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行政書士試験過去問 民法第567条目的物の滅失等についての危険の移転

【令和5年行政書士試験出題】

【問題】AとBとの間でA所有の美術品甲(以下「甲」という。)をBに売却する旨の本件売買契約が締結された。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定に照らし、妥当なものはどれか。

1 Aは、Bが予め甲の受領を明確に拒んでいる場合であっても、甲につき弁済期に現実の提供をしなければ、履行遅滞の責任を免れない。

2 Aは、Bが代金の支払を明確に拒んでいる場合であっても、相当期間を定めて支払の催告をしなければ、本件売買契約を解除することができない。

3 Aが弁済期に甲を持参したところ、Bが甲を管理するための準備が整っていないことを理由に受領を拒んだため、Aは甲を持ち帰ったが、隣人の過失によって生じた火災により甲が損傷した。このような場合であっても、Bは、Aに対して甲の修補を請求することができる。

4 Aが弁済期に甲を持参したところ、Bが甲を管理するための準備が整っていない ことを理由に受領を拒んだため、Aは甲を持ち帰ったが、隣人の過失によって生じた火災により甲が滅失した。このような場合であっても、Bは、代金の支払を拒むことはできない。

5 Aが弁済期に甲を持参したところ、Bが甲を管理するための準備が整っていないことを理由に受領を拒んだため、Aは甲を持ち帰ったが、隣人の過失によって生じた火災により甲が滅失した。このような場合であっても、Bは、本件売買契約を解除することができる。


【昭和32年6月5日,最高裁判所大法廷,家屋明渡請求】

【判事事項】

弁済を受領しない意思が明確な債権者に口頭の提供をしない場合と債務不履行


【裁判要旨】

債権者が契約の存在を否定する等、弁済を受領しない意思が明確と認められるときは、債務者は言語上の提供をしなくても債務不履行の責を免れるものと解すべきである。

債権者が予め弁済の受領を拒んだときは、債務者をして現実の提供をなさしめることは無益に帰する場合があるから、これを緩和して民法493条但書において、債務者は、いわゆる言語上の提供、すなわち弁済の準備をなしその旨を通知してその受領を催告するを以て足りると規定したのである。そして、債権者において予め受領拒絶の意思を表示した場合においても、その後意思を翻して弁済を受領するに至る可能性があるから、債権者にかかる機会を与えるために債務者をして言語上の提供をなさしめることを要するものとしているのである。しかし、債務者が言語上の提供をしても、債権者が契約そのものの存在を否定する等弁済を受領しない意思が明確と認められる場合においては、債務者が形式的に弁済の準備をし且つその旨を通知することを必要とするがごときは全く無意義であつて、法はかかる無意義を要求しているものと解することはできない。それ故、かかる場合には、債務者は言語上の提供をしないからといつて、債務不履行の責に任ずるものということはできない。
そして、本件第一審では、上告人(原告、控訴人)は、被上告人(被告、被控訴人)が上告人に損害を及ぼす工事を上告人に無断でしたとの契約条項違反だけを理由として本件賃貸借の解除をしたと主張し、これを前提として本件貸室の明渡並びに賃料に相当する損害金の支払を訴求し、昭和27年5月17日その弁論を終結したが、同年6月19日敗訴の判決を受くるやその敗訴判決の後である同年同月27日附を以て特約に基づき催告をしないで同年5、6、7月分の賃料(前月25日払の約束)不払を原因として本件賃貸借解除の意思表示をしたという予備的請求を原審口頭弁論期日において初めて主張したものであることは、本件記録上明らかなところである。以上の訴訟経過に照らし、上告人は、前記3ケ月分の賃料を損害金としてならば格別賃料としては予めこれが受領を拒絶しているものと認められるばかりでなく、第一審以来賃貸借契約の解除を主張し賃貸借契約そのものの存在を否定して弁済を受領しない意思が明確と認められるから、たとえ被上告人が賃料の弁済につき言語上の提供をしなくても、履行遅滞の責に任ずるものとすることができない。それ故、この点に関する原判決の説示は不充分であるが、本件解除の意思表示を無効としたのは結局正当であつて、論旨はその理由がない。』


【試験ポイント】↓

【危険負担とは】・双務契約(売買等)の一方の債務が債務者の責めに帰すべき事由によらないで履行不能となった場合に,その債務の債権者の負う反対給付債務がどのような影響を受けるのかを定める制度。
※ 現534条,535条を削除,債務者主義を採用,記事はこちら
※ 契約解除の要件に関する見直しに伴い,効果を反対給付債務の消滅から反対給付債務の履行拒否権に改められた。
※ 買主が目的物の引渡しを受けた後に目的物が滅失・損傷したときは,買主は代金の支払(反対給付の履行)を拒めない(新567条1項)。
1✖【昭和32年6月5日,最高裁判所大法廷,家屋明渡請求】
2✖ 民法542条(催告によらない解除)1項2号
3✖ 民法567条(目的物の滅失等についての危険の移転)1項
4〇 民法567条(目的物の滅失等についての危険の移転)1項
5✖ 民法567条(目的物の滅失等についての危険の移転)1項

解答4


【民法(改正対応)】↓

第493条(弁済の提供の方法)
弁済の提供は、債務の本旨に従って現実にしなければならない。ただし、債権者があらかじめその受領を拒み、又は債務の履行について債権者の行為を要するときは、弁済の準備をしたことを通知してその受領の催告をすれば足りる。

第534条及び第535条 削除

第536条(債務者の危険負担等)
当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

第542条(催告によらない解除)
次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。
一 債務の全部の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。
四 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。
五 前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。
2 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の一部の解除をすることができる。
一 債務の一部の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。

第567条(目的物の滅失等についての危険の移転)
売主が買主に目的物(売買の目的として特定したものに限る。以下この条において同じ。)を引き渡した場合において、その引渡しがあった時以後にその目的物が当事者双方の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、買主は、その滅失又は損傷を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。この場合において、買主は、代金の支払を拒むことができない。
2 売主が契約の内容に適合する目的物をもって、その引渡しの債務の履行を提供したにもかかわらず、買主がその履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、その履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその目的物が滅失し、又は損傷したときも、前項と同様とする。