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平成28年3月31日,最高裁判所第1小法廷,詐欺,証拠隠滅被告事件

【平成28年3月31日,最高裁判所第1小法廷,詐欺,証拠隠滅被告事件】

【判事事項】

他人の刑事事件について捜査官と相談しながら虚偽の供述内容を創作するなどして供述調書を作成した行為が証拠偽造罪に当たるとされた事例


【裁判要旨】

参考人として捜査官に対して虚偽の供述をし,それに基づき供述調書が作成された場合とは異なり,第三者の覚せい剤所持という架空の事実に関する令状請求のための証拠を作り出す意図で,捜査官と相談しながら虚偽の供述内容を創作,具体化させ,それを供述調書の形式にした本件行為(判文参照)は,刑法104条の証拠偽造罪に当たる。


判例は,こちら


『所論に鑑み,本件における刑法104条の証拠を偽造した罪の成否につき,職権で判断する。1 原判決及びその是認する第1審判決並びに記録によれば,本件証拠偽造の事実関係は次のとおりである。
(1)本件は,被告人が,平成23年12月19日,Aと共に警察署を訪れ,同署刑事課組織犯罪対策係所属のB警部補及びC巡査部長から,暴力団員である知人のDを被疑者とする覚せい剤取締法違反被疑事件について参考人として取り調べられた際,A,B警部補及びC巡査部長と共謀の上,C巡査部長において,「Aが,平成23年10月末の午後9時頃にDが覚せい剤を持っているのを見た。Dの見せてきたカバンの中身をAがのぞき込むと,中には,ティッシュにくるまれた白色の結晶粉末が入った透明のチャック付きポリ袋1袋とオレンジ色のキャップが付いた注射器1本があった」などの虚偽の内容が記載されたAを供述者とする供述調書1通を作成し,もって,他人の刑事事件に関する証拠を偽造した,という事案である。
(2)Aは,被告人と相談しながら,Dが覚せい剤等を所持している状況を目撃したという虚構の話を作り上げ,二人で警察署へ赴き,B警部補及びC巡査部長に対し,Dの覚せい剤所持事件の参考人として虚偽の目撃供述をした上,被告人らの説明,態度等からその供述が虚偽であることを認識するに至ったB警部補及びC巡査部長から,覚せい剤所持の目撃時期が古いと令状請求をすることができないと示唆され,「適当に2か月程前に見たことで書いとったらええやん」などと言われると,これに応じて2か月前にもDに会ったなどと話を合わせ,具体的な覚せい剤所持の目撃時期,場所につき被告人の作り話に従って虚偽の供述を続けた。C巡査部長は,Aらと相談しながら具体化させるなどした虚偽の供述を,それと知りなが ら,Aを供述者とする供述調書の形にした。Aは,その内容を確認し,C巡査部長から「正直,僕作ったところあるんで」「そこは流してもうて,注射器とか入ってなかっていう話なんすけど,まあ信憑性を高めるために入れてます」などと言われながらも,末尾に署名指印をした。
2 他人の刑事事件に関し,被疑者以外の者が捜査機関から参考人として取調べ (刑訴法223条1項)を受けた際,虚偽の供述をしたとしても,刑法104条の証拠を偽造した罪に当たるものではないと解されるところ(大審院大正3年(れ)第1476号同年6月23日判決・刑録20輯1324頁,大審院昭和7年(れ)第1692号同8年2月14日判決・刑集12巻1号66頁,大審院昭和9年(れ)第717号同年8月4日判決・刑集13巻14号1059頁,最高裁昭和2 7年(あ)第1976号同28年10月19日第2小法廷決定・刑集7巻10号1945頁参照),その虚偽の供述内容が供述調書に録取される(刑訴法223条2項,198条3項ないし5項)などして,書面を含む記録媒体上に記録された場合であっても,そのことだけをもって,同罪に当たるということはできない。
しかしながら,本件において作成された書面は,参考人AのC巡査部長に対する供述調書という形式をとっているものの,その実質は,被告人,A,B警部補及びC巡査部長の4名が,Dの覚せい剤所持という架空の事実に関する令状請求のための証拠を作り出す意図で,各人が相談しながら虚偽の供述内容を創作,具体化させて書面にしたものである。
このように見ると,本件行為は,単に参考人として捜査官に対して虚偽の供述をし,それが供述調書に録取されたという事案とは異なり,作成名義人であるC巡査部長を含む被告人ら4名が共同して虚偽の内容が記載された証拠を新たに作り出したものといえ,刑法104条の証拠を偽造した罪に当たる。したがって,被告人について,A,B警部補及びC巡査部長との共同正犯が成立するとした原判断は正当である。
よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で, 主文のとおり決定する。(裁判長裁判官 池上政幸 裁判官 櫻井龍子 裁判官 山浦善樹 裁判官 大谷直人 裁判官 小池 裕)』