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「暴行罪」,「力学的以外のエネルギーによる暴行」

【力学的以外のエネルギーによる暴行】

【昭和29年8月20日,最高裁判所第2小法廷,暴力行為等処罰に関する法律違反】

【裁判要旨】

刑法第208条にいう暴行の意義


【判事事項】

刑法第208条にいわゆる暴行とは、人の身体に対し不法な攻撃を加えることをいい、加害者が、室内において相手方の身辺で大太鼓、鉦等を連打し、同人等をして頭脳の感覚が鈍り意識もうろうたる気分を与え、または、脳貧血を起させたりする程度に達せしめたる場合をも包含するものと解すべきである。

主文
本件各上告を棄却する。
理由
弁護人藤井英男、同上田誠吉の上告趣意第一点について
論旨は憲法31条違反をいうが,その実質は法令違反の主張であつて刑訴405条の上告理由にあたらない。なお,刑法208条にいう暴行とは人の身体に対し不法な攻撃を加えることをいうのである。従つて第一審判決判示の如く被告人等が共同して判示部課長等に対しその身辺近くにおいてブラスバンド用の大太鼓,鉦等を連打し同人等をして頭脳の感覚鈍り意識朦朧たる気分を与え又は脳貧血を起さしめ息詰る如き程度に達せしめたときは人の身体に対し不法な攻撃を加えたものであつて暴行と解すべきであるから同旨に出でた原判示は正当である。
同第二点について
憲法28条は勤労者の団結権,団体交渉その他の団体行動権を保障しているが,この保障もかかる勤労者の権利の無制限な行使を許容し,それが国民の平等権,自由権,財産権等の基本的人権に優位することを是認するものではなく,従つて勤労者が労働争議において使用者側の自由意思を剥奪し又は極度に抑圧するような行為をすることを許容するものではない(昭和23年(れ)1049号同25年11月15日大法廷判決,集4巻11号2257頁以下参照)。そして,被告人等の本件犯行は昭和25年5月19日及び22日の両日になされたものであるが,昭和24年法律第174号により改正された労働組合法1条2項の規定も同条一項の目的達成のためにした正当行為についてのみ刑法35条の適用を認めたに過ぎないのであつて,勤労者の団体交渉においても,刑法所定の暴行罪又は脅迫罪にあたる行為が行われた場合にまでその適用があることを定めたものでないと解すべきことは,当裁判所大法廷の判例(昭和22年(れ)319号同24年5月18日宣告,集3巻6号772頁以下参照)とするところである。原判決の是認した第一審判決の認定した事実によれば,被告人等が所謂職場交渉をなした際,それぞれ他の組合員と共に多衆の威力を示し,且つ共同し判示のような歌を高唱したり或は大太鼓または鉦等を連打したりして喧噪に及びよつて会社側職員であるA外7名又はB外1名を悩まして暴行を加えたというのであつて,かかる被告人等の所為が,労働組合法1条1項の目的達成のためにする正当行為であるとは認めることができないことは前記判例の趣旨に徴し明らかである。されば,原判決には所論のような違法はなく,論旨は採用することができない。被告人C,同D,同Eの各上告趣意についていずれも事実誤認,法令違反の主張に帰し,刑訴405条の上告理由に当らない。なお記録を調べても本件につき刑訴411条を適用すべきものとは認められない。よつて刑訴408条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。昭和29年8月20日 最高裁判所第二小法廷 裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯 一 郎