業務・試験対策

MEASURES

令和5年行政書士試験過去問判例 都営住宅明渡し事件 昭和59年12月13日

【令和5年行政書士試験出題】

【問題】次の文章の空欄ア~エに当てはまる語句を、枠内の選択肢(1~20)から選びなさい。


公営住宅法は、国及び地方公共団体が協力して、健康で文化的な生活を営むに足りる住宅を建設し、これを住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸することにより、国民生活の安定との増進に寄与することを目的とするものであって(1条)、この法律によって建設された公営住宅の使用関係については、管理に関する規定を設け、家賃の決定、明渡等について規定し(第3章)、また、法〔=公営住宅法〕の委任(25条)に基づいて制定された条例〔=東京都営住宅条例〕も、使用許可、使用申込、明渡等について具体的な定めをしているところである。右法及び条例の規定によれば、公営住宅の使用関係には、の利用関係として公法的な一面があることは否定しえないところであって、入居者の募集は公募の方法によるべきこと(法16条)などが定められており、また、特定の者が公営住宅に入居するためには、事業主体の長から使用許可を受けなければならない旨定められているのであるが(条例3条)、他方、入居者が右使用許可を受けて事業主体と入居者との間に公営住宅の使用関係が設定されたのちにおいては、前示のような法及び条例による規制はあっても、事業主体と入居者との間の法律関係は、基本的には私人間の家屋と異なるところはなく、このことは、法が賃貸(1条、2条)等私法上のに通常用いられる用語を使用して公営住宅の使用関係を律していることからも明らかであるといわなければならない。したがって、公営住宅の使用関係については、公営住宅法及びこれに基づく条例が特別法として民法及び借家法に優先して適用されるが、法及び条例に特別の定めがない限り、原則として一般法である民法及び借家法の適用があり、その契約関係を規律するについては、の法理の適用があるものと解すべきである。ところで、右法及び条例の規定によれば、事業主体は、公営住宅の入居者を決定するについては入居者を選択する自由を有しないものと解されるが、事業主体と入居者との間に公営住宅の使用関係が設定されたのちにおいては、両者の間にはエを基礎とする法律関係が存するものというべきであるから、公営住宅の使用者が法の定める公営住宅の明渡請求事由に該当する行為をした場合であっても、賃貸人である事業主体との間のエを破壊するとは認め難い特段の事情があるときには、事業主体の長は、当該使用者に対し、その住宅の使用関係を取り消し、その明渡を請求することはできないものと解するのが相当である。(最一小判昭和59年12月13日民集38巻12号1411頁<文章を一部省略した。>)


1 民間活力   2 私有財産   3 信頼関係    4 所有権移転関係

5 社会福祉   6 普通財産   7 特別権力関係  8 公法関係

9 街づくり  10 物品    11 売買契約関係 12 賃貸借関係

13 公用物  14 事業収益  15 請負契約関係 16 委託契約関係

17 定住環境 18 公の営造物 19 管理関係   20 一般権力関係


【昭和59年12月13日,最高裁判所第一小法廷,建物明渡等】

【判事事項】

公営住宅の明渡請求と信頼関係の法理の適用


【裁判要旨】

公営住宅の入居者が公営住宅法22条1項所定の明渡請求事由に該当する行為をした場合であつても、賃貸人である事業主体との間の信頼関係を破壊するとは認め難い特段の事情があるときは、事業主体の長がした明渡請求は効力を生じない。

一 被上告人が本訴において請求原因として主張するところは、(1)被上告人は、公営住宅法(昭和26年法律第193号。以下「法」という。)及び東京都営住宅条例(昭和26年条例第112号。以下「条例」という。)に基づき、上告人に対し、被上告人所有の公営住宅である原判決添付物件目録(一)記載の東京都営住宅(以下「本件住宅」という。)の使用を許可し、これを家賃一か月あたり2100円、毎月末日限りその月分を支払うとの約定で賃貸した、(2)上告人は、右契約に基づき、昭和33年7月25日以降本件住宅に入居しこれを占有している、(3)上告人は、昭和49年7月頃、被上告人の許可を受けないで、本件住宅の敷地である被上告人所有の原判決添付物件目録(二)記載の土地上に同物件目録(三)記載の建物(以下「本件建物」という。)を増築した(以下「本件無断増築」という。)、(4)被上告人は、昭和41年10月22日頃、上告人に対し同年11月1日以降1か月あたり210円の割増賃料を徴収する旨の通知をした、(5)上告人は、昭和41年11月1日から同42年3月31日までの割増賃料合計1050円(以下「本件割増賃料」という。)の支払をしていない、(6)被上告人は、昭和49年12月27日、上告人に対し同50年1月31日までに本件建物を収去して右物件目録(二)記載の土地を原状に回復し、かつ、本件割増賃料を支払うよう催告した、(7)被上告人は、本件無断増築及び本件割増賃料の滞納は本件住宅の明渡請求事由に該当するとして、昭和50年2月24日、上告人に対し、本件住宅の使用許可を取り消し、本件住宅の明渡を請求した、(8)本件建物及び本件住宅に付設された物置は、いずれも本件住宅に附合して一体化しており、これら全体が原判決添付物件目録(四)記載の建物を構成している、(9)よつて、被上告人は、右建物の所有権に基づき、上告人に対し、右建物の明渡を求める、というのである。これに対し、上告人は、(一)本件無断増築が明渡請求事由に該当するとしても、本件においては、上告人と被上告人との間の信頼関係を破壊するとは認め難い特段の事情がある。すなわち、(1)上告人の家族は、本件住宅に入居した当初は上告人と妻の2人であつたが、昭和34年1月に長女、同36年6月に長男がそれぞれ出生して 4人家族となり、長女が高校1年、長男が中学1年に進学した同49年頃には、子供が上告人夫婦の寝所で試験勉強をせざるをえなかつたり、思春期を迎えた長女は便所で着替えをすることを余儀なくされる有様となり、このままでは家族の私生活の秘密を守ることができず、また、狭いため夏は暑苦しく、来客時には応接する場所にも事欠く状況であつた、(2)そこで、上告人は、止むをえず、構造上、原状回復が容易であり、本件住宅の維持保存にも適している本件建物を増築した、(3)また、他にも都営住宅の使用者が無断増築した例が多数あるが、被上告人は、これを黙認している、(4)被上告人が上告人の本件建物の増築を許しても、他の使用者がこれに追随するということも考えられない、(二)事業主体の使用者に対する割増賃料の徴収は、借家法7条1項所定の賃料増額請求にあたるので、事業主体と使用者との間に割増賃料の当否又はその額について紛争があるときには、同条2項により、使用者は正当と認める賃料を支払うことによつて債務不履行の責を免れるものと解すべきところ、上告人は、被上告人の本件割増賃料の徴収の適否を争う一方、正当な賃料として従前の賃料額である1か月2100円の割合による金員を被上告人に支払い、又は被上告人を被供託者として適法に供託しているから、上告人は家賃の支払について債務不履行の責任を負うものではない、(三)したがつて、被上告人の本件明渡請求は効力がない、と主張した。
二1 原判決は、本件無断増築は本件住宅の明渡請求事由に該当するとの被上告人の主張について、上告人の本件無断増築は法21条4項、22条1項4号、条例15条4号、20条1項5号所定の本件住宅の明渡請求事由に該当するとしたが、上告人の信頼関係を破壊するとは認め難い特段の事情があるとの主張については、本件無断増築を理由とする本件住宅の使用許可の取消及び明渡請求について信頼関係理論を持ち込むことは相当ではないとして、上告人の右主張を排斥した。
2 ところで、公営住宅法は、国及び地方公共団体が協力して、健康で文化的な生活を営むに足りる住宅を建設し、これを住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸することにより、国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与することを目的とするものであつて(1条)、この法律によつて建設された公営住宅の使用関係については、管理に関する規定を設け、家賃の決定、家賃の変更、家賃の徴収猶予、修繕義務、入居者の募集方法、入居者資格、入居者の選考、家賃の報告、家賃の変更命令、入居者の保管義務、明渡等について規定し(第3章)、また、法の委任(25条)に基づいて制定された条例も、使用許可、使用申込、申込者の資格、使用者選考、使用手続、使用料の決定、使用料の変更、使用料の徴収、明渡等について具体的な定めをしているところである(3条ないし22条)。右法及び条例の規定によれば、公営住宅の使用関係には、公の営造物の利用関係として公法的な一面があることは否定しえないところであつて、入居者の募集は公募の方法によるべきこと(法16条)、入居者は一定の条件を具備した者でなければならないこと(法17条)、事業主体の長は入居者を一定の基準に従い公正な方法で選考すべきこと(法18条)などが定められており、また、特定の者が公営住宅に入居するため には、事業主体の長から使用許可を受けなければならない旨定められているのであるが(条例3条)、他方、入居者が右使用許可を受けて事業主体と入居者との間に公営住宅の使用関係が設定されたのちにおいては、前示のような法及び条例による規制はあつても、事業主体と入居者との間の法律関係は、基本的には私人間の家屋賃貸借関係と異なるところはなく、このことは、法が賃貸(1条、2条)、家賃(1条、2条、12条、13条、14条)等私法上の賃貸借関係に通常用いられる用語を使用して公営住宅の使用関係を律していることからも明らかであるといわなければならない。したがつて、公営住宅の使用関係については、公営住宅法及びこれに基づく条例が特別法として民法及び借家法に優先して適用されるが、法及び条例に特別の定めがない限り、原則として一般法である民法及び借家法の適用があり、その契約関係を規律するについては、信頼関係の法理の適用があるものと解すべきである。ところで、右法及び条例の規定によれば、事業主体は、公営住宅の入居者を決定するについては入居者を選択する自由を有しないものと解されるが、事業主体と入居者との間に公営住宅の使用関係が設定されたのちにおいては、両者の間には信頼関係を基礎とする法律関係が存するものというべきであるから、公営住宅の使用者が法の定める公営住宅の明渡請求事由に該当する行為をした場合であつても、賃貸人である事業主体との間の信頼関係を破壊するとは認め難い特段の事情があるときには、事業主体の長は、当該使用者に対し、その住宅の使用関係を取り消し、その明渡を請求することはできないものと解するのが相当である。これを本件についてみるに、原審の適法に確定した事実関係によれば、上告人は本件無断増築をしたものというべきところ、本件無断増築は本件住宅の明渡請求事由に該当するものであるが(法21条4項、22条1項4号、条例15条4号、20条1項5号)、前説示に照らし、被上告人との間の信頼関係を破壊すると認め難い特段の事情があるときには、明渡請求は効力がないものというべきである。したがつて、本件に信頼関係理論の適用がないとした原判決には、所論公営住宅の使用関係に関する法令の解釈適用を誤つた違法があるものといわざるをえない。
3 しかしながら、原審は、(1)本件建物は、本件住宅の南側に近接し、基礎に布コンクリートを打ち、6本の鉄骨柱の下部の基礎鉄板(ベースプレート)を地下約30センチメートルの基礎コンクリートに据えつけてこれをアンカーボルトで締着し、その周囲を養生コンクリートで補強し、右支柱の高さ3・10メートルのところに幅約30センチメートル、長さ約30センチメートルのH型鉄鋼を積みあげ、これを各支柱とボルトで締着して梁となし、支柱と支柱、梁と梁との間には直径約2センチメートルの丸鋼の筋かい(ブレース)を施して堅固に組立て、その上部に鋼板製デツキプレートを張り、その上にコンクリートを塗り、この鉄構造体の上に、6畳、4畳半の2間を設け子供の勉強部屋からなる居室部分としたもので、右居室は床面積19・80平方メートル、木造亜鉛メツキ鋼板葺、外壁も波型亜鉛メツキ鋼板で囲い、屋根高は地上約6・5メートルに達し、本件住宅を含む4戸建長屋の軒高をはるかに凌駕している、(2)本件建物及び本件住宅に付設された物置は、いずれも本件住宅に附合して一体化しており、これら全体が原判決添付物件目録(四)記載の建物を構成している、(3)都営住宅の入居者の中には、その敷地を利用して違法に増築している者が数多く存在するが、上告人の増築よりも著しく堅固で大規模な増築を無断で行い、かつ事後承認を受けたという事例は見あたらない、以上の事実を認定しているところ、右事実認定は原判決挙示の証拠関係に照らして肯認することができ、右事実関係によれば、上告人の増築した本件建物は、構造上、原状回復が容易であり、かつ、本件住宅の保存にも適しているとはいえず、また、被上告人が本件建物の増築を事後に許容したものとも認め難いところであるから、上告人の家庭に前記上告人の主張するような事情があるからといつて、被上告人との間の信頼関係を破壊するとは認め難い特段の事情があるということはできない。そうすると、被上告人の本訴明渡請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由があるものというべきである。これと結論を同じくする原審の判断は、正当として是認することができる。論旨は、結局、原判決の結論に影響を及ぼさない事項についてその違法をいうにすぎないものといわざるをえない。なお、所論は、原審が上告人の確約の法理に関する主張について判断を示さなかつたことの違法をもいうが、記録によれば、上告人の右主張は被上告人の借家法1条ノ二に基づく明渡の主張に対する抗弁として主張されたものであることが明らかであるところ、原審は右明渡の主張を容れて被上告人の請求を認容しているのではないから、原審としては右確約の法理に関する主張について判断を示す必要はなかつたのである。したがつて、原判決に所論の違法があるとはいえない。右違法をいう所論は、採用することができない。
同第三点について  
記録に徴し、原判決に所論の違法があるとは認められない。論旨は、採用することができない。


【試験ポイント】✨

「都営住宅明渡し事件」の有名な判例です。ポイントは,「公営住宅の使用関係については、公営住宅法及びこれに基づく条例が特別法として民法及び借家法に優先して適用されるが、法及び条例に特別の定めがない限り、原則として一般法である民法及び借家法の適用があり、その契約関係を規律するについては、信頼関係の法理の適用があるものと解すべきである。」
ア5
イ18
ウ12
エ3