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行政書士試験「相続分譲渡」と「遺産分割」についての有名な判例(東京高決昭28・9・4)

【「相続分譲渡」と「遺産分割」についての有名な判例(東京高決昭28・9・4)】

『 抗告理由第二点及び第一二点について。記録中の,相手方A,利害関係人Bの各尋問調書並に乙第9号証の各記載を合せ考えると,相手方C,同A,同D,同Eは昭和24年11月30日相手方(原審利害関係人)B,同Fにたいして被相続人G相続財産にたいし譲渡人らが有する相続財産持分は貴殿両名に譲渡いたしますと記載した書面(乙第9号証)による意思表示をし,右B及びFがこれを承諾した事実を認めることができる。前記尋問調書の記載によると,相手方C外3名は,右B及びFに,本件被相続人Gのあとを相続させる目的をもつて前記書面による意思表示を為し,右B及びFもその趣旨をもつて承諾をしたものであることが認められること及び,前記合意の意味は相続財産中の負債は承継させないとか,資産部分のみを譲り渡すのだとみられるような別段の事情が認められないことに徴し,前記合意は前記の相手方C外3名がおのおの共同相続人の一人たる法律上の地位すなわち相続分を前記B及びFに譲り渡す旨の合意と解するのが相当である。かような,相続分の譲渡は,これによつて共同相続人の一人として有する一切の権利義務が包括的に譲受人に移り,同時に,譲受人(本件においては前記B同F)は遺産の分割に関与することができるのみならず,必ず関与させられなければならない地位を得るのである。原審が本件遺産分割手続に相手方(原審利害関係人)B,同Fを参加させて審理をしたのは正当である。
<要旨第一>また,相手方A外三名と相手方B,Fとの間の行為は,前段説明のような意味の相続分の譲渡であつて,相続財産に属する個別的財産(個々の物または権利)に関する権利の移転ではないから,各種個別的権利(物権債権鉱業権その他工業所有権といわれる類)の変動について定められる対抗要件の諸規定の,なんらかかわるところではない。抗告人の所論はいずれも採用できない。
抗告理由第三点について。
このような場合に相手方A外3名を手続から脱退させるべきだという明文の規定は,家事審判法,家事審判規則及びこれらによつて準用させるすべての法律規則中に存在せず,また,これらの解釈からもかような結論はでてこない。所論は抗告人独自の見解であつて採用に価しない。
抗告理由第四点ないし第9点について。
右抗告理由は要するに原裁判所が証拠によつてなした事実の認定を攻撃するものであるが,記録にあらわれた諸証拠を考え合わせると,原審判認定のとおり認めるのが相当であるから抗告人の所論は採用しない。
抗告理由第一〇点について。
本抗告理由は要するに原審判における遺産分割の方法が相当でないということを抗告人らの主張事実を根拠として強調するものであるが,原審判の理由説明によれば,右審判における遺産分割方法はなんら不当ではない(ただし,抗告理由第11点について説示する点を除く)からこの点も採用の価値がない。
抗告理由第11点について。
成立に争のない甲第9,第23なし第25号証,原審証人Hの証言及び原審における抗告人I,同Jの各供述を綜合すると,抗告人らのうちには,利害関係人Fまたは同人夫妻に手切金あるいわ慰藉料名義で相当の金円を贈与する意思のあつたことは十分にうかがわれるところであるが,右証拠によると,抗告人らが本件審判の実情として右Fにたいし手切金六万円を贈与する意思あることを述べたのは,抗告人らの本件申立の趣旨が容れられ,本件遺産たる物件が抗告人Hの所有となり,Fが本件建物から退去するにいたることを前提条件とするものと解するのを相当とする。したがつて原審判のように相手方等及び利害関係人らの申立が容れられるような場合においては,抗告人らにはFにたいし,手切金あるいわ慰籍料贈与の意思のないことは明らかであるから,原裁判所がその意思あるもののように判断して抗告人らに分割すべき本件遺産から右贈与金六万円を控除したことは失当といわなければならない。
<要旨第二>また,相続人は,祖先の祭祀をいとなむ法律上の義務を負うものではなく,共同相続人のうちに祖先の祭祀を主宰するものがある場合他の相続人がこれに協力すべき法律上の義務を負うものでもない。祖先の祭祀を行うかどうかは,各人の信仰ないし社会の風俗習慣道徳のかかわるところで,法律の出る幕ではないとするのが現行民法の精神であつて,ただ祖先の祭祀をする者がある場合には,その者が遺産中祭祀に関係ある物の所有権を承継する旨を定めているだけである(民法897条第1項)。したがつて,利害関係人両名が本件家屋内において,仏壇その他を整えて被相続人Gの祭祀を行つているからといつても,抗告人らにおいて利害関係人らの行う右祭祀に協力し,將来これを継続するに要する費用を分担すべき法律上の義務あるものではない。原審判が抗告人らに分割すべき本件遺産中から將来の祭祀料として金五万円を控除したことは不当といわなくてはならない。
右のとおりとすれば,原審判において認めた抗告人らの相続分にたいする本件遺産の算定価額は金五十八万四千八百五十八円四十銭であるから,これを抗告人らの各相続分に応じて算出すると利害関係人両名に,抗告人K、同J、同Lにたいしては各金十一万六千九百七十一円六十八銭、抗告人H、同I、同M、同N、同O、同
Pにたいしては各金二万三千三百九十四円三十三銭(厘以下切捨)を支払うべき債務を負担させ,利害関係人両名はこの責務について連帯責任を負うものとし,かつ主文掲記のとおりの期限に分割して支払うべきものとして,現物をもつてする分割に代えるを相当とすることは金額の点をのぞき原審判理由に説示するところによつて,おのずから明かであるからここにこれを引用する。
原審判主文二,には「申立人等は相手方等が利害関係人B同Fに対し別紙目録記載の不動産及び動産に対する二十五分の四の相続分を贈与したことを確認する」との宣言があるけれども,相続分譲渡のことは,利害関係人両名を本件遺産分割に関与させ,主文のような分割を定めるについての前提であつて,前提としてのみ判断が必要あるのであつて,すでに分割を定める手続に進んでいる以上,裁判の主文において宣言する利益も,必要もないものである。また,原審判主文三,には「申立人等並に相手方等は利害関係人B,同Fに対し,別紙目録記載の不動産につき申立人K,同J,同Lは各二十五分〇五の,爾余の申立人等及び相手方等は各二十五分の一の割合を以て共同相続による所有権取得の登記を為した上これを申立人等は売買に因る,相手方等は贈与に因る所有権移転登記を為せ。若し申立人等及び相手方等が右各登記を為さないときは利害関係人B,同Fは申立人等及び相手方に代つて自ら右各登記手続を為すことがてきる」とある。
しかしながら,遺産の分割は,相続開始の時にさかのぼつてその効力を生ずるのであり(民法第909条),分割によつて相続人の一人に属するにいたつた財産は,その相続人が直接に被相続人から承継したことになるのである。したがつて遺産に属する不動産について相続登記が,まだしてないかぎりは,協議によつたにせよ,審判によつたにせよ,分割のことがきまつたら,分割によつて不動産を取得した者が,被相続人名義の登記から直接に取得するものとして登記することができる。あえて共同相続による相続登記をして,さらに分割によつて単独の権利者となつた者へ権利移転の登記をするという手数をかける必要はない。このことは相続分を譲受けた第三者についても同様と解さなければならない。記録によると,本件遺産中の別紙目録不動産について相続登記はしてないと認められるから,原審判の前記主文のような宣言は必要がない。
 よつて,原審判は,これを変更するを相当と認め,家事審判規則第19条第2項,家事審判法第7条,非訟事件手続法第28条第29条,民事訴訟法第93条によつて主文のとおり決定する。
 (裁判長判事 藤江忠二郎 判事 原宸 判事 浅沼武)


【新民法(改正なし)】

第905条(相続分の取戻権)
共同相続人の一人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは,他の共同相続人は,その価額及び費用を償還して,その相続分を譲り受けることができる。
2 前項の権利は,1箇月以内に行使しなければならない。