業務・試験対策

MEASURES

大阪府警 脅迫罪について

被告人を罰金30万円に処する。その罰金を完納することができないときは,金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
理 由(罪となるべき事実)
被告人は,警部補として大阪府東警察署(以下「東署」という。)刑事課に勤務し,司法警察員の職務を行っていたものであるが,平成22年9月3日午後2時10分ころから午後5時20分ころまでの間,大阪市(以下略)所在の株式会社B社の駐車場に停車中の車両(以下「本件車両」という。)内及び同市(以下略)所在の東署3階取調室(以下「本件取調室」という。)において,遺失物横領事件の被疑者としてAの取調べ(以下「本件取調べ」という。)を行った際,Aに対し,同日午後2時30分ころ,本件車両内において,「プレスも喜ぶで報道も,こんな話。最近ネタに困っとるらしいから。」(以下「脅迫文言①」という。),「お前の人生無茶苦茶にしたるわ。」(以下「脅迫文言②」という。)と申し向け,同日午後3時8分ころ,本件取調室内で,「お前今ほんま殴りたいわ。」(以下「脅迫文言③」という。)と申し向け,さらに,同日午後3時35分ころ,本件取調室内で,「殴るぞお前。お前こら,なめとったらあかんぞ。手出さへんと思ったら大間違いやぞ。」(以下「脅迫文言④」といい,脅迫文言①ないし③と合わせて「本件各脅迫文言」という。)と怒号し,もって,同人の身体・名誉に危害を加えるような気勢を示して同人を脅迫したものである。
(証拠の標目)
省略
(法令の適用)
省略
(量刑の理由)
1 本件は,警察官である被告人が,本件取調べを行うに際し,本件各脅迫文言を申し向けて脅迫したという事案である。
2(1)被告人が本件犯行に至る経緯は,おおむね以下のとおりである。
ア 被告人は,大阪府警察警部補として,平成21年3月から大阪府東警察署刑事課引継捜査係長の職にあり,平成21年12月に女性が遺失した財布が横領されたとされる事件(以下「先行事件」という。)の捜査を担当していたが,先行事件の被害者Cから事情聴取した結果,Cが犯人と思われる者からのメールを受け取るなどして非常に不安に思っていることを知り,被告人自身,まもなく長女が生まれてくることもあって,Cの境遇に深く同情し,その不安を解消するために何とか被害品である財布や免許証を犯人から取り返したいとの思いを強くしていたところ,平成22年9月までの内偵捜査の結果,Aが,先行事件の被疑者として浮上し,被告人は,Aが先行事件の犯人であるとの疑いを深めていた。
イ 被告人は,Aが前科前歴のない会社員であったことから,被告人ら警察官が任意で取り調べれば,それだけで驚いて犯行を自白し,被害品である財布等も素直に返却するであろうから,Cの不安も手早く解消できると見込むとともに,そうであれば,Aの家庭環境等への影響を少なくするため,Aを逮捕し,あるいはAの自宅等に対し捜索差押えを実施するなどの強制捜査に着手することはなるべく避けたいとの思いもあり,現に,Aの家庭や職場の周辺を捜査するときには,同人の家庭環境や職場関係の維持のため,本件被害者に犯罪の嫌疑がかかっていることがAの家族や近隣の者,更には職場の同僚等に明らかとならないように配慮していた。
ウ このようななか,被告人は,本件犯行当日,部下である大阪府東警察署刑事課引継捜査係所属のD巡査部長とともに,B社に赴き,その駐車場に停車した本件車両内でAに対し,同日午後2時10分ころから,自己が警察官であることを明かした上で本件取調べを開始し,その開始直後から拾った財布を出すように申し向け,さらに,Cに対しメールを送ったことをただしたところ,Aは,「いやぁ,知りません。」などと答えた。被告人は,自己の見込みに反してAが犯行を否認したことに戸惑うとともに,Aが先行事件の犯人であるとの疑いを更に強め,Cに早く財布を返してやりたいとの思いや,Aに対する強制捜査の着手を避けたいとの思いも加わって,Aの態度に対するいら立ちを強め,「知らん言うたらお前大変なことになるぞ。」,「財布出せ。」と繰り返し怒号するなどしたが,Aの答えは変わらなかった。
エ 被告人は,Aが強制捜査の着手を避けようとした被告人の思いを分かろうとしないとして,Aの対応に落胆するとともに,そうであれば,強制捜査に着手することになるが,それによりAに大きな影響が及ぶことを思い知らせてやろうと考え,同日午後2時30分ころ,Aに対し,脅迫文言①及び脅迫文言②を申し向けた。
オ 被告人は,その後,Dとともに,Aを東署に任意同行し,同日午後3時6分ころ,本件取調室でAに対し,所持品検査には容易に応じるだろうと見込みつつ,その提出を求めたところ,Aはこれを拒否した。ここにおいて,被告人は,Aの家庭環境等に配慮して強制捜査に着手することを避けてきた被告人の思いが踏みにじられたと考えて,これに立腹し,同日午後3時8分ころ,脅迫文言③を申し向けた。
カ 被告人は,その後も,一方的にまくし立てるようにして,時には怒号し,時には懇願するような口調で,Aに対し,これまでの先行事件の捜査経過を説明し,さらに,強制捜査の着手を避けたいと思っている旨自己の思いを伝えるなどしたが,Aは,被告人が求めるような供述をせず,黙るなどした。被告人は,このようなAの態度などから,自己がAから嘲笑されているようにも感じて,これに激高し,同日午後3時35分ころ,Aに対し,脅迫文言④を怒号した。
(2)上記のような経緯を見ると,被告人は,上記(1)・ウのとおり,Aが先行事件の犯人であり,その被害品を所持していると決めつけ,手っ取り早く被害品を回収しようとするあまり,当初からAの言い分をじっくり聞こうともせず,一方的にまくし立てるように話し,あるいは,繰り返し怒号するなどして自己の求めるような供述を迫り,あるいは被害品の提出を求めているのである。このような被告人の取調手法は,捜査官の一方的な思い込みに基づいてその考えを押し付けるものにほかならず,虚偽の自白を招き,ひいてはえん罪を生みだす温床になるものであって,被告人に上記(1)・ア,イのとおり,Cの財布を早く取り返し,また,Aに大きな影響を及ぼす強制捜査に着手することを避けたいとの思いがあったことを考慮しても,到底許されるものではない。被告人は,このような違法な取調べを続けるなかで,上記(1)・エ,オ,カのとおり,Aが自己の思うような供述態度を取らないことに対し,落胆し,あるいは立腹,激高して衝動的に本件犯行に至ったものであり,その短絡的かつ感情的な動機は,冷静であるべき捜査官にあってはならないことというべきである。
3(1)ところで,検察官は,被告人を脅迫罪として起訴した上,当裁判所が訴因変更の有無等について釈明を求めたのに対し,検察官の起訴に係る脅迫文言は本件各脅迫文言のみであり,それ以外の被告人の言動を訴因に含め,あるいは罪名について訴因変更をする意思はない旨明言している。これからすれば,当裁判所としては,被告人を脅迫罪として処断することになるが,その際,本件各脅迫文言以外に被告人が本件取調べにおいてAに発した言動につき,量刑上それ自体を処罰するような考慮を行うことは許されない。
しかしながら,検察官の起訴に係る本件各脅迫文言の内容だけを見ても,脅迫文言①及び②において,被告人は,Aの社会的評価を害することを告知しているが,これは,怒号こそしていないものの,被告人が強制捜査権限を有する警察組織の一員であり,かつ,先行事件の捜査の過程でAの家庭環境等を熟知していたことからすれば,Aを殊更精神的に追い詰めるものというべきである。また,脅迫文言③において,被告人は,Aが被告人の望む供述態度を取らないと知るや,Aに対し直接暴行を加えたい気持ちであることを告知し,さらに,
脅迫文言④において,被告人は,Aに直接暴行を加える旨怒号して,その脅迫の程度を強めていっている。以上からすれば,本件犯行態様は悪質というべきである。
(2)Aは,本件車両や本件取調室内という密室内において,被告人とDに囲まれ,孤立無援の状態の中で,本来であれば助けを求めるべき警察官である被告人から,本件各脅迫文言を告知される被害に遭ったものであって,Aが被った精神的苦痛は大きく,被告人に対し厳しい処罰感情を持つのも十分理解できる。また,本件犯行により,警察捜査に対する信頼も大きく損なわれたものであって,その結果は軽視できない。以上からすれば,被告人の刑事責任は軽視できず,懲役刑の選択も考えられる事案である。4(1)しかしながら,他方で,被告人は,上記2・(2)のとおり,被告人なりにAのため強制捜査に着手することを避けたいとの思いがあり,それがAにわかってもらえないことへのいら立ちから突発的かつ衝動的に本件犯行に至ったものであって,これからすれば,本件犯行は,Aを殊更不利に取り扱い,あるいはより法定刑の重い罪に問う意図のもとで計画的に行われたものとはいえない。
(2)また,被告人は,前科前歴がないことはもちろん,平成14年4月に大阪府警察官を拝命した後も,まじめに勤務し,平成18年4月から刑事として捜査に携わるようになった後も,その取調べにおいて問題を起こすことなく職務に励み,平成16年10月に巡査部長に,平成19年10月に警部補に昇進し,本件犯行当時も,その仕事ぶりが,上司からも部下からも評価されていたものであって,本件以外にこのような取調べを行っていたことはうかがえない。もっとも,そのように優秀な警察官として警察内部で評価されてきた被告人が,衝動的に本件犯行に至ったこと自体に問題の根深さがあるというべきであって,これを本件に即して見ると,Dにあっては,本件各脅迫文言が発せられたときに終始立ち会いながら,上司である被告人への遠慮があったとはいえ,被告人が本件各脅迫文言を告げるについて何らとがめ立てしていないことや,本件当時東署内にいた警察官の誰もが被告人の犯行に気付いていないことが指摘できる。また,大阪府警察内部において,被告人ら個々の警察官に対する指導教育に際し,いかなる場合であっても本件のような取調べを行ってはいけないという意識を周知徹底できず,さらには,本件のような違法な取調べが行われないよう監視する体制を運用・構築できていなかったともいえる。これらに鑑みれば,大阪府警察内部の意識や体制にも本件を誘発した一因があったというべきである。
(3)さらに,被告人は,当公判廷において,自らが被疑者の立場に立たされて,改めてAの苦しみがわかった,本件被害者には申し訳ない気持ちでいっぱいであるなどと述べて反省の態度を示し,Aから受取りを拒否されているものの,50万円の被害弁償を申し出ている。また,被告人は,自己が刑事として失格であり,捜査の現場に戻るつもりはない旨述べているところ,現に被告人は,本件犯行後,東署刑事課引継捜査係長を解任されて捜査の現場を外され,今後も捜査に携われる見込みはないというのであって,この点で本件のような犯行を重ねるおそれはない。加えて,被告人は,減給の懲戒処分を受けたほか,本件が被告人の写真や実名を明らかにした上で大きく報道されるなど,一定の社会的制裁を受けている。
(4)以上に加えて,被告人には,妻のほか平成23年1月に生まれた長女を含めて被告人に生計を頼る4人の幼い子どもがいるが,懲役刑を選択した場合,被告人は捜査に携わらない警察官としても失職を余儀なくされることなど,被告人のために酌むべき事情も少なくはない。
5 そこで,以上の諸事情を総合考慮して,被告人に対して,罰金刑を選択することとするが,その金額は法定刑の上限である30万円とするのが相当である。
(求刑)
罰金20万円
平成23年4月28日
大阪地方裁判所第11刑事部
裁 判 長 裁 判 官 岩 倉 広 修
裁 判 官 並 河 浩 二
裁 判 官 植 野 賢 太 郎


この検察官,裁判官はすばらしい。「冤罪」を引き起こすことのないよう,徹底した職人ぶりの判決です。これに対して,素人が介入すると「冤罪」ありきです。また,それが組織等になった場合は,昇進等しか考えていない・検察官・裁判官になると,このような判決にはならなく,冤罪も認めてしまう,とんでもない判決になるのも現実です。なんとか,優秀な検察官・裁判官に頑張って欲しい。