を維持管理する地元の戦没者遺族会に対しその敷地として右代替地を無償貸与した行為が憲法20条3項により禁止される宗教的活動には当たらないとされた事例

二 財団法人D会及びその支部と憲法20条1項後段にいう「宗教団体」及び憲法89条にいう「宗教上の組織若しくは団体」

三 市の教育長が地元の戦没者遺族会が忠魂碑前で神式又は仏式で挙行した各慰霊祭に参列した行為が憲法上の政教分離原則及び憲法20条、89条に違反しないとされた事例

四 自己の権限に属する財務会計上の行為を吏員に委任した普通地方公共団体の長と地方自治法242条の2第1項4号にいう「当該職員」

五 自己の権限に属する財務会計上の行為を吏員に委任した普通地方公共団体の長の損害賠償責任


【裁判要旨】

一 市が忠魂碑の存する公有地の代替地を買い受けて右忠魂碑の移設、再建をした行為及び右忠魂碑を維持管理する地元の戦没者遺族会に対しその敷地として右代替地を無償貸与した行為は、右忠魂碑が、元来、戦没者記念碑的性格のものであり、特定の宗教とのかかわりが少なくとも戦後においては希薄であること、右戦没者遺族会が宗教的活動をすることを本来の目的とする団体ではないこと、市が右移設、再建等を行つた目的が、右忠魂碑の存する公有地を学校用地として利用することを主眼とするもので、専ら世俗的なものであることなど判示の事情の下においては、いずれも憲法20条3項により禁止される宗教的活動には当たらない。

二 財団法人D会及びその支部は、憲法20条1項後段にいう「宗教団体」、憲法89条にいう「宗教上の組織若しくは団体」に該当しない。

三 市の教育長が地元の戦没者遺族会が忠魂碑前で神式又は仏式で挙行した各慰霊祭に参列した行為は、右忠魂碑が、元来、戦没者記念碑的性格のものであること、右戦没者遺族会が宗教的活動をすることを本来の目的とする団体ではないこと、右参列の目的が戦没者遺族に対する社会的儀礼を尽くすという専ら世俗的なものであることなど判示の事情の下においては、憲法上の政教分離原則及び憲法20条、89条に違反しない。

四 普通地方公共団体の長は、その権限に属する財務会計上の行為をあらかじめ特定の吏員に委任している場合であつても、右委任により処理された財務会計上の行為の適否が問題とされている代位請求住民訴訟において、地方自治法242条の2第1項4号にいう「当該職員」に該当する。

五 普通地方公共団体の長の権限に属する財務会計上の行為を、委任を受けた吏員が処理した場合は、長は、右吏員が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し、故意又は過失により右吏員が財務会計上の違法行為をすることを阻止しなかつたときに限り、普通地方公共団体が被つた損害につき賠償責任を負う。

『憲法20条1項後段にいう「宗教団体」、憲法89条にいう「宗教上の組織若しくは団体」とは、宗教と何らかのかかわり合いのある行為を行っている組織ないし団体のすべてを意味するものではなく、国家が当該組織ないし団体に対し特権を付与したり、また、当該組織ないし団体の使用、便益若しくは維持のため、公金その他の公の財産を支出し又はその利用に供したりすることが、特定の宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になり、憲法上の政教分離原則に反すると解されるものをいうのであり、換言すると、特定の宗教の信仰、礼拝又は普及等の宗教的活動を行うことを本来の目的とする組織ないし団体を指すものと解するのが相当である。


【平成9年4月2日,最高裁判所大法廷,愛媛県靖国神社玉串料訴訟)】

【判事事項】

一 県がD神社又はE神社の挙行した例大祭、みたま祭又は慰霊大祭に際し玉串料、献灯料又は供物料を県の公金から支出して奉納したことが憲法20条3項、89条に違反するとされた事例

二 委任又は専決により県の補助職員らが公金支出を処理した場合において知事は指揮監督上の義務に違反したものであり過失があったが補助職員らは判断を誤ったけれども重大な過失があったということはできないとされた事例

三 複数の住民が提起する住民訴訟と類似必要的共同訴訟

四 複数の住民が共同訴訟人として提起した住民訴訟において共同訴訟人の一部の者がした上訴又は上訴の取下げの効力


【裁判要旨】

一 愛媛県が、宗教法人D神社の挙行した恒例の宗教上の祭祀である例大祭に際し玉串料として9回にわたり各五〇〇〇円(合計4万五〇〇〇円)を、同みたま祭に際し献灯料として四回にわたり各七〇〇〇円又は八〇〇〇円(合計三万一〇〇〇円)を、宗教法人愛媛県E神社の挙行した恒例の宗教上の祭祀である慰霊大祭に際し供物料として9回にわたり各1万円(合計9万円)を、それぞれ県の公金から支出して奉納したことは、一般人がこれを社会的儀礼にすぎないものと評価しているとは考え難く、その奉納者においてもこれが宗教的意義を有する者であるという意識を持たざるを得ず、これにより県が特定の宗教団体との間にのみ意識的に特別のかかわり合いを持ったことを否定することができないのであり、これが、一般人に対して、県が当該特定の宗教団体を特別に支援しており右宗教団体が他の宗教団体とは異なる特別のものであるとの印象を与え、特定の宗教への関心を呼び起こすものといわざるを得ないなど判示の事情の下においては、憲法20条3項、89条に違反する。

二 愛媛県が憲法20条3項89条に違反して宗教法人D神社等に玉串料等を県の公金から支出して奉納したことにつき、右支出の権限を法令上本来的に有する知事は、委任を受け又は専決することを任された補助職員らが右支出を処理した場合であっても、同神社等に対し、右補助職員らに玉串料等を持参させるなどしてこれを奉納したと認められ、当該支出には憲法に違反するという重大な違法があり、地方公共団体が特定の宗教団体に玉串料等の支出をすることについて、文部省自治省等が、政教分離原則に照らし、慎重な対応を求める趣旨の通達、回答をしてきたなどの事情の下においては、その指揮監督上の義務に違反したものであり、過失があったというのが相当であるが、右補助職員らは、知事の右のような指揮監督の下でこれを行い、右支出が憲法に違反するか否かを極めて容易に判断することができたとまではいえないという事情の下においては、その判断を誤ったものであるが、重大な過失があったということはできない。

三 複数の住民が提起する住民訴訟は、類似必要的共同訴訟と解すべきである。

四 複数の住民が共同訴訟人として提起した住民訴訟において、共同訴訟人の一部の者が上訴すれば、それによって原判決の確定が妨げられ、当該訴訟は全体として上訴審に移審し、上訴の判決の効力は上訴をしなかった共同訴訟人にも及ぶが、上訴をしなかった共同訴訟人は、上訴人にはならず、上訴をした共同訴訟人のうちの一部の者が上訴を取り下げた場合は、その者は上訴人ではなくなる。


【昭和63年6月1日,最高裁判所大法廷,自衛隊らによる合祀手続の取消等請求事件】

【判事事項】

一 私的団体が護国神社に対し殉職自衛隊員の合祀を申請する過程において自衛隊職員のした行為が憲法20条3項にいう宗教的活動に当たらないとされた事例

二 死去した配偶者の追慕、慰霊等に関して私人がした宗教上の行為によつて信仰生活の静謐が害された場合と法的利益の侵害の有無


【裁判要旨】

一 社団法人E会のF支部連合会がa県護国神社に対して殉職自衛隊員の合祀を申請する過程において、自衛隊Aiの職員が合祀実現により自衛隊員の社会的地位の向上と士気の高揚を図る意図、目的の下に右連合会に協力して、他のAiに対し殉職自衛隊員の合祀状況等を照会し、その回答を右連合会会長に閲覧させるなどした行為は、宗教とのかかわり合いが間接的で、職員の宗教的意識もどちらかといえば希薄であり、その行為の態様からして国又はその機関として特定の宗教への関心を呼び起こし、あるいはこれを援助、助長、促進し、又は他の宗教に圧迫、干渉を加える効果をもつものと一般人かち評価される行為とは認められず、憲法20条3項にいう宗教的活動に当たらない。

二 死去した配偶者の追慕、慰霊等に関して私人がした宗教上の行為によつて信仰生活の静謐が害されたとしても、それが信教の自由の侵害に当たり、その態様、程度が社会的に許容し得る限度を超える場合でない限り、法的利益が侵害されたとはいえない。

(一、二につき補足意見、反対意見がある。)

『私人相互間において憲法20条1項前段及び同条2項によつて保障される信教の自由の侵害があり、その態様、程度が社会的に許容し得る限度を超えるときは、場合によつては、私的自治に対する一般的制限規定である民法1条、90条や不法行為に関する諸規定等の適切な運用によつて、法的保護が図られるべきである(最高裁昭和43年(オ)第932号同48年12月12日大法廷判決・民集27巻11号1536頁参照)。しかし、人が自己の信仰生活の静謐を他者の宗教上の行為によつて害されたとし、そのことに不快の感情を持ち、そのようなことがないよう望むことのあるのは、その心情として当然であるとしても、かかる宗教上の感情を被侵害利益として、直ちに損害賠償を請求し、又は差止めを請求するなどの法的救済を求めることができるとするならば、かえつて相手方の信教の自由を妨げる結果となるに至ることは、見易いところである。信教の自由の保障は、何人も自己の信仰と相容れない信仰をもつ者の信仰に基づく行為に対して、それが強制や不利益の付与を伴うことにより自己の信教の自由を妨害するものでない限り寛容であることを要請しているものというべきである。このことは死去した配偶者の追慕、慰霊等に関する場合においても同様である。何人かをその信仰の対象とし、あるいは自己の信仰する宗教により何人かを追慕し、その魂の安らぎを求めるなどの宗教的行為をする自由は、誰にでも保障されているからである。原審が宗教上の人格権であるとする静謐な宗教的環境の下で信仰生活を送るべき利益なるものは、これを直ちに法的利益として認めることができない性質のものである。』


【平成8年1月30日,最高裁判所第1小法廷,宗教法人解散命令に対する抗告棄却決定に対する特別抗告】

【判事事項】

宗教法人法81条1項1号及び2号前段に規定する事由があるとしてされた宗教法人の解散命令が憲法20条1項に違反しないとされた事例


【裁判要旨】

大量殺人を目的として計画的、組織的にサリンを生成した宗教法人について、宗教法人法81条1項1号及び2号前段に規定する事由があるとしてされた解散命令は、専ら宗教法人の世俗的側面を対象とし、宗教団体や信者の精神的・宗教的側面に容かいする意図によるものではなく、右宗教法人の行為に対処するには、その法人格を失わせることが必要かつ適切であり、他方、解散命令によって宗教団体やその信者らが行う宗教上の行為に何らかの支障を生ずることが避けられないとしても、その支障は解散命令に伴う間接的で事実上のものにとどまるなど判示の事情の下においては、必要でやむを得ない法的規制であり、憲法20条1項に違反しない。