警察がやりたがらない・・不動産侵奪罪の有名な判例,「占有」の解釈
【判示事項】 所有者による現実の支配管理が困難になった土地上に大量の廃棄物を堆積させた行為につき不動産侵奪罪が成立するとされた事例
【裁判要旨】 所有者による現実の支配管理が困難になった土地について,一定の利用権を有する者が,その利用権限を超えて地上に大量の廃棄物を堆積させ,容易に原状回復をすることができないようにしたときは,所有者の占有を排除し自己の支配下に移したものとして,不動産侵奪罪が成立する。
理 由
一 弁護人新谷桂,同水野靖史の上告趣意のうち,判例違反をいう点は,事案を異にする判例を引用するものであって,本件に適切でなく,その余は,単なる法令違反の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
二 なお,所論にかんがみ,不動産侵奪罪の成否について,職権で判断する。原判決の認定した事実は,次のとおりである。株式会社A(以下「A」という。)は,埼玉県東松山市内の宅地1496平方メートル(以下「本件土地」という。)を地上の作業所兼倉庫等の建物5棟とともに所有していたものであるが,振り出した小切手が不渡りとなったことから,平成8年2月28日,債権者の一人である株式会社B(以下「B」という。)の要求により,同社に本件土地及び地上建物の管理を委ねた。Bが取得した権利は,地上建物の賃借権及びこれに付随する本件土地の利用権を超えるものではなかった。Bは,同月下旬,右の権利を競売物件の売買仲介業を営むC株式会社(以下「C」という。)に譲り渡した。そのころ,Aは,代表者が家族ともども行方をくらましたため,事実上廃業状態となった。建築解体業を営む被告人Dは,同年3月5日,Cから右の権利を買い受けて,本件土地の引渡しを受けた後,これを廃棄物の集積場にしようと企て,そのころから同月30日ころまでの間に,従業員である被告人Eとともに,本件土地上に建設廃材や廃プラスチック類等の混合物からなる廃棄物約8606・677立方メートルを高さ約13・12メートルに堆積させ,容易に原状回復をすることができないようにした。【要旨】以上のような事実関係の下においては,本件土地の所有者であるAは,代表者が行方をくらまして事実上廃業状態となり,本件土地を現実に支配管理することが困難な状態になったけれども,本件土地に対する占有を喪失していたとはいえず,また,被告人らは,本件土地についての一定の利用権を有するとはいえ,その利用権限を超えて地上に大量の廃棄物を堆積させ,容易に原状回復をすることができないようにして本件土地の利用価値を喪失させたというべきである。そうすると,被告人らは,Aの占有を排除して自己の支配下に移したものということができるから,被告人両名につき不動産侵奪罪の成立を認めた原判決の判断は,相当である。よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。(裁判長裁判官 井嶋一友 裁判官 小野幹雄 裁判官 遠藤光男 裁判官 藤井正雄 裁判官 大出峻郎)
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【判事事項】
使用貸借の目的とされた土地の無断転借人が土地上の簡易施設を改造して本格的店舗を構築した行為が不動産の侵奪に当たるとされた事例
【裁判要旨】
使用貸借の目的とされた土地の無断転借人が、同土地とともに、鉄パイプの骨組みに、トタンの波板等をくぎ付けして屋根にし、側面にビニールシートを結び付けるなどした同土地上の簡易施設の引渡しを受け、これを改造して、内壁、床面、天井を有し、シャワーや便器を設置した八個の個室からなる本格的店舗を構築し、解体・撤去の困難さを格段に増加させた行為(判文参照)は、不動産の侵奪に当たる。
理 由
弁護人針谷紘一の上告趣意のうち,判例違反をいう点は,事案を異にする判例を引用するものであって,本件に適切でなく,その余は,事実誤認,単なる法令違反の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。なお,所論にかんがみ,職権によって判断する。原判決の認定及び記録によると,本件の事実関係は,次のとおりである。
1 株式会社A不動産は,平成4年12月ころ,その所有する大阪市a区所在の宅地1226・15平方メートル(以下「本件土地」という。)を,転貸を禁止し,直ちに撤去可能な屋台営業だけを認めるとの約定で,Bに無償で貸し渡した。
2 Bは,そのころ,本件土地上に,(1)約36本の鉄パイプをアスファルト面に穴を開けて差し込み,これにねじ締め式器具を使って,長さ約3メートルの鉄パイプを縦につないで支柱とし,(2)支柱の上部,下部及び高さ約1・5メートルの部分に,右器具を使って鉄パイプを横に渡し,(3)以上の骨組みの上面に,鉄パイプを網の目状に配して右器具でつなぎ,その上に角材を載せて針金で固定した上,トタンの波板等をくぎ付けして屋根にし,(4)側面にビニールシートを垂らし鉄パイプにひもで結び付けて壁面とするという方法により,L字型の仮設の店舗を構築した。Bは,その後,さらに,(1)約四本の鉄パイプを埋設してセメントで固定し,(2)右パイプの上部から既存の鉄パイプに鉄パイプを渡して溶接して固定し,(3)その上部に塩化ビニール樹脂の波板を張って屋根にし,側面にビニールシートを垂らして壁面とするという方法により,これをく形にするための増築を加えた。
3 Bは,前記施設(以下「本件施設」という。)で飲食業を営んでいたが,平成6年6月ころ,Cに対し,本件土地を転貸や直ちに撤去できる屋台以外の営業が禁止されていることを伝えて賃貸し,本件土地及び本件施設を引き渡した。
4 Cもまた,本件施設で飲食業を営んでいたが,同年11月ころ,被告人に対し,本件土地を転貸や直ぐ撤去できる屋台以外の営業が禁止されていることを伝えて賃貸し,本件土地及び本件施設を引き渡した。
5 被告人は,同月下旬ころから同年12月1日ころにかけて,(1)本件施設の側面の鉄パイプにたる木を縦にくくり付けるなどした上,これに化粧ベニヤを張り付けて内壁を作り,(2)本件土地上にブロックを置き,その上に角材を約1メートル間隔で敷き,これにたる木を約45センチ間隔で打ち付け,その上にコンクリートパネルを張って床面を作り,(3)上部の鉄パイプにたる木をくくり付けるなどした上,天井ボードを張り付けて天井を作り,(4)たる木に化粧ベニヤを両面から張り付けて作った壁面で内部を区切って8個の個室を作り,各室にシャワーや便器を設置するという方法により,風俗営業のための店舗(以下「本件建物」という。)を作った。
6 本件建物は,本件施設の骨組みを利用して作られたものであるが,同施設に比べて,撤去の困難さは,格段に増加していた。以上によれば,Bが本件土地上に構築した本件施設は,増築前のものは,A不動産との使用貸借契約の約旨に従ったものであることが明らかであり,また,増築後のものは,当初のものに比べて堅固さが増しているとはいうものの,増築の範囲が小規模なものである上,鉄パイプの骨組みをビニールシートで覆うというその基本構造には変化がなかった。ところが,【要旨】被告人が構築した本件建物は,本件施設の骨組みを利用したものではあるが,内壁,床面,天井を有し,シャワーや便器を設置した8個の個室からなる本格的店舗であり,本件施設とは大いに構造が異なる上,同施設に比べて解体・撤去の困難さも格段に増加していたというのであるから,被告人は,本件建物の構築により,所有者であるA不動産の本件土地に対する占有を新たに排除したものというべきである。したがって,被告人の行為について不動産侵奪罪が成立するとした原判断は,正当である。よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。(裁判長裁判官 福田 博 裁判官 河合伸一 裁判官 北川弘治 裁判官 亀山継夫 裁判官 梶谷 玄)
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【裁判要旨】
公園予定地の一部に無権原で簡易建物を構築するなどした行為が不動産の侵奪に当たるとされた事例
【判示事項】
東京都の公園予定地の一部に、無権原で、角材を土台とし、要所に角材の柱を立て、多数の角材等からなる屋根部分を接合し、周囲をビニールシート等で覆うなど容易に倒壊しない骨組みを有する簡易建物を構築し、相当期間退去要求にも応じなかった行為(判文参照)は、不動産の侵奪に当たる。
1 刑法235条の二の不動産侵奪罪にいう「侵奪」とは、不法領得の意思をもって、不動産に対する他人の占有を排除し、これを自己又は第三者の占有に移すことをいうものである。そして、当該行為が侵奪行為に当たるかどうかは、具体的事案に応じて、不動産の種類、占有侵害の方法、態様、占有期間の長短、原状回復の難易、占有排除及び占有設定の意思の強弱、相手方に与えた損害の有無などを総合的に判断し、社会通念に従って決定すべきものであることは、原判決の摘示するとおりである。
2 本件で起訴の対象となっている平成8年2月下旬ころの時点あるいはそれに引き続いて西側に増築された時点における本件簡易建物の性状を示す的確な証拠がないことも、原判決の指摘するとおりである。しかし、【要旨】捜査段階において検証が行われた平成9年8月1日当時の本件土地の状況について見ると、本件簡易建物は、約110・75平方メートルの本件土地の中心部に、建築面積約64・3平方メートルを占めて構築されたものであって、原判決の認定した前記構造等からすると、容易に倒壊しない骨組みを有するものとなっており、そのため、本件簡易建物により本件土地の有効利用は阻害され、その回復も決して容易なものではなかったということができる。加えて、被告人らは、本件土地の所有者である東京都の職員の警告を無視して、本件簡易建物を構築し、相当期間退去要求にも応じなかったというのであるから、占有侵害の態様は高度で、占有排除及び占有設定の意思も強固であり、相手方に与えた損害も小さくなかったと認められる。そして、被告人らは、本件土地につき何ら権原がないのに、右行為を行ったのであるから、本件土地は、遅くとも、右検証時までには、被告人らによって侵奪されていたものというべきである。
3 前記一の事実については、殊にその特定する時期における不動産侵奪罪の成立を認めることができないとしても、前記一の事実と、その後遅くとも前記検証時である平成9年8月1日までの間に本件簡易建物によって本件土地を侵奪したという事実とは、基本的事実関係を同じくし、公訴事実の同一性があるというべきである。そうだとすると、原審裁判所は、右検証時までの右罪の成立の可能性について、必要であれば訴因変更の手続を経るなどして、更に審理を遂げる義務があった。ところが、原審裁判所は、刑法235条の二の侵奪の成否についての判断を誤り、右検証時における本件土地の占有状態によってもなお侵奪があったとはいえないと解した結果、右時点までの同罪の成立の可能性について何ら審理をすることなく、直ちに犯罪の証明がないとして被告人を無罪としたものであって、原審には判決に影響を及ぼすべき法解釈の誤り及び審理不尽の違法があるといわざるを得ず、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。よって、刑訴法411条1号、413条本文により、恐喝罪の成立を認めた第一審判決判示第二の所為とともに更に審理を尽くさせるため、原判決を破棄した上、本件を原審である東京高等裁判所に差し戻すこととし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。検察官小田攻 公判出席(裁判長裁判官 河合伸一 裁判官 福田 博 裁判官 北川弘治 裁判官 亀山 継夫 裁判官 梶谷 玄)
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上記判例をもとに刑事に説明してあげましょう🌸民事じゃないんだよね😊
よく間違えるのが賃貸借契約解除後,不動産を占有している行為や借主が賃貸人に無断で転貸する行為,不法な手段で登記名義を自分の名義にするだけでは,侵奪の行為があったとはいえないことに要注意!
「You have to expect things of yourself before you can do them.(何事でも実現させるためには,まず自分自身に期待しなくてはならない。)マイケルジョーダン」,早速,挑戦者になる!